小ネタ⑥

注意事項
 本作は「館長」さんの「創作天文台」にて掲載中の「魔法少年ロジカルなのは」のパロディ(三次創作)です。
 館長さんや原作者様から、怒られたら……多分、すぐに更地になります。
 本作は「魔法少年ロジカルなのは6-4」からの強制分岐です。
 なお、桃子さんが理不尽なまでに最強で、プレシアさんは原作、及びロジカルとは逆方向に壊れております。
 以上の事に注意して、納得した上で読んで下さると嬉しいです。

 小ネタ⑥

 雪やこんこん 霰やこんこん
 降っては 降っては ずんずん積もる
 山も野原も 綿帽子かぶり
 枯れ木残らず 花が咲く

 アタシはここに来て初めて教えて貰ったばかりのお気に入りで、ピッカピカな歌を小躍りしながら上機嫌に歌う機嫌良く跳ねる。 それは一面の銀世界。
 季節は一月。 新たな年を迎えたばかりで、山の木々も空の色さえも まだまだ寂しい自然の風景。 だけど、年末から年を超えて降り続いた粉雪は そんな寂しさを覆い尽くして一面を神秘的な白さで包み込んでしまう。
 この『雪』というものを アタシは知らない。
 生まれて初めて見る その綺麗な光景に魅入られ、全身に吹き付ける冬の寒さも忘れて居候中である高町家の庭を駆け回る。
 内心手狭…… それでもこの世界における一般家庭の平均を超える広さだけど、そんな不満さえあっさりと吹き飛ばす。
 フェイトの家…… 正確には あのババァの…… いや違、その母親所有の庭園や親友である アリサ、すずかの住む豪邸に見合うような敷地に比べれば全然小さ…… 家庭的な庭だけど、今の アタシの躍動し続ける心には何も関係ないことだ。

 シャッ シャッ シャッ

 サクサクと四肢を呑み込んでいく冷たい感触が興奮に火照った心と身体に心地よい。
 踏み込むたびに四肢が真っ白いキャンパスに彩りを加えていく。 その積もったばかりの新雪を踏みしめる音が、その感触がなんとも堪らない。
 説明しようのない楽しさを抑えきれずに顔が綻んでいるのを自覚し先程からノリノリな鼻歌が止まることはない。

 雪やこんこん 霰やこんこん
 降っても降っても まだ降りやまぬ
 犬(アタシ)は喜び 庭駆けまわり
 ユーノが…… 棺で固くなる?

 ……あれ?

 最後、ちょっと違ってるかい?

 重箱の片隅に某シスコン提督の発動させたエターナルコフィンでカチコチになった変態イタチもどきが脳裏に浮かんだりしたけどさ…… それはきっと遠くない未来の予知夢に違いないと思えて仕方がないね。

 まあ良いかッ! アタシにはあんまし関係ない話だしね

 特に あの淫獣の協力(強制)によって得られた情報が、あの聖夜に起こった『闇の書』問題を解決した今となっては害悪だけが残って敷き詰められたような存在で……
 『必要ない』と即断で切り捨てる。

 無限書庫から得られた情報だけには感謝してるけどさ……

 そんな淫獣のことよりも 今は

「アルフ…… ど、どうかな?」

 極一般的で家庭的な庭を持つ日本家屋。 それまでビシッと締め切られ外と同じ真っ白なカーテンまで引かれていた窓が少しだけ開き、そこから アタシを呼ぶ声が聞こえてくる。
 小さくて照れたような、でも嬉しさと喜びがこぼれ落ちそうな女の子の声を アタシの聴力がはっきりと聞き取る。
 間違えるはずがない。 よく聞き慣れた この声の主は当然 アタシの主、フェイトのモノだ。

 振り返る

「へぇ……」

 驚き、そのまま魅了され呆然としてしまう。
 見つめる視線が一点に集ったまま その動きを止める。
 それはほんのわずかな瞬間。 アタシの心全てを釘付けにする フェイトの晴れ着姿。
 今日この日、これから出かける初詣のために整えられた それは、冷たい冬を越え訪れる春を想像させる若草色を基調とし、その新緑にひっそりと、でも確実に その存在を主張するようにあしらわれるのは桃色に煌めく桜の花びら。
 慣れない格好に加えて緊張に頬を赤く染める その様子に、いつもと違う フェイトを見いだして思わずジロジロと見つめてしまう。

「へ、変じゃない……かな?」

 窓を挟んだ庭と部屋。 その境界を超えるように伝わってくる フェイトの声と表情に不安の色が浮かぶ
 アタシの使い魔としてリンクする回線からも不安の感情が伝わってくる
 そこでようやく アタシは何も言葉に変えていないことに気付く
 伝えることさえ忘れ、大切な気持ちを言葉にしていないことに思い至る

 はッ!? 不味いよ! フェイトが不安に感じてる!? ついつい見とれてたよッ!!

「似合ってる! 全然変なんかじゃないよ!! その格好……ハレギ? キモノ? フェイトに とっても似合ってるよ!!」
「……本当?」

 必死の弁明……
 けれど フェイトの表情は晴れてくれない
 どうも自分の格好にいまいち自信が持てないみたいだね?
 不味い…… 美辞麗句ってやつがとんと出てこないよ…… 悲しいくらいに語呂が乏しい
 アタシはこういったのは苦手だよぅ

「そうだよ!! アリサ達…… いや、シグナム、シャマルにも負けないくらい大人っぽい美人さ!!」
「そ、そぅかな?」

 ほっぺをほんのり桜色に染まり フェイトの機嫌が良くなるのが分かる
 もう、ちょっと自棄っぱち
 でも そんなの関係ねぇッ
 きっと十年後には あの二人に負けないくらい、ぐらまーな美人になるさ!
 プレシアの遺伝子継いでるからスタイルは問題無し!!
 だけど性格だけは遺伝してない……よね?

「そうだよ!! これなら絶対 なのはだって……」

 そこでハタと気付く
 それと同時に言葉が詰まる

「……あれ、なのはは?
 たしか、プレシアのやつが その晴れ着をクリスマスプレゼントとして フェイトのとお揃いで贈ってきてたんだよね?」
「なのはは……」

 アタシは唐突に脳裏に走った疑念に縋り、ちょいと気まずい場の雰囲気を濁しにかかる
 ふぅ…… どうやら それは功をそうしたみたいだね
 フェイトは形容しがたい視線を部屋の奥へと向け、ここから回想シーンへと入っていく

『お母さん、これって女の子用だよ…… 間違っているんだよね?』
『な、なんで…… なんでそんなにも素敵な笑顔のまま無言なの? ねぇ…… お母さん?』
『……なのは?
 この晴れ着はね。 フェイトちゃんのお母さん、プレシアが この国の『初詣』という行事を知って(調べて)わざわざ贈ってきてくれたモノなのよ』
『わ、分かってるけど…… これどう見ても女の子モノだし……
 ほら、きっと何かの手違い? で…… だから『問題無いわよん』……お母さん』
『この着物にはね…… プレシアの暖かい真心が篭もっているの』
『『真心』って……真っ直ぐな気持ち? 本音か本心?
 そこにどんな『気持ち』が篭もっているのか小一時間くらいは話し合いたい気持ちだけど……』
『誰かから受けた恩を仇で返しては駄目……
 人の優しさを一方的に否定するような人になっては駄目……
 思いやりに泥を掛けるようなことをしては駄目……
 なのはなら分かっているわよね?』

 ギリギリギリギリ

『わ、分かってる(砕ける)! 分かってる(砕ける)からッ!! そんなに強く肩を抱きしめないでよ!!』
『あら ごめんなさい』
『ふぅ…… これ、痣になってるかも『つまり、この場合は着ることこそが最大の感謝!! 最高の返礼!!』……はにゃ?』
『フェイトちゃん共々……既に撮影会の準備は万端よ』
『へ、へぇ……』
『さて、なのはの理解も得られたところで…… お着替えタイムね!』
『あぅ 私に選択権が無いことだけは理解出来たよ……』

「……っていうことがあったんだ」
 軽い溜息と共に言葉を吐き出し フェイトが二人のやり取りを締めくくる。

 以上、回想終わり

「なんか アタシ……」
 清流のような清々しい何かが胸を満たしていく
「今まで なのはに騙されたこととか、ボコボコに殴り飛ばされたことを含めて、過去のいざこいの全てが、優しい気持ちで許せるような気がするよ」

 ソファーでぐったりと伸びているだろう なのは(晴れ着着用済み)が用意に想像出来て憐れみ…… いや、かなり寛容な心がグリグリと迫り上がってくる
 胸の支えが清々しく…… いや、かつてのいざかいで芽生えたドス黒く、でっかい憎しみは跡形もなく絶え、今の アタシの心は湖面の如く静かで穏やかだ

「なのはは最近の母さんのお気に入りだから……」

 ああ、それは同意だね
 でも、そのおかげで フェイトへの(過度な)愛情表現が半分位になったのは本当にありがたいけどさ

「それを言うなら フェイトに対しても相当なモンだったと思うけど……
 まあ、なのはや 桃子のおかげで アタシ達の被害が減ったのだけは真実だからねぇ」

 うん、なのはの母親、『桃子さん』という親友……ここでは信念を共にする同士?を得、なのはと、そして未来に誕生する(ことを熱望している)であろう孫達へと、プレシアの愛情パワーが分散してくれたおかげでどれだけ助かっていることか……
 まったく、感謝してもしきれない位だよ
 もっとも、愛情の対象が増えたことで元からあった愛情パワーが増大しつつあるのは末恐ろしいけど……
 それでも プレシアの身体は一つだけだからッ!!
 一人にしておくと何かえげつないこととか計画しそうだしさッ!!

 怒濤の如くこみ上げてくる憤りを、無力さゆえに変えられない理不尽に対し、その想いのまま青空に向かいワォワォと吠える アタシ
 フェイトの不思議そうな視線をひしひしと背中に感じ取るがどうしてもやめられないんだ

 虚空に向かってワォワォ吠え続ける アタシと それをオロオロと見つめる フェイト
 なんだか硬直しつつある事態
 だけど それは一人の住人によって容易に崩れることになるんだ

「あッ フェイトちゃん、着物に着替えたんだ~」

 それは若い女性の声
 なのは違うよ?
 桃子さんは そこまで若くは…… いや、なんでもないなんでもない。 命は大事な宝物!

「美由希さん?」

 そう、高町家の長女
 いつもの眼鏡に フェイト、なのはと似たようなキモノ……というかその格好が巷で噂の巫女さんってやつかい?
 そういえば年末年始は知り合いのお手伝いをするって言ってたっけ?

「わッ かわぁいいぃぃーーーッ!!」
 キュッ キュキュゥゥゥゥーーーーッ
「み、みゆきさん…… あの、そのぅ……」

 それは形容しがたい効果音を放つ熱烈で熱烈な抱擁
 フェイトが目を白黒させながら アタシに『どうしよう?』の視線を向けてくるけど……

 ごめん、アタシには無理だよ?

「ほっぺもすべすべ…… 髪の毛もふわふわで気もちぃ」
「えと、そんなことは…… それに、それは着物の感想じゃないような……」

 これってスキンシップ……だよねぇ?
 恍惚の表情で頬ずりする 美由希の目が少しばかり充血して血走っているように見えるのは気のせい……だよね?

「はっはっは まったく! 俺の未来の娘は可愛いな!!」

 えぇ……と
 高町家長女に続き、高町パパ登場?
 いや、腰に両手を当てて無駄にふんぞり返えられても……
 この親父、フェイトが晴れ着に着替えている間はずっと外へと閉め出されて道場にいたはずなのに、しかも着替えが終わったのも伝えられていないはずなのに、いったい何時の間に戻ってきたんだろ?

「し、士郎さん……」
「ほら、フェイトちゃん。 士郎とーさんも似合っているって」
「はぅ……」

(悪意はないんだろうけど……
 完全におもちゃにされてるよ)

 抱きしめる 美由希が 士郎パパの言葉に乗り、ニッコリと微笑む。
 そのダブル攻撃に フェイトが頬を真っ赤に染め、身体全体で『照れる』という言葉を表現する。
 フェイトって『父親』の記憶が無いから、こういう展開にあんまり免疫がないんだよねぇ…… まあ、慣れだと思うけどさ。

「フェイトちゃん! なんなら今から『お義父さん』と呼ぶ練習をしてくれても構わないよ!
 ……女の子なら 桃子が翠屋の後継者候補に、男の子なら俺が未来のプロサッカー選手に……」
「士郎とーさん…… 後半から妄想がダダ漏れだよ?
 ……でも、私も 美由希お義姉ちゃんって呼ばれたいかも」

 浸ってる 浸ってるよ……
 この父娘、どっぷりと妄想に浸っている

 そしてSOS信号(念話)受信

《アルフ…… どうしよう?》
《どうしよったって…… これはもう、一種の病気かい?》
《私…… 士郎義父さん、美由希義姉さんって呼んだ方が良いのかな?》
《フェイトが そう呼んでも、呼ばなくても現状は変わらないと思うけどねぇ……
 むしろ悪化?》
《そ、そんな…… じゃあ 私、どうしたら……》

 現在進行形で 美由希に抱きしめ続けられる フェイトからのSOSに助けるというよりも宥める方向で念話を続ける
 このある意味 プレシアに通じる瞳の輝き……
 怖すぎる。 やり過ごすのが吉だよ?

 ……って思ってたんだけどね
 犬(狼?)生はままならないモノだよ

「だが、恭也には忍ちゃんが居て、なのはにも フェイトちゃん達が居るとなると……
 ははッ 美由希は我が家で唯一人、いき遅れ状態だな!!」

 ピキリ

 無理でした
 この親父は……

 『ガッハッハ』と豪快な笑いと共に 士郎の口から言葉が発された瞬間、ある場所……はっきり言えば一人の女性を中心に空気が凍り付き その場の雰囲気が一転する
 この親父、火に油を注ぐような真似を…… お願いだから、もっと空気読んでおくれよ
 たいがい とばっちり食うのは高町家でヒエラルキー最下層の アタシらなんだから……(ユーノ君はもっと下)

「い、いき遅れ…… そんな…… 私だけ? 私、まだ十代半ばなのに? まだまだ若いはずなのに?」
「しかも、恭也と忍ちゃんとの関係から、俺がお爺ちゃんになるのもすぐだろうな!!」

 ブチッ

 や、やばい…… やばいよ!? お願いだから、いい加減に空気を読んどくれよ!!
 何かが壊滅的に破壊され、倒壊したような音が聞こえたような気がする。 これは破滅へのカウントダウンが既に始まっている!?

「孫…… お爺ちゃん?
 なら 私は…… お、おばちゃん? その上、いき遅れのおばちゃん!?」
「み、美由希……さん?」

 来るべき未来予測の結果、部屋の隅っこでどんよりと丸くなってノノ字を書き始める 美由希と その哀愁漂う煤けた背中に、どう声を掛けて良いのか分からずに右に左に 士郎、美由希を交互に見渡す フェイト

 美由希、この後も神社で友達の手伝いをするっていってたけど……

 『どうせ 私は年末年始も彼氏と過ごすわけでもなく……お手伝いだもん』
 呪詛の如くブツブツと呟いてる。 ……こんなどんよりとした空気を漂わせる巫女さんのいる神社って嫌だなぁ。

《アルフ…… 私、何か悪いことしたのかな?》
《いや…… 今のは自爆?》
 うん、フェイトが気にする必要なんて全くないよ?
《……どうしよう?》
《どうするって…… こればっかりは美由希が乗り越えるしかないんじゃないのかい》
 無責任と言う事なかれ…… 余計な色恋沙汰に首を突っ込んでいたら命が幾つ合っても足りないことを既に学習済みなのさ!

「クス…… クスクスクスクス クフフフフフ」
「「美由希(さん)?」」

 あ……?
 ついに許容範囲ぶち抜き、壊れて……?

「いいもん…… いいもん……
 いざとなったら恭ちゃん……は、やっぱりちょっと以上に忍さんが恐ろしいから……
 いざとなれば なのはに…… なのはに貰って貰うから…… 従兄弟同士の結婚はおーk『駄目ですッ!!』」

 おわッ!?
 その音量に アタシの身体が大きく揺れる。 びっくらこいたよッ!!
 さらには使い魔としてのリンクを通して物凄く激しい感情の奔流がぁーーーッ!?
 そのあまりの激しさに、アタシは思わず小さく身を縮め全身を守るように強張らせる

「駄目です……
 いくら、いくら 美由希さんでも…… それだけは、それだけは駄目です!!」
「いや…… あの フェイトちゃん?
 じょ、冗談なんだから…… 出来れば、目にめい一杯涙溜めたまま切実に迫らないで欲しい、かな?」

 両手が白くなる程ギュッと強く握りしめて迫る フェイトの迫力を真正面から受けて、流石に 美由希も気圧され後ずさる
 フェイトは なのはに本気だから この反応も当然なんだろうねぇ
 なんかちょっとばかりもの寂しい気分が残るけど、フェイトが幸せで笑ってて、なのはも自分の大切な人達は何が何でも護るヤツだから……
 アタシが我慢しなくちゃいけないんだよね?

「グス……
 本当……ですか?」
「うんうん! 本当本当!!
 なのはは 私の弟だからね!! フェイトちゃんも、私を『お義姉ちゃん』って呼んでよ!!」

 鬱+愚痴モードを脱した 美由希が、フェイトを必死に それもちょっとだけ涙目で宥めている
 良かった。 なんとか丸く納まりそうな感じになってきた。 一安心かな?

「はっはっは!!
 美由希はフォローに必死だな」

 ……でも無かった

 はぁ……
 お願いだから少しは場の雰囲気ってヤツを読んどくれよ、この親父は……
 とりあえず、臑…… 弁慶の泣き所って場所に本気で噛み付いとく? ついでに大型獣化しとく?

「あら、士郎さん?
 フェイトちゃんを泣かすようなことをしてるのに…… なんだか楽しそうね?」

 右と左……
 やっぱり両方?
 どちらに噛み付こうかと悩む アタシの直上から あるお方の声が降りかかる!?
 こ、この声はーーーッ!?

「も、桃子ーーーッ!?」

 上擦り掠れる 士郎の半泣きっぽい声
 アタシは即座に爆心地(予定)から全力で離れソファーの下へと避難する
 呼吸が上手く出来ず息苦しい。 四肢がガクガクと震えて止まらない。 尻尾なんて小さく丸まり最初から平伏状態だよ
 プレシアとタメ張れる存在の 桃子に逆らう…… いや、この場で意見することさえ考えられない
 たとえヘタレと蔑まれても構わないよ。 なんせ ヴィータのギガントシュラーク並みの一撃をカートリッジの補助無しで連発出来るような大魔王と命のやり取りする程 アタシはバトルクレイジーじゃないから!

「……少し頭冷やそうか?」
「遺伝するのか その台詞!?」
「って!? かーさん 私も標的!?」

 まだ少し涙ぐむ フェイトを優しく胸に抱いて その頭をナデナデする 桃子さんの姿は絵になってるけど……
 高町父とか高町長女とか、他の二人に掛ける声が怖すぎ
 高町家最強の称号は伊達じゃないね!! さっきから震えが止まらないよ、ほんとにさッ!!

 まぁ、このままだと余波で アタシの心臓まで停止しそうだし、ここは フェイト経由でまとめてもらうのが一番平和的解決かなぁ?
 とりあえず念話を……

《なぁ フェイト。
 美由希もタチの悪い冗談だって反省してるみたいだし、そんなに感情的にならなくたって……》
《う、うん…… ごめん》

 うんうん、良い感じ。 このまま フェイトが上手くまとめてくれそうだよ

《だけどさ……
 フェイトは変わったよね》

 安堵に気が緩んだんだと思う。 心の奥底にある想いが何にも遮られることなく流れていく

《変わった?》
《ああ、前は無理して……我慢してばっかでだったよ》

 そうだよ…… そんな風に『我慢』ばかりの フェイトを見ているのはとても辛いことだったよ

《そうだったかなぁ……
 我慢しなくなったって…… 私、我が儘になったのかな?》
《『我が儘』?
 はは、そうだったかもね。 でも、以前みたいに無理矢理感情を押さえ込んでいた フェイトよりもずっといい。 アタシは今の フェイトの方が好きだよ》
《アルフ…… ありがとう》

 念話で、そして主と使い魔との繋がりを通して、感謝の念が伝わる
 嬉しくなる
 フェイトが今の自分を気に入っていることが分かったのが何より嬉しい

 ピンポーン

「あら、アリサちゃん、すずかちゃんが迎えに来てくれたみたいね
 フェイトちゃん、ここは 私が仕切っとくから、あそこで黄昏てる なのはを連れて早く出迎えてあげて」
「は、はい!」

 来客を伝えるベルが玄関から響く
 その時間から、そして高町家におけるヒエラルキーの頂点。 真の主たる 桃子が言うならば間違いなく アリサ、すずかだ
 アタシは、この後みんな一緒に はやて達を迎えに行ってから そのまま初詣に行く予定だったことを思い出す
 ……なのはの状況が面白すぎてすっかり忘れてたよ

《アルフ、行こう》
《あいよッ!!》

 フェイトに威勢良く返事をする
 どうか フェイトの、アタシの、こんな暖かい日常がいつまでも続きますように……
 うん、決めた! それが初詣での アタシの願いで、叶えたいっていう誓いだ

 ハッピーエンドは力尽くッ!!

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ロジカルなのはIF4話②ー4 おまけ

 注意事項
 今回は、前回間に合わなかった『4-2 その④』のおまけです。
 例によって ユーノ君の扱いが酷いので、そういう話が嫌な人は読むのをやめるか、もしくは全くの別人と思ってください。

 4-2 その④ おまけ

 『並行世界』
 それは『パラレルワールド』とも呼ばれている並行して存在、それぞれの未来へと進む異なる世界の群
 その複数の世界がクロスする特異点。 この何もない真っ黒な異様な空間ににおいて、たった一ヶ所だけ異彩を放つ場所
 その暗く深い闇の中でなお、眩い光を放っている場所がある
 そして今、その光源では六匹の小動物達が集い、くだらぬ悪巧みを塗り重ねていた……

小動物A「ククク……」
小動物B「本当に長い道のりだったよ」
小動物C「ようやく…… ようやく僕らの苦労が報われるんだ」
小動物D「ここまで幾多の苦難を乗り越えてきた……」
小動物E「やった…… 僕達はやったんだ……」
小動物F「ついに、ついにッ! ついにぃぃぃぃぃーーーーッ!!」

 笑っているナマモノ
 苦労を噛み締めているナマモノ
 回想シーンにどっぷりと浸っているナマモノ
 泣いているナマモノ
 抑えきれない喜びを漏らすナマモノ
 抑えきれずに大声で叫んでいるナマモノ

ALLナマモノ「「「「「「揃ったぁぁぁぁーーーーッ!!!」」」」」」

 黄色の毛並み、六匹のナマモノ……
 一応、フェレットと呼ばれている小動物の形態をとる変態達が、それぞれ幾つかの星が浮かびあがる七つの球を囲みながら狂喜乱舞している
 七つの球はまるで一つの太陽の如く神秘的、力強い山吹色の輝きを放ち、それら中心に散らばる変態達…… 名前を『ユーノ・スクライア』と言う。 それは並行世界の ユーノ達。 そして彼らが苦心の末集めた この七つの球が、どんな『願い』でも叶えてくれるロストロギアだと聞けば、その喜びようも納得出来るだろう
 彼らは遙か異世界へと このロストロギアを求め、七つの『龍球』を集めてきたのだ。 たとえ異世界同士でも同じ龍球ならば互換性があるだろうという楽観的な思い込みの元で……

 一応、彼らは表向き優秀な結界魔導士という設定ではあるが、既に現在(このSS)では それすら危ういかもしれない

ユーノA「七つの龍球かぁ…… 壮観だね」
ユーノB「一人一個のノルマ…… 一名リタイアした時はどうなることかと思ったよ」
ユーノF「ふふん まあ、余分に集めていた僕に感謝するが良いさ!!」
ユーノD「同じ僕なのに偉そうだなぁ……」
ユーノE「気にしちゃ駄目だよ。 並行世界の僕らなんだから若干の違いはあるさ」
ユーノC「だねぇー まあ、共通の目的があって集っただけだしね」

 六匹の ユーノがとりとめもなく苦労話を続け、その様子は第三者視点から少々うざったい
 どうでもよいことではあるが、一匹欠席しているらしい……
 まあ、こんなのを七匹書くのも面倒だから実際三匹位でも充分だったかも?<マテ

ユーノA「さて、次の問題は……」
ユーノB「どんな『願い』を言うか……だよね?」
ユーノD「僕らの出番を増やす『願い』…… 魔力量とかのパワーアップ?」
ユーノF「阿呆か…… 一が二や三になった所で百には勝てんわ」
ユーノE「AランクとSランクって、余裕でそれくらいの差が有りそうだよね」
ユーノD「じゃあ……権力?」
ユーノB「数の暴力……どこまで有効なんだろ?」
ユーノF「それって、アリが恐竜に勝てるかって世界?」
ユーノE「その『願い』だと僕ら……肉食恐竜達に骨の髄まで利用されそうだよね」

ALLユーノ「「「「「「うぅぅーーーーん」」」」」」

 どうやら叶えるべき『願い』を決めている訳ではないらしい
 その辺は勢いで集まった烏合の衆にすぎないレベルなのだろう
 けれど その瞳はギラギラと漏れ出す欲望に輝き強烈な戦意を放ち、それだけならば超一流と言えるのかもしれない

 エロじゃない ユーノは ユーノではないのだ<ここ限定で

ユーノA「出番を確保するなら、一期のジュエルシード回収期間が延長されれば増えるんじゃないかな?」
ユーノD「……『フェイト・テスタロッサを消してくれ』?」
 それは小さな囁き……
ユーノE「ば、馬鹿ッ!! 全国に散らばる フェイトファンを全てを敵に回す気か!!」
ユーノD「だ、だって出番が!!」

 ユーノDの問題発言に一同が大きく揺れる
 導き出される最悪の結果は ユーノファンと フェイトファンの激突
 否、ユーノファンの方々も ここの ユーノ君達には味方しないだろう。 捻り潰される未来しか想像出来ない

ユーノB「穏便に『アリシア・テスタロッサを生き返らせてくれ』で良いんじゃない?
 二期での夢世界が延々と繰り広げられるってことで……」
ユーノF「それは事実上のリタイアって言わないか?」
ユーノA「フェイトがジュエルシード集める理由無くなってるもんね」
ユーノC「それに フェイトが出ないと今のリリカルなのはの人気はありえないし……」

 ユーノDに全員でツッコミながらも、その方向を無視することも出来ず真剣に話し合いをする ユーノ達
 たとえ栄光の未来を掴めたとしても、死んでは意味がない。 二階級特進では全くの無意味なのだ
 彼らの出番不足は それほどに…… 切実なのだ

ユーノD「……僕ら要らない子?」
 今度は独り言だった
ユーノA・B・C・E・F「「「「「ッ!? 言うな 馬鹿ーーーーッ!!!!!」」」」」

 ユーノDの、あまりに心ない発言……
 ある意味真実を捉えすぎた自虐的な言葉に涙目のフェレット達が殴る蹴るのツッコミを連発する

ユーノD「いたたぁぁ…… な、殴らなくても良いじゃないかよ……」
 度重なる不用意発言、ユーノDは既に村八分状態?
ユーノA「いいか僕達、よく考えろよ?
 収集をかけた ユーノの中で集まった僕達…… その勇気溢れる僕達と、薄情にも集まらなかった僕達との違いはなんだ?」
ユーノE「本質的には同じ僕なのに、現状に耐えきれる理由と耐えられない訳……」
ユーノF「その差を分かつ明確なライン……」

 シカト中の ユーノDを除き、全員が息を呑み込む
 同じ瞬間、彼ら(一名除く)はついにある答えに辿り着いたのだ

ユーノA・B・C・E・F「「「「「「『なのは♂』だぁぁぁーーーーッ!!!!?」」」」」」

 その名は『高町なのは♂』
 絶対なる力を具現せし人外の存在
 白き魔王にして死を司る冥王
 彼の者の意に反し…… その命を全うせし者なし!

ユーノA「そうだ…… そうだよ! なんで僕らの『なのは』は男の子なんだよ!!」
ユーノC「しかも、その容姿は百歩譲ってさえ、女の子にしか見えない!!」
ユーノE「そのくせ女の子っぽいことを人一倍気にして、突っ込むと撲殺されるのは理不尽だよね!!」
ユーノB「畜生! ここに来てない僕らは混浴とか同衾とか…… ワクワク・ドキドキ・ムラムラなイベント盛りだくさんだよ!?」
ユーノF「奴らが そんな美味しい立場だったとは…… 絶対に許せン!!」

 自分達が この場所に集まった理由を悟る
 同じ自分なのにあまりに不遇。 それ故、同じ辛い境遇の自分達に、彼らの結束力がモリモリと固まっていく
 ついに希望を見つけ、奮起する ユーノ・スクライア!!
 だが、その怒りや不満が理不尽の根元的存在たる『なのは♂』ではなく、美味しい立場を享受している自分自身に向いていくあたり……
 即ち、それが ユーノ・クオリティ!!

ユーノA「つまり僕らの『願い』は、全ての『高町なのは』を『女の子』に!」
ユーノB「『高町なのは♂』を消してぇ『カッ!!』」

 不遜な発言を発しようとした ユーノBに降りかかるは裁きの閃光
 太く、巨大な桃色の輝きが ユーノBの小さなフェレット・ボディを的確に覆い尽くし……
 後に残るのは小さな影。 ただ、それだけが ユーノBが存在していた証
 影だけを残し、髪の毛一本、爪先の一欠片さえも残ることが許されない

 ユーノB・完全消滅でリタイア!!

ユーノA・C・D・E・F「「「「「何ィィィィーーーーッ!?」」」」」
???「アハハ もう ユーノ君ってば…… しょうがないなぁ」

 未知(かもしれない)の恐怖に打ちひしがれる ユーノ達に降りかかる楽しく嬉しそうな嗤い
 一瞬にして失われた尊い(かもしれない)命の輝きを嘲笑う その硝子の如く透き通る声が ユーノ達の心臓に突き刺さり、強烈な圧力でわし掴み握りつぶそうとする

 ユーノの天敵……
 『高町なのは♂』その人が ユーノ達を見下ろし、見下していた

ユーノA「ヒィッ ヒィィィィーーーーッ!!」
ユーノC「ま、ままままさか!?」
ユーノF「こ、ここここんな場所にまで!?」
ユーノD「あ、悪魔……」
ユーノE「ど、どうしてバレて……」

 フェレットとして、これまでないというほど盛大に表情を引きつらせる ユーノ達
 けれど、彼の驚きは この程度で済んだりはしなかった
 彼の真の恐怖は これより後始まる……

なのはA「アハハハハハハハ……」
なのはB「ウフフフフフフフ……」
なのはC「クハハハハハハハ……」
なのはD「ククククク……」
なのはE「クフフフフフフフ……」
なのはF「フフッ」

 なのはG以下は省略……

 九歳なのはを中心に十五歳、十九歳も…… 中には六歳なのはまでいる
 ユーノの上空を覆い尽くす白、白、白……
 数え切れないほどの なのは達。 その強烈な存在感に、黒い世界が真っ白へと塗り替えられていく
 見上げる愚者達の心を、絶望の白へと染め上げられていく

ユーノA・C・D・E・F「「「「「ひッひぃ一人じゃないの!? ……やばすぎ!!」」」」」

ユーノF「落ち着け僕達!! 忘れちゃ駄目だ! 僕達は優秀な結界魔導士のはずだろ!!
 ここはみんなで結界を張って堪えるんだ!! そして、その間に誰か一人が龍球に『願い』を!! 僕らの悲願を、今こそ叶えるんだ!!」
 一人、フェレット四肢を踏ん張り力の限り魔力を振り絞り障壁を展開する漢・ユーノF
ユーノA・C・D・E「「「「おおッ!!」」」」

 その言葉に勇気を得て猛る ユーノ達
 即座に龍球を抱え、一斉に回れ右で逃走を謀る
 哮る ユーノFだけを置き去りにして……

ユーノF「え!? ちょッ!? 護りは僕一人だけ!? なんでみんな一斉に後退してるのs『ボシュッ!!』」

 遠ざかっていく五つの足音を耳に、悲鳴をあげて突っ込む ユーノF
 彼の展開する障壁はSクラスの攻撃でさえ防ぎきる最高レベルのモノだった。 だが、ユーノF一人に対して なのはは数え切れないほどの圧倒的多数
 それに対し、最低でもAAAクラス以上の魔導士達が全力全開の一撃を一斉射撃しているのだ。 とてもAクラス魔導士一人で支えきれるレベルの話ではない
 その強力過ぎるエネルギーの束に障壁は紙のようにあっさりと貫かれ、一人の存在を消失させるには充分すぎるほどの圧倒的な暴力にさらされ……

 ユーノFはこの世から姿を消した
(ユーノF・凶悪な砲撃魔法による完全消滅でリタイア)

 一方、消滅する ユーノFに涙しながら、彼の想いを無駄にせぬように力の限り駆け抜ける(見捨てたとも言う)ユーノ達は……
 白い大魔王からの逃走を諦め、距離を空けることだけに専念し、その犠牲を代価に充分な距離を確保する
 満を持して準備を整え、最後の呪文を唱えるべく大きく息を吸い込み

 そして勝利の笑みを浮かべながら……

ユーノA・C・D・E「「「「いでよ ○龍!!」」」」

 シーーーーーン

 ユーノAは 呪文を 唱えた!!
 しかし 何も 起こらなかった!!
 ユーノCは 呪文を 唱えた!!
 ユーノCの 声が 虚しく 響きわたった!!
 ユーノDは 呪文を 唱えた!!
 なのは♂達に 居場所が ばれた!!
 ユーノEは 呪文を 唱えた!!
 なのは♂達が 妖しく 微笑んでいる!!

 なのは♂達が微笑みと共に ユーノ達を大きく取り囲みながら少しずつ その包囲を狭めていく
 絶対に逃がさないように……
 確実にこの世から淫獣達全てを消し去るように……

ユーノD「あ、あれ? どういうこと!?」
ユーノC「出ない? 出ないよ!?」
ユーノA「そんなはずは…… 龍球だってちゃんと七つ……」
ユーノE「一星、二星、三星、五星、五星、六星、七星…… あ?」

 ユーノDは 混乱 している!!
 ユーノCは まごまご している!!
 ユーノAは 龍球を じっと 見つめている!!
 ユーノEが 何かに 気付いた!?

ユーノA・D・E「「「四星球がない!?」」」

 そこには山吹色のシールを貼り付け、無理矢理四星球に変えようとしながら、無惨に失敗した五星球の姿
 正直、こんな下手な細工で誤魔化そうとするヤツもするヤツだけど、幾ら喜びに目を曇らせていたとはいえ、こんなモノで誤魔化される方もされる方である

ユーノE「誰だよ!! 四星球担当は!!」
 答えは当然、無言を押し通そうとする ユーノ
ユーノC「し、仕方ないじゃないか!! 金髪の野菜ファミリーの隙をついて龍球を盗み出すなんて絶対無理だよ! そんな猫仙人から唯の水を奪うよりも難しいイベントなんて出来るはずないだろッ!!」
ユーノD「言い訳すんな!! 今、この瞬間にも僕達の生き死にが懸かってるんだぞ!!」

 ほとんど逆ギレ状態の ユーノC
 流石に高町一家以上の戦闘民族一家を相手にしては、如何に隠密行動に適したスクライア一族でも無理だったらしい
 飛び交う罵詈雑言。 だが、彼らは このロストロギアを集めようと考えた時点で最強の戦闘民族とぶつかる可能性について考えなかったのだろうか?

 無謀な計画故に崩れ始めると止まることがなく、 穴がボロボロと現れてくる

ユーノA「落ち着け僕達!! 死活問題だからこそ冷静さが必要になるんだよ!!」
 リーダー的位置にいる ユーノAが必死に全体の手綱を取ろうと必死になる
ユーノA「だ、誰かついでに集めていたりしないの!?
 とにかく持っている龍球全部出してッ!!」

 コロコロ……ゴロリ

 どこからか山吹色に光る野球ボール大の球を取り出す ユーノ達
 中にはサッカーボール並みの球があったりするが…… 何故、小動物形態の彼らが隠し持っていたのかなどと考えてはいけない
 これは『おまけ』扱いな話で、ご都合主義万歳な話だから、気にしたら負けなのです

ユーノA「一、一(大)、一、一、二、二、三、五、五、五(大)、六、六(大)、七、七、七……?」
 四星球無し!
ユーノD「だ、駄目だぁーーーッ!?」
ユーノE「っていうかナメクジ星の龍球まで入れたのは誰!? 僕達ナメクジ語なんて話せないよ!!」
ユーノA「そのでかい球は…… 抜け、弾け、外せーーーッ!!」

 慌てふためき統制を失う。 そして、絶体絶命のピンチにブチ切れそうになる ユーノ達の理性
 でも、わざわざナメクジ星までいって龍球集めてきた兵までいたんだ……
 冷蔵庫一味と鉢合わせしなくて良かったね

「「「「「アハハ ユーノ君達…… 無駄なあがきはもう良いのかな?」」」」」<山盛り なのは
《《《《《Load Cartridge》》》》》<必殺のエクセリオン発動中

 パニくる ユーノ達を尻目に、その包囲網を完全に完成させる最強なのは軍団
 逃げ道を完全に塞ぐことで、相手が窮鼠と化す可能性さえも妖艶に嗤い倒す なのは達。 そして、かつてのマスター滅殺を無機質で機械的な合成音でありながらも楽しげに魔力制御を進める なのはの手にしたデバイス達

ユーノA・C・D・E「「「「ヒ、ヒィィィィーーーーッ!!!」」」」

 始まるのは死へのカウントダウン

 ガコン……
 蓄えられた魔力を放出し空薬莢が大地に落ちる
 ガコ ガコン……
 空薬莢が ユーノ達のいる大地へと雨のように落ちる
 ガコッガコッガコッガコッガコッガコッガコッガコッガコッガコッガコッガコッガコッガコッガコッガコッ
 空薬莢が ユーノ達のいる大地へと豪雨のように降り注ぐ……
 ちなみに、空薬莢はかなりの熱を持っているため、当たると火傷は必須

ユーノA「って!? いったいどれだけの量をロードしてるんだよ!?」
ユーノE「あれだけ負荷をかけて…… どうして身体とデバイスが無事なんだよ! 理不尽だよッ!!」
ユーノD「不味い…… これは不味いよッ!?
 あの絶対的な魔力量…… 僕達を確実に消滅させる気だよ!!」
ユーノA「と、とにかく呼び出すんだ!! 駄目もとだろうと全力で呼びかけるんだ!!」
ユーノC「う、うん!」

 チャージされる桃色の輝き、自分達を殲滅するべく用意された その一つ一つが充分過ぎる破壊力を持っていることに戦慄する
 どんなに嘆き悲しんでも既に逃げ場はない。 されど、生存への要求は生物共通の生理
 彼らには生物の本能を超えるほどの精神も、それらをねじ伏せるだけの信念も持たない。 それゆえに彼らは、ただ生存という本能のためだけに無謀な前身を選択する

 人は それをやけくそと言うのだが……

ユーノA・C・D・E「「「「いでよ ○龍!!」」」」

 カッ!!

 その言葉に反応し、ナメクジ星用を除外した十二個の龍球が更に強く激しく輝く
 願いの叶うという期待と生存への道が開けたことに対する安堵に満ちるは ユーノ達の瞳

 ドドォォォォォン!!

 黒雲が辺りを覆い、闇が闇をを深くする
 そんな暗闇を激しい雷が切り裂き、異世界に激しい天変地異を引き起こしていく
 それは彼らの『願い』が叶うことの前兆であろうか?
 けれど…… それでも なのは達は余裕の表情を全く崩さない

 ……ポテチ

 何かが大地へ墜ちる音が響く
 何か、柔らかい湿ったようなモノが潰れる音
 それはまるで腐ったミカンが地面に落ちて潰れるような気持ち悪い音

『『『願いを言え…… どんな願いも一つだけ叶えてやる』』』

 ウネウネ ウネウネ

 目の前に奇妙なナマモノがいた。 その奇妙なモノ蠢きながらも三重に重なる声で偉そうに話しかけてくる
 顔はもしかしたら龍……と言えなくもない。 けれど それが三つ、しかも尻尾にあたるだろう部分に無理矢理くっついているのはどう考えてもおかしいだろう。 さらには足が八本で それが生えている部分が背中だったり、額だったりと……
 不気味過ぎて、とても詳しい明確に描写も出来ない

 それはつまり、どう見ても『変』としか言いようのない緑色のナマモノだった

ユーノA・C・D・E「「「「…………」」」」

 顔を青ざめさせ、言葉もない ユーノ達
 自分達に訪れるであろう未来予想が怖すぎて、とても『失敗』という単語を出すことが出来ない
 心弱き者達は、容易に都合の良い理想へと逃げ込む

ユーノA「い、一応…… 成功、かな?」
ユーノE「……顔が三つでちょっとステレオ状態?
 顔付き尻尾が三つで手が八本とか凄いね……」
ユーノD「これ……既に生き物に見えないよ」

 時折否定の言葉を漏らしながらも、現実を都合良く受け取ろうと必死に言葉を探す
 それはどこからどうみても無駄な努力だ
 その無様の様子を、なのは達は残酷な微笑みで見つめ続ける
 『願い』を言う瞬間に眼下の生ゴミ達を焼却処分するのだろうか?
 『願い』を言う瞬間に それを阻止し、逆に『ユーノ・スクライアを消してくれ』とでも願うのだろうか?
 奇妙な空白の中、ユーノ達の胸中を止めようのない不安だけが渦巻いていく

 両サイドの緊張感に耐えきれなくなったのは、やはり ユーノ達だった

ユーノA・C・D・E「「「「『高町なのは♂』を消してくれぇぇぇぇーーーッ!!」」」」
『『『……無理』』』

 即否定。 ○龍もどき弱すぎ……

ユーノA・C・D・E「「「「……え? な、なんでッ!?」」」」
『『『神の力を大きく超える者に、一方的に干渉することは出来ない……』』』

 これが なのは達が魅せた余裕の原因か、なのは♂の力は○龍もどきを大きく超えているらしい
 その余裕の なのは達とは反対に ユーノ達が絶望感に耐えきれず両手を膝を大地につける
 フェレットが元々四足歩行だろうと突っ込んではいけない。 彼は それほどのショックを受けているのだ

ユーノC「う、嘘つき!!
 『どんな』『願い』『も』って…… 言ったじゃんかーーーッ!!」
 八つ当たるモノ
ユーノE「なのはは…… 神さえ超える化け物だったの?」
 衝撃の事実に打ちひしがれるモノ
ユーノA「死ぬ…… 確実に死ぬ……
 僕達はとんでもない相手を敵に回していたんだッ!?」
 今更ながらに誰を回したのかを知り、恐怖にのたうち回るモノ

 そして……

ユーノD「い、嫌ぁーーーーっ!!
 夢…… 夢だよね!! これって夢だよね!!
 『夢おち』が過去二回もあったんだから…… 『二度あることは三度ある』っていう諺もあるんだから……
 お『願い』!! 誰か夢だと言って!! 夢だと教えて!!」

『『『残念……現実
 【三度目の正直】だ』』』

 ○龍もどきが答える、答えてしまう
 錯乱した ユーノDがやった……
 暴走した ユーノDがやっちまった……
 本当に、とんでもないこと(ユーノ主観で)をしてしまった……

ユーノA・C・D・E「「「「え? ええぇぇぇーーー!?」」」」

 あまりのショックに平静さを取り戻す ユーノ達
 どうやら こんな状況にも関わらず、心のどこかで『ギャルのパンティおくれッ!!』とか原作そのままのことを考えていたらしい。 その切実で、だけど他人から見ればしょうもない『願い』さえ断たれ、ユーノ達の瞳孔が開き、小さなフェレット心臓が大きく脈打つ

『『『願いは叶えてやった…… ではさらばだ』』』

 このピンチを助けてはくれなかった癖に最後まで偉そうな○龍もどき
 『願い』を叶えてやったことに少しだけ満足げに頷き、その姿が薄くなっていく
 そう…… ○龍もどきは その使命を終えたのだ

 バシュ バシュ バシュゥゥゥゥン

 龍球へと戻り、各地へと散っていく山吹色の輝き
 果たして それらは無事に元の世界へと戻れるのだろうか?
 この行為の結果、あの世界の未来が変わってしまったとしたら、ユーノ達に新たな罪状が積み重ねられたりするのだろうか?
 死する運命にある者達には、そんなことを心配する必要さえないかもしれないが……

ユーノA「ちょ、ちょっと!!」
ユーノE「ち、違う!! やり直しを要求するよ!!」
ユーノC「待って…… 僕達をおいて逝かないでよぅ!!」

 あ……?
 こいつら、もしかして現状に気付いていない?
 もしくは、怒りに目が眩んで一時的に記憶を棚に上げている?

ユーノA・C・E「「「なんてことをしてくれたんだ!!」」」

 流石、元は同じ存在である ユーノ達
 まったく同じタイミングで一斉に ユーノDを責めまくる
 その言葉には全く容赦が無く、視線だけでも人(相手は同じユーノ限定だけど)を殺せそうなほど殺気立っている

 それに対し、ユーノDはヒクヒクと小さく肩を震わす

ユーノD「う、五月蠅い五月蠅い!!
 なのはが女の子化したからって僕達がもてる訳じゃないだろ!! そんなのは『痩せればもてる』って考えている奴らと同レベルさ!!
 そんな程度で僕らが女の子にもてるわけないだろッ 馬鹿!!」

 やっぱり逆ギレだった
 しかも、その言葉には他ユーノ達にも隠した衝撃の真実が隠されていた
 そして、ユーノDがブチ撒ける衝撃の真実は……

ユーノA「な!? それはどういう……」
ユーノD「……僕の世界にいる『なのは』は女の子だよ! バリバリに可愛い女の子だよ!!」

 なのは♂な世界から集った同志という、彼らの共通認識が音を立てて崩れ落ちていく
 では、このユーノ達にとって、真に共通する状況とは一体なんであろう?

ユーノE「なんだって……?」
ユーノD「そして フェイトとガチレズ!! 付け入る隙間もない位に馬鹿カップル状態!!」
ユーノC「そんな…… フェイトと」

 もうお解りだろうか?
 彼らの世界において共通することは……
 なのは・フェイトのカップリングが成立しているということ!
 既に ユーノの立ち入る隙間さえないくらいにラブラブ!!
 その世界の ユーノ達は置物当然で 既に無機物扱い!!

ユーノD「『仲人は友達の ユーノ君に……』って! 力尽くで法律変えてゴールインさ!! 僕なんて最初からアウトオブ眼中なのさ!!
 分かったか 僕達!!」

 熱い涙を流し肩を大きく震わせ、力の限り絶叫する ユーノD
 体温の調整機能さえも暴走させる激しい感情が、大量の汗と涙を真っ黒な大地へと垂れ流し続ける
 自身の命さえ大きく削りながらも『逆ギレ』という、ある意味とても情けない行為に力をつぎ込んでいく

 そして、その命懸けの逆ギレを受けた三匹のフェレットは……

ユーノA・C・E「「「き、貴様ーーーッ!! なのは達と一緒に女風呂に入った 僕だったのか!!」」」
 こいつらも逆ギレした……
ユーノD「ぎぃやぁぁぁぁーーーッ!!!!!!」

 噛み付き、引っ掻き、舐め回し
 最後の攻撃は女湯に入り、フェレットボディに染み込んでいるだろう成分を少しでも奪いとるためであろうか?
 一応、結界魔導士に過ぎない彼らが、ひどく好戦的に異次元世界の自分である ユーノDをひたすらボコり続ける

 ユーノD・同性からのリンチとセクハラでリタイア!!

ユーノA「悪は滅びた……」
ユーノE「一人だけ幸せなんて許せないよ」
ユーノC「羨ま…… いや、死んで当然だよね」

 裏切り者を血祭りに上げ、満足げに頷き合う ユーノ達。 その表情は溜め込んだストレスを吐き出し、かなり清々しい
 けれど、やっぱり彼らは忘れていた……
 彼らもまた首筋にナイフを突き付けられ、その命運を握られる哀れな(でもないのか?)存在にすぎないという現実を
 その上、そのナイフを握る者達には、彼らを助けようなどという気持ちは最初からないという事実を

「「「「「念仏は……終わったみたいだね?」」」」」<山盛り なのは

 それは有頂天になる愚か者達に振り下ろされる桃色に輝く鉄槌
 それは全てを消失させ、光へと返す破壊の一撃
 一片の躊躇も戸惑いもなく、トリガーが引かれる

ユーノA・C・E「「「……え?」」」

 間近に迫る桃色の輝きに間抜けな声が漏れる
 果たして、苦痛さえ与えられることなく消滅させられることは『死に方』としてはどうなのだろうか?

 ドゴォォォォーーーーーーン!!!!!!

 この安楽死は なのは達の最後の慈悲?
 ユーノA・C・E 圧倒的砲撃魔法で消失(ある意味安楽死)

 この日、一つの特異点が原因不明の大爆発により、周囲の空間ごと消失することになる……

 ちなみに欠席した ユーノGは……
「うーーん うーーーん 体臭が…… 加齢臭が目に鼻に染みるよう…… 涙が、鼻水が止まらないよぅ
 パフッ パフパフって…… そんな、やめてぇ…… ただ、皮下脂肪のほとんどない固い大胸筋を筋肉で動かしているだけじゃないか……」

 ……トラウマと引き替えに命拾い?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ユーノ君・人物設定

ユーノA
 一応、六匹の ユーノ君達の中ではリーダー的立場で物事を進行していった
 報われることのない結果は、こいつが主導したからだろうか?

ユーノB
 流され ユーノ……
 瞬殺されて出番もほとんどなし

ユーノC
 四星球収集担当だったが失敗、他の龍球で誤魔化し傍観すた ユーノ君
 負い目があるためかセリフは少な目…… 沈黙は金?
 そのおかげで目立つことなく少しだけ長生きするが……
 もっと自己主張しろよ

ユーノD
 実は なのは♀の世界から来ていた ユーノ君
 なのは♀・フェイト♀が結ばれた世界であり、ユーノ君は友達、もしくは小動物扱いがデフォ
 その世界では既に風景と同化している辺り、無視される苛めと同レベルの状況

ユーノE
 今回はツッコミ役を果たした ユーノ君
 少しばかり毒あり

ユーノF
 今回登場した中では最も『漢』を魅せてくれた ユーノ君
 元いた世界では なのは♂にガチで告白…… 結果、玉砕している
 男と承知した上での告白、失恋を味わいながら、輝く未来を掴むために参戦する

ユーノG
 今回は欠席したロジカルIFの ユーノ君
 そのトラウマと引き替えに命拾いをすることになる彼の悪運は、果たして強いのだろうか?

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ロジカルなのはIF4話②ー4

 4-2 その④

 地面が揺れる 私の身体が揺れる 私の世界が揺れる
 それは この今も動き夕空へ登り続ける観覧車だから?
 あるいは そこに吹き付ける風のため?

 それとも……

「私、はやての持つ闇の書問題が解決したら…… 管理局に入ろうと思ってる」

 私の目の前に座る金色の少女が確かな口調で告げる
 場所は既に頂上から下り始めた観覧車の中、その場に居合わせるのは揺るがない強い決意を示した その少女を含める 私達四人
 オレンジ色へと変わった空が、大きく傾いた沈みかけの太陽が発する光が観覧車の窓から 私達の座る白いシートへと差し込み、そこに座る少女の美しい金髪と確固たる意志を秘めた紅い瞳をさらに神秘的に侵しがたいモノへと昇華している

 その少女の存在を表す名は『フェイト・テスタロッサ』
 既に 私の親友と言っても差し支えない存在である彼女は以前、私闘の原因となった あの夜とは比べモノにならないほどの決意を持って この場に立っている。

「……フェイトちゃん『なのは、フェイトの話はまだ終わってないわ…… ちゃんと最後まで聞きなさい』 アリサちゃん!?」

 私の言葉を遮るのは静かで落ち着いた声
 同時にギュッと握りしめられた掌から伝わる アリサちゃんの温もりが 私の起こそうとする行動全てを抑え制してしまう

「前は なのはちゃんと喧嘩しちゃったことに対する相談だったよね?
 今回は、どうしてそういう考えに至ったのか…… ちゃんと 私達に話してくれるんだよね?」

 フェイトちゃんの隣に座る すずかちゃんも、私の隣に座る アリサちゃんも、一言たりとも発することなく沈黙を保ち、ただじっと待ち続けている
 蒼、碧、紫の中に一人の少女の姿が閉じこめられ、その異なる輝きを魅せる三対の瞳がただ一ヶ所に見つめるためだけに集まっていく

「うん、聞いて欲しい、聞いて欲しいんだ
 なのはだけじゃなく、すずか、アリサに…… 今日、ここにいるみんなにも…… ちゃんと」

 私自身のモノも含め、様々な想いを込め問いかける三対の視線を真正面から受け止めるのは強く輝く紅い瞳
 普段は幼い言動を魅せる フェイトちゃんが、今このときだけは その年齢、容姿以上に大人びた雰囲気を纏っている

 ガタガタ ガタン

 私達を乗せるゆりかごが僅かな音を響かせ小さく揺れる。 おそらくそれは 観覧車は最頂点に達し下降を始めたからのだろう
 周りを覆う大きな窓から差し込まれる海鳴の街並みが夕日に照り輝き、感動的な景色を作り出す
 それは恋人達にとって格好のデートスポットと噂されるに値する風景

 それも、こんな状況でないのならば

 不意に訪れた空白の瞬間を今日の楽しく尊い思い出が次々と塗りつぶし埋めていく
 初めて乗ったティーカップを、何故か力の限り高速回転させた フェイトちゃんと、それに対抗したため、一緒になって目を回してフラフラになっていた アリサちゃん
 軽快に走る赤、青、白、黄と四種のゴーカート。 その専用レーンでド迫力なカーチェイスを繰り広げた アリサちゃん、すずかちゃんと、その遙か後方で対照的な安全運転をする 私、フェイトちゃん

 今日の午後、淫獣に天誅を加えたあとの思い出が、その僅かな沈黙を埋めるかのように 私の脳裏を駆け抜けていく

「私は…… 誰かの幸せを…… ううん、違う。 そんなに傲慢で、そこまで大それたことしたいわけじゃない」
 小さく首を振るい、言い換える
「私は みんなの笑顔が好き。 だから、私は それを大切に、護れる人になりたいんだ」

 むずがるように時折どもり、想いを上手く表せないまま詰まり詰まりになる言葉
 けれど、そこに込められたのは確かな意志
 それは飾ることのない真っ直ぐで純粋な想い

 再生される記憶の中、楽しげに話す数十分前の フェイトちゃんの笑顔に、その真摯な声が重なりあっていく

 強くて、それでいて優しさを秘めた声は、ただそれだけで 私の心に激しく切実に、どうしようもなく訴えかけてくる
 私の心を抱きしめるように捉えて離さない

「護りたいっていう この想いは…… なのはが、アリサが、すずかが、ここにいるみんなだけじゃないよ?
 私の周りにいてくれる 私の大切に思うみんなが、寂しいとか辛いとか悲しいっていう想いを軽く、本当に簡単に吹き飛ばすくらい暖かくて優しい笑顔をたくさんくれたから、私は そういう笑顔を持つ人達を護りたい……護りたいと願うんだ
 それが 私の居るこの世界に幸せを満たすことだと思うから」

(出来るわけない…… そんな夢みたいなことを出来るわけないよ)

 その言葉に何故か心のどこかが軋む

「でも、フェイトの それはただの理想よ
 どんなに願ってみても…… 結局、形の無い空虚なモノに過ぎないわ」

 それは否定の言葉
 そして個人の力量程度では到底変えられない、変わることのないモノ
 誰もが一度は願い、何度もぶつかり挫折する現実
 けれど、アリサちゃんの声に フェイトちゃんへの侮蔑や拒絶の意志なんて少しも感じられない

 『それは多分、一生を費やしてさえ届くことのない願い』

 静かに見つめ続ける アリサちゃんの瞳が、フェイトちゃんの心に問いかけている
 アリサちゃんは自分勝手な思いこみでの侮蔑はしない
 けれど、そこに誤魔化しも沈黙も許さない
 そう感じさせるだけの威圧感を雰囲気を醸し出している

「うん、理想だね、分かっている
 現実はきっと アリサの言うよりも遙かに、夢見るには残酷で、追い求めるには厳しくて、弱い人達にも容赦が無い世界。 でも、それでも 私は それで本当に救われたから、ここで笑顔の意味を知ることが出来たから……
 それはたしかに 私の大切な部分を支えているモノで、私の全てを賭けてでも信じるに値するモノだよ」

 膝の上に置かれたままの拳がさらに強く握り込まれる
 それでも フェイトちゃんの願う世界は砕けず崩れなかった
 その紅い瞳の輝きは強い向かい風にも衰えることなく、ますます燃え上がっていく

 フェイトちゃんはどうして……
 どうして そこまで誰かを、自身を信じられるんだろう?

「管理局が理想の組織じゃないって分かっていても、フェイトちゃんには信じたい想いがあるんだね?」
 次いで言葉を発した すずかちゃんの口元からいつもの大人びた穏やかな微笑みが消えている
 そこにあるのはあからさまな不信感
 当然かもしれない。 すずかちゃんは アリサちゃんと一緒にいる所を、闇の書の主である はやてちゃん達を自分達の都合で利用しようとした管理局の一派に襲われたんだから……

「すずかちゃん……」

 私の胸の奥底から漏れる吐息
 そして差し込む夕日の影響か、すずかちゃんの瞳が若干の赤みを帯びていくようにも感じる
 奥深くに滞り内在するのは鋭く冷たい感情
 信用や信頼は何もない所から産まれたりはせず、一夕一朝で成される代物じゃない
 反して不信や不満は容易に募り育っていく
 管理局そのものに対する根強い不信。 それは二人を拉致しようとしたのが局員だったという事実だけでも充分に違いない

「すずかが言うように、理想がそう単純に割り切れないことも分かってる
 以前、二人を襲ったのが はやて達の立場を擁護していた側の一員だったってことや……
 人の技術により産み出された人工生命である 私が、そこでどんな風に見られ、言われ、扱われる可能性だって……
 でも、私は知ってる……
 世界は悲しいことだけじゃない。 理不尽なことだけじゃない
 リンディさんや 桃子さん、クロノ。 そんな理不尽なことに抵抗する人達だってたしかにいるんだ」

 フェイトちゃんは理解している
 その選んだ道の先は決して平坦でないことを
 この世界には理解出来ず理解されない人間もいるということを
 だけど フェイトちゃんは
 秘めた想いは、固いだけじゃない柳のしなやかさで向かい風に折られ屈することなく受け止める

(フェイトちゃん……
 嬉しいことと悲しいこと。 暖かいモノと冷たいモノ。 優しさと残酷さ
 常に矛盾しながらも互いに影響を及ぼし合うモノで成り立つ この世界は…… 決して優しくなんてない。 優しくなんてないんだ
 だからこの世が・・・地獄そのものなんだよ)

 辛くて苦しくて冷たいだけの閉ざされた世界なら、何もしないまま全てを諦めることも出来たはずなのに……

「救うとか…… 助けるとか…… 軽々しく口に出来るほど簡単で安易なモノじゃない
 どれだけ願い祈って、たくさんのモノを掴もうとしても…… 掴みきれないモノが出てくる
 たとえ掴めたとしても、掌からこぼれ落ちるモノが出てくるんだ」

 救えなかった小さな命が、時の流れの中、熱を奪われ命の輝き失っていった あの昔の光景がちらつき、私の心を固く縛り付けている

「その度に、その度に フェイトちゃんは悲しむんだよ? その度に何度も傷つくんだよ?
 たしかに知らない誰かを救えるかもしれない、だけど救えなかった誰かの、見ず知らずの他人のために苦しむんだ……
 それでもいいの? それでも後悔しないの?」

 フェイトちゃんの想いを認めるしかないこと理解してる
 既に言葉でも、相手を叩きのめす強い力でも、こんなにも醜い利己的な本音をさらけだしてさえも止められなかった
 今更 こんなことが無意味だって分かっている。 けれど、それでも納得出来ずにいる
 私は否定と拒絶の言葉をどうしても遮ることが出来ない
 言葉続ける程に そこに込めた想いがどんどんすれ違い、乖離していく

 結局のところ…… 私は フェイトちゃんが羨ましいんだと思う

 正しいと思うことは正しいと、良いと感じることは良いんだと、その心から沸き上がる感情を素直に本気で信じて信じ続けられる フェイトちゃんの優しい心がとても大切で、泣きたくなるくらいに暖かくて、なにより羨ましくて、どうしようもなく眩しくて、そして奥底で嫉妬し妬んでる
 所詮、私は私にしか成れないと分かっているつもりいてさえも、そんな風に出来ない自分をどこか蔑んでる

 それなのに、それなのに フェイトちゃんは

「なのは優しい……本当に優しいね」

 自己嫌悪…… 落ち込み塞ぎ込んでいく 私に流れ込む フェイトちゃんの声
 私に向けられるのは、はにかむように微笑みと包み込むような暖かい言葉

(違う…… それは、それだけは絶対に違うよ フェイトちゃん
 私は優しくない優しくなんてない。 絶対に フェイトちゃんと同じなんかじゃない
 ただ利己的なだけ、自分勝手を押し通したいだけ)

「不思議だね……
 私はいつも なのは達の優しさを感じてる。 一人じゃないって感じるんだ。 だから大丈夫。 私は大丈夫だよ」
「フェイトちゃん……」

 フェイトちゃんの想いは どこまでも どこまでも
 歪むことも知らないほど無垢で……
 真っ直ぐなまでに純粋・純白で……
 私の心を貫く。 何も言い返せない

「はぁ~ そこまで言われたら流石に止める言葉がないわ」
「そうだね。 無理矢理止めることが フェイトちゃんの心を、プライドを一番傷つける行為よね」

 振り返れば、パンパンと小気味良く柏手を打ち緊張した場の空気を崩す、少しばかり仏頂面の アリサちゃんがいた
 いつもの大人びた優しい微笑みを浮かべる すずかちゃんがいた
 私と フェイトちゃんとの会話を聞く側の立場に殉じていた二人が、諦めと呆れに覆われた暖かい言葉と一緒に割り込んでくる

「アリサ? すずか?」

「私の可愛い妹分で、まだまだお子ちゃまだと思ってたのに、一体何時の間にこんなにも……
 そんなにも決意が固いなら、しょうがないわね。 私は私のやり方でフォローしてあげる。 だから、フェイトの思うように、全力で挑んでみなさいよ」
「私も……かな?
 私、前々から異世界の技術にもかなり魅力を感じるし、その方面で フェイトちゃんのフォローが出来るようになれたら嬉しいな」

 墜ちた
 その瞬間、私は理解した
 二人とも フェイトちゃんの想いを前に完全に墜ちたことを
 そして 私自身も例外ではなく

「一つだけ約束して欲しい……」

 それは暗く沈んだ声、とても自分のモノだとは信じられない
 想いがあまりにもバラバラで上手く声にならない。 だけど 私は、ようやくそれだけの言葉を絞り出す
 だって…… これだけは、これだけはどうしても分かって欲しいから
 なんとしても護って欲しいから
 絶対に絶対に忘れないでいて欲しいから

「「「なのは(ちゃん)」」」

「絶対に絶対に帰ってきて……
 どんなにボロボロに傷ついても、どれだけ苦しくて辛くても、自分の命を軽く扱わない……最後の最後まで諦めないで……」

 置いていかれるのは嫌なんだ
 独り、取り残されるのは怖いんだ
 大切な人を失う辛さに 私はもう耐えられないんだ
 それは多分、私の一方通行で自分勝手な思い込み

 だけど

「……うん、分かった」

 滲みいる フェイトちゃんの小さく、でもはっきりとした明確な返答
 私の心底に、暖かい小さな灯火が宿る
 こんな自分勝手な想いを押しつける 私に微笑んでくれた、フェイトちゃんがまるで花開くように、小さく微笑んでくれた
 雪が解け、春の訪れのように 私の心に羽が生える

「私も なのはの側にいたいから…… ちゃんと なのはの『『はいストップ!!』』……???」
「二人とも…… 一体何を?」

 なんて見事なシンクロ
 突然のストップに、フェイトちゃんが目を白黒とさせて アリサちゃん、すずかちゃんを凝視する
 申し合わせたわけでもないはずなのに完全に同じタイミングで私達の会話に入り込んでくる

「フェイトは約束してくれたから次は当然……」
「なのはちゃんの番だね!」

 マホカンタ?
 リフレクト?
 クルリと振り返り、私へと向きを変えるのは二人のハンター
 臨戦状態の瞳がランランと輝き、差し込む夕日と心拍数の上昇が二人の白い頬を紅く染め上げる

(あれ? いつのまにか会話の中心人物が フェイトちゃんから 私になってるの……!?)

「わ、私の番!?」

 包囲網に絡み取られた 私に、矛先が変わったことを不思議そうに状況を見守る フェイトちゃんと……
 いじめっ子モード突入の小悪魔アリサちゃんに、「全てお見通しよ」と逃走経路を封鎖、静かに微笑む完全無欠の包囲網を敷く すずかちゃん

 さっきまでのシリアスムードは一体どこへ?
 ……こういうやり取りは嫌いじゃないけど

「私達を欺こうなんて百世紀早い!!」
「世紀なんだ…… 年じゃなくて」

 『ビシ!』っと突き付けられる指先に思わず反応し、ツッコミを入れてしまう 私
 条件反射。 つくづく慣れだなぁ……と思い知る
 でも百世紀先って…… いったいどんな未来なの?

「なのはちゃんも フェイトちゃんを見守るために管理局に入るつもりでいるんだよね?」
「なのは…… そうだったの?」

 本気で 私の考えを お見通しでいらっしゃったのは すずかちゃん
 フェイトちゃんは そのことに驚いているみたいだけど、アリサちゃんも『やっぱりね』っていう顔をしてる
 ……私の行動って そんなに分かりやすいのかな?

「そ、それは…… えと……」
「そこで口ごもる時点で既に答えは明白よね」
 はい、正解です……
 あまりに正しい指摘に冷たい汗が背中を伝って落ちる
「あ、あぅ……」

 不味い…… 不味いよ
 最初から逃げ道がない! しかも観覧車内は完全な閉鎖空間で、あと数分間はこの状態!?

「だ・か・ら なのはちゃんも フェイトちゃんと同じように 今! ここで! 私達に! 誓わなくちゃ駄目だよ?」
「拒否権はなし。 フェイトには一方的に約束させて自分は約束しないなんて認められないわ」
「……なのはの方が 私よりも無理してる」

 フェイトちゃん参戦……
 その上、どアップで勢い良く迫る フェイトちゃん
 お願いだから そんなに顔を近づけないで…… ドキドキしてまともに考えられなくなっちゃうんだよ
 その、二人以上に真面目で真剣な声色と表情に包囲網が益々堅固なモノへと強化されたことを実感し、同時に巨大過ぎる相手に絶望を味わう

「そ、そうかな……?」
「「「そうだね(よ)」」」

(そ、即答……? しかも驚異のトリプル・シンクロ?
 もう…… 駄目なの)

「当然…… 違反に対する罰則も決めておかなくちゃいけないわね」
「それ、当然なんだ…… アリサちゃんにとっては」

 フフンと胸を張って話す様子に『そんなに嬉しそうに…… アリサちゃんってもしかしてS?』
 ……と思いそうになって、即座に止める
 アリサちゃんにギロリと睨まれたからだ
 こういう時の アリサちゃんって、気察に優れる御神流を修行中の 私よりも鋭い

「違反事項は、怪我してても 私達に黙って無理や無茶をしていたとか、泣きたいくらい辛いのに 私達に何も相談しないこととか……かな?」
「すずかちゃん…… どこからかペンとメモまで取り出して、今から草案つくりなの?」

 ペンを握る すずかちゃんの右腕が舞い、私の目でさえ捉えることが困難なほど高速で文字が表記されていく
 すずか参謀を中心として、既に敗戦処理が始まっている……
 『そうだよー』って、笑顔で頷く すずかちゃんに、魔法で虚空から出てきたみたいなことを突っ込んだら終わりなんだろうなぁ……

「なのはと一緒……」
「あの フェイトちゃん、そんな微笑まないで…… 多分、この罰則って フェイトちゃんにも当てはまるんだよ?」
「なのはが守ってくれるなら、私もちゃんと守るよ?」

 燕返しの如く見事に切り替えされた……
 嬉しそうに頬を紅潮させる フェイトちゃん
 もし フェイトちゃんと同期の管理局員になったとしても、慢性的な人手不足と 私達の総ランクからして別々の部署に配属される可能性が高いはずだよね……
 私がランクを誤魔化すとか?
 いや、駄目…… 既に プレシアさんが 私と フェイトちゃんの活躍(やや誇張気味?)を管理局内に広めてて意味がない
 私がトップを、組織の乗っ取りを狙うしかないかな……

「罰則は…… 丸一日拘束?」
「そうだねぇ…… 遊園地とか映画館とか、あと 私達のお家に監禁とかでも良いんじゃないかな」

 和気藹々。 まるで日常の如く弾む会話のキャッチボール。 でも内容は身震いするほど物騒なモノ
 っていうか…… いつのまにか そこまで話が進んでいるの?

 私は戦闘中に意識を散らす愚かさを自覚させられた

「罰則……なの?」
「罰則よ!」

 即断即決。 すっぱりと断言される
 そこまで爽快に両断されてしまうと アリサちゃんの言葉全てが正しいと聞こえてしまうから不思議だ。 これも アリサちゃんの持つカリスマなのかもしれない

 正しく王者の風格だね

「しっかり刑に服して(私達に)償いをしてね…… ちゃんと食事も付くから
 あ、それとも 私の家で無期懲役? 今なら 私と一緒だったら外出許可もアリだよ?」
「ちょっ!? すずか!! それってほとんど! け、け、けけけ……けッk!?」
「け……? けん、健康器具?」
「ちぃ……がぁーーーッう!!」

 バタバタと両手を上下させ異議を申し立てる アリサちゃんだけど、なんか 私にとって かなり不利不当で一方的な裁判だよ
 アリサちゃんも赤い顔をしながらも、そんなに嬉し楽しそうに話さないで欲しい……かな
 すずかちゃんは言わずもがな、終始満面の笑顔のまま この現状さえも楽しんでいるようにしか見えない

「……ぅん?」

 手の甲に白く細い指先がスゥっと触れ、一瞬の躊躇いを経て握りしめてくる
 優しく触れるその感触がひどく心地よいもので、私の心を落ち着かせる。 その控えめな気遣いが嬉しくて、思わず その手を握り返すことで それに答えようとしてしまう

「なのはは…… 二人に大切に思われているね」
「それは フェイトちゃんも同じだよ?
 でも…… なんだか問題を起こすことを前提に話が進んでいるような気がするよ」
「なのはにとっては迷惑?」

 問題が解決したわけでなく、考えなきゃいけないこと、決めなきゃいけないことは逆に増えたのかもしれない。 だけど、フェイトちゃんとの会話に笑みが溢れてこぼれ落ちる
 繋いだ手。 握る指先に熱が篭もる
 フェイトちゃんが感じているように、私も フェイトちゃんの存在をいつも以上に身近に感じられる
 それだけじゃない。 私達の見つめる先、白熱した議論を交わし合う アリサちゃん、すずかちゃんも……

 三人の心が 私の心のすぐ側に、とても近くてあたたかかった

「ううん…… 迷惑じゃない、嬉しいよ」
「うん」

 観覧車に差し込む紅い夕日が、全てを優しく黄金色へと変えて……
 私は それがとても綺麗だと感じられた

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ロジカルなのはIF4話②ー3

 4-2 その③

『ここは…… どこだろ?』

 沸き上がる疑問を言葉に変えることなく 私は胸中で呟く。
 そこは何も見えない、そこでは何も聞こえない、自分自身の身体さえ正確に認識することが出来ない無色透明で無機質な世界。 多分 私は今、私自身の、否、もしかしたら 私を知る誰かの夢の中にいるのような気がする。 それは論理的な根拠に基づくモノじゃない。 けれど、それだけはただ漠然と感じ取れるんだ。

『あ……』

 世界の変化はあまりにも唐突に起こる。
 不思議な感覚が世界全体へと広がる。 私はそれに為す術もないまま囚われてしまう。
 スゥーっと頭の熱が奪われていくような感触。 何よりも心地よい冷たさが口内を覆い尽くし満たしながらもジワジワと広がっていく。
 トロンと癒されるような甘さが口内全体でとろけ、舌へと染み込み侵していく。

 冷たい冷たい冷たい…… 全身に蓄積された大きすぎる熱量が奪われていくのを感じる。
 甘い甘い甘い…… 糖分が満たされ脳へと活力を与えてくれる。

『使われている砂糖やクリームは最高級っていう代物じゃない…… けど、その一つ一つの作業や行程はとても丁寧でしっかりと作りこんでるね』

 冷たく甘い何かが、大地に染み込む粉雪のように浸食し続ける それを、超一流のパテェシエを母親に持つ 私の味覚が冷静に、決して低くない判断を下す。 それは 私も知るモノで、私のごく身近にあるモノ。 そう、私の家で経営する翠屋と同質のモノ。 そこには安く美味しいモノを、より多くの人達に味わって欲しいと願う料理人の意志とプライドがあった。

『かなり美味しいね…… ん?』
 再び異変が起こる。
『ちょっと…… あれ、ペースが速ッ!?』

 次第にそれは舌先に心地よくとろけていくよりも早いペースで供給され初め…… ほとんど累乗で増加していく それは、私自身の処理能力を超えて徐々に、いやむしろ爆発的に蓄積されていく。 それはまるで、粉雪舞い散る趣ある風景から局地的な豪雪へと移行したかのように思える。

『このままじゃ ま、まずッ!? 雪山遭難…… 違う、救助を…… SOSを!?』

 既に口内を隙間無く満たしつつある冷たさに脳は耐えきれず悲鳴を上げ、危険信号を発し続ける。
 世の無常か。 けれど、私の必死な訴えが天に届くこともなく、その冷たさが凍傷のように舌先の感覚を麻痺させ、私をさらに危機的状況へと追いこんでいく。

 そしてついに破綻の瞬間が訪れる

 キィィィィィィィィィィィィィン!!!!

「ふみゃぁーーーッ!?」
 ガタンと大きな音が響く。 私はいつのまにか両手で頭を抱えながら椅子から勢い良く立ち上がっていることに気付く。
 無機質なモノ全てが吹き飛び、私をおおう全ての感覚が元通りに復元されていく。 そこでようやく 私は今まで椅子に座っていたらしいことを知り、その脳に直接響くような鋭い痛みに頭を刺しぬかれ、瞬間、色が音が戻り世界は現実味を取り戻したことを実感する。

「……なのは?」
「はぁ やっと気付いたわね」
「そうだね アリサちゃん。 なのはちゃんもやっと正気に戻ったみたいだよだね」

(フェイトちゃん? アリサちゃん? すずかちゃん?)

 私の座る白いプラスチック製の椅子と対になる白い丸テーブル。 そして目の前にある金魚鉢のような大きさの器にバニラ、チョコレート、フルーツ…… 山々と盛られた巨大で豪華なデコレートのなされたパフェ。 おそらく名称はスペシャルジャンボパフェ。

(パフェはお昼の後って…… あれ? 空になったお皿が…… 私、いつの間にかお昼食べてたの? しかも食べ終えてる!?)

 急変した世界を受け入れきれずに驚愕する。
 片づけられた複数のお皿。 妙に威圧感を放つ目の前の巨大な金魚鉢。 そしてそれを挟んで座る アリサちゃんと 私の左右に陣取っている フェイトちゃん、すずかちゃんの姿。
 何故かパフェの頂上、アイス部分は既に半分以上が削り取られ、私を囲むように三人からアイスをすくったスプーンが向けられている。

 この状況でまず初めにしなくちゃいけないことは……

「あの…… 三人とも何をしているの?」
 左側から フェイトちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんと席に着く一人づつ見回しながら当然聞くべき疑問を口にする。
「えと…… 私は なのはにアーンをしてみたくて……」
「そ、そうよね!! フェイトの言うとおり!!
 ひ、人として! お、恩はちゃんと返さなくちゃ!!」
「それに なのはちゃん、なんだか疲れてたみたいだから…… 糖分の補給も必要かなって?」

(ぅぅ…… あぅ
 私、お化け屋敷から全然意識ないよ? ここまでの記憶がほとんどすっぽ抜けてるの……)

 目に見える状況から、あの頭痛の原因がアイスにあることだけは理解出来たけど、どうして そんな状況に陥っているのかは、さっぱり分からない。

 少し言い辛そうに、すまなそうな瞳で見つめてくる フェイトちゃん
 何故かつやつや、すべすべなほっぺを でも、真っ赤に染め上げたまましどろもどろな アリサちゃん
 いつも通りの笑顔で、にこやかに優しく微笑んでいる すずかちゃん
 様々な会話が展開される中、それでもなお 私の前にスプーンが差し出されたままなのは……
 僅かたりとも揺らぐことなく 私に突きつけられたままなのは……
 それはつまり、私はこれを食べなければならないんだろうか?

「あのさ…… このパフェっていつ注文したの?」

 質問の方向性を変えてみる。 特に この目の前のパフェ。 ここは食券を買う形になっているから、誰かがお金を払ったことになる。 元々 私がおごる予定で、しかも お母さんから『しっかりエスコートしなさいね』と お小遣いを色をつけて前借りさせてくれたのに、ここにいる誰かに払わせてしまったとしたら本当に申し訳ないし…… 何より そんなことが お母さんにバレたりなんかしたら恐ろしすぎる。
 ここは絶対に 私が支払いを…… おごらなくちゃいけない!!

「これも…… それも…… あと、昼食も クロノのおごりだって」
「そうなんだ。 それで クロノ君はどこ……ッ!?
 ……何してるかな クロノ君は?」

 フェイトちゃんは そう答え、手にしたスプーンを所在なさげにふらつかせ、最終的にはアムと口に含みこみ上げる甘さに思わず幸せそうに綻ばせる。 最近、そんな風に女の子っぽい表情を見せるようになった フェイトちゃんを視界の隅に置きながら、私は クロノ君の姿を探し求め…… そして、硬直した。

「僕は…… 僕はぁ…… 僕はぁぁぁ……」

 テーブルに突っ伏したまま、酔いつぶれた四十過ぎのオッサンの如くやさぐれ、お経のように延々と恨みつらみを呟き続ける クロノ・ハラオウン執務官の黒髪が視認出来た。
 黒色が少し薄くなったかな?
 エイミィさんが苦笑しつつ慰めてはいるけど…… 彼はもう色々と振り切れちゃっていて、しばらくは戻ってこれないだろう。

「ああ、あれね。 エイミィさんが言うには、私達が来る数分くらい前に どこからか現れた猫耳メイド娘の胸に埋もれているとろこをクラスメイトの女の子数人に見られたって言ってたけど…… 実際のところ、私にもよく分からないわ」
「事実かどうかは夏休み明けのになれば分かると思うよ。 クロノ君の新しい渾名が凄く楽しみだよね」
 アリサちゃん、すずかちゃんも 私達に補足するように会話へ乗ってくる。 でも すずかちゃん、その発言はちょっとばかり負のオーラが出ているよ?
「まぁ、クロノって生真面目だけど大人っぽくて頼りがいがあるし優しいから、下級生にも人気があったのよね」
「もう風前の灯火だよね。 世界恐慌並みの暴落を魅せてくれそうだよ」
 二人とも既に過去形なの?

 クロノ君がどうしてそんな状況にまで追い込まれたのかまでは分からないけど……
 とにかく、クロノ君の学園ライフが色々な意味で終焉を迎えそうなことだけは理解出来た。
 不本意ながら小学校編入した十五歳男の子。 それでも任務を円滑に進めるためコツコツと地道に周りの同級生達(六年)の信頼を積み重ねてきた優秀な執務漢。
 その境遇がなんだか哀れすぎて、私が思わず同情してあげたくなってしまう。

(……あれ? でも、この状態の クロノ君がおごってくれたって?)

「ああ、なのはちゃん。 正確に言うと、おごってくれたのは クロノ君と エイミィさんだよ」
「『正確』…… というか『事実』を言うなら、クロノが呆然と黄昏れているのを良いことに そのお財布を笑顔で抜き取った エイミィさんがおごってくれたのよ」
 流石親友。 私の表情から その疑念を察したらしく、二人が フェイトちゃんの言葉に上手く肉付けしていく。
「そ、そうなんだ……
 アリサちゃん、補足をありがとう。 おかげで クロノ君の不幸具合がとても良く分かったよ」

(本当に…… 現実って、こんなはずじゃないことばかりだよね、クロノ君?)

 思わず深い深い溜息が漏れる

『さあ、良い子のみんなーーーッ! 準備はいいかなッ!!』
『『『『『はぁーーーーいッ!!!!!!』』』』』

 その空白となった会話の合間を縫うように、スピーカーに増幅された若い女性の声と子供達(多分)の元気な声が 私達のくつろぐ この場所まで届いてくる。
 既に それまでの話が一段落していたため、自然と 私達の聴力は その流れてくる声へと集中し、それがごく自然に次なる話題へと繋がっていく。 どうやら音源はすぐ隣からみたいだ。

「あ、隣の会場で何かのイベントが始まったみたいだね」
「ええ……と 『魔導戦隊マジョレンジャー』? これって今放送中の特撮モノよね?」
「うん、そうだよ」
 すずかちゃんの言葉を受け、アリサちゃんはすぐさま遊園地のパンフレットを開き必要な箇所、今後のイベント情報などを次々と確認していく。 さらに それを覗き込むように見ていた フェイトちゃんが話しに乗ってくる。 どうやら フェイトちゃんの興味を誘う話題だったらしい。 その紅い瞳が燃え上がるように アリサちゃんの手元にある記事を見つめている。

「フェイトは知っているの?」
「知ってる。 この番組は アルフが好きだから、私はいつも一緒に見てるんだ」

 うん、そうだよね。 休日の早朝鍛錬の後、シャワーもそこそこに半乾きの髪のままリビングまで アルフさんと一緒にダッシュしてるもんね フェイトちゃんは…… しかも、NHKの盆栽番組見ようとリビングで陣取ってた兄さんを胸に抱きかかえた子犬フォーム・アルフさんとのダブル上目使いで完全撃退してたしね。 あれって、私の家では既に最強レベルの攻撃だよ?
 結果、お母さん権限によりシャワー後、フェイトちゃんの髪の毛を乾かすのが 私の仕事として定着なんだよ。

「そうなんだ? じゃあ、なのはちゃんも フェイトちゃんと一緒に見てたりするのかな?」
「私は…… ごめん、見てないんだよ」
 フェイトちゃんの次にシャワーを浴びて、フェイトちゃんと自分の髪を乾かすから見てる暇ないから
「うん、なのははリーダー役をやっているピンク色の女性が『桃子』さんなのが見づらいんだって」
「『桃子』さん?
 ああ、なるほどね…… 流石に自分のママと同じ名前なのはちょっと引くわよね」

 たしかにそうだよ。 特に大きなお兄さん達が『桃子』さん役の人に熱狂してるのなんかは、物凄く引く。 それこそ思わず、問答無用で殴り倒しちゃいそうなくらいに……
 それにお父さんが この現状によく我慢出来るなと思ってたら…… うん、なんか物置でお母さんに『やりすぎ』だって折檻されてたみたいだし、しばらく翠屋のお菓子も食べさせて貰えなかったっけ。

「内容は…… 悪の大魔導士が世界を混沌とさせるために強奪した封印されし危険な魔法を、正義の魔女達が回収・再封印する話?
 この五人の魔女……見た目は女性だよね。 なんだか戦隊モノとしては女性比率が大きくないかな?」
「すずか、そうなの? 女性役が多いのは確かだけど、ちゃんと男性役も出てるよ」
「大きなお姉さん(主婦)とかお兄さん用かしら…… 色々なニーズに答え、視聴率を取るためとはいえ、制作サイドも大変よね」

 幸い、その努力は正しく報われているみたいだけどね。
 十歳前後の男の子と その保護者だけでなく、三十、四十の主婦達。 二十歳を超えているだろうソレ系の趣味を持った人達。 この園内で最も大きな会場をも埋め尽くすほど沢山の人影が 私達のいるこの場所からでもはっきりと確認出来る。
 私は『戦隊モノって、基本男の子のための番組だしね。 ああ、そういえば ユーノ君も この番組好きだったなぁ……』などと、漠然と考えながらみんなの話しを聞いている。

『大変! 大変! みんな大変だよ! 悪の魔導士が会場を襲ってきました!!』

 お姉さんが必死に叫ぶ。 どうやら会場を本格的に盛り上げにかかってきたみたい。
 会場がさらに熱くなる。 狂乱という言葉は正しく この状態を意味するのだろう。 その中でも、特に大きなお兄さん達の盛り上がり方が凄まじい。

「そういえば戦隊モノの悪役って変に目立つだけで無意味な行動ばっかりよね…… 白昼堂々、一般市民を襲うとか、そんな無差別テロやるよりももっと効率良い方法もあるのにね」
(アリサちゃん…… それだと番組が成り立たなくなっちゃうよ)
「アリサちゃん、それは言わない約束だよ?
 一般的なヒーロー戦隊モノの鉄則に反しちゃうじゃない。 そもそも正義の味方自体が敵を倒すだけで後始末もほとんどしていかない集団だし、現実的に深く考えても意味もないんだよ」

 だいいち、本当に世界征服するつもりだったら一から組織を立ち上げるよりも大きな勢力に取り入った上で、裏切りや謀略を駆使しつつ敵対勢力を排除しながら勢力内での地位を確保。 その上で組織を乗っ取りつつ地域住民の支持を…… 駄目だ。 とてもお子さま番組じゃなくなる。
 ともかく、この国内で一番やくざな組織っていうのは『国家』なんだよね。

「そうよね。 こういうのは フェイトみたいに素直に楽しんだモノ勝ちみたいなものだしね」

 フェイトちゃん、すずかちゃんが盛り上がる会場に意識を向けている中、考えても意味のないことを延々と考えていたことに気付き、私も アリサちゃんも同時に苦笑する。 そして、目の前のパフェとのバトルで既にくどく感じるほど甘ったるくなった口内を癒すため、アイスコーヒー(おそらくインスタント)の満たされた紙コップを手に取り含もうとして……

『良い子のみんなーーーッ!! 私と一緒に呼びましょう!!』
『せぇーーーのッ!! 『『『『『桃子ちゃぁぁぁぁん!!!』』』』』』

 ブッ!!×2
 ビチャビチャッ!!

 吹き出した……
 ヤツがいたから……
 その呼び声の中にヤツの甘えきった声を聞き取り口内に含んだ、ほぼ全てのコーヒーを真っ黒いシャワーのように噴射した。
 よく見れば アリサちゃんも同じようにコーヒーをぶちまけている。
 同じアクションを起こし見つめ合う私達。 アリサちゃんは目を丸くし、信じられないモノを見せつけられたかのように呆然としている。 もしかして、私もまた アリサちゃんと同じ表情をしているんだろうか?

「なのは…… アリサ…… 冷たい……」
 私のよく知る声。 その周りの大音響に紛れ消えてしまいそうな掠れる声に我に返る
「ぐっしょり…… フェイトちゃん、大丈夫?」
 ポケットから白いハンカチを取り出そうとする すずかちゃん。 そして、私と アリサちゃんに挟まれるように座っていたのは

「ぅぅ……」

 色白できめ細かい肌に、金色の長い髪の毛に、今日この日のためおろしたての真新しい上着に、ポタポタと雫を滴らせる フェイトちゃんがいた。 前髪が ぶちまけられたコーヒーを滴らせながら覆い隠し確認出来ない。
 フェイトちゃんの表情がどうしようもなく気になる。
 フェイトちゃんは普段冷静だけど激昂しやすい部分がある娘だけど その性格から考えて怒ってはいない……と思う。 だけど この場合、私的には泣かれるほうが辛い!!

「ご、ごめん! フェイトちゃん!!」
「ちょっとまって! すぐに拭くわ!!」

 硬直解除。 そして 私、アリサちゃんの同時行動。
 ほんの僅かな距離。 それでも 私達は全力移動で詰め フェイトちゃんに吹きかけたコーヒーを二人で拭いながらも その様子を伺う。
 良かった。 怒ってはいないし泣いてもいない……みたい?

「私は大丈夫だよ……むぅ」
 フェイトちゃんが少しだけ悲しそうに濡れた洋服を見つめる。
 その原因でとなった 私が言うのもおかしいかもしれない。 けれど、黒い布地で白い肌が透けることがないのだけは幸いだったと思う。
「フェイトちゃん、シミになる前に洗った方が良いと思うよ」
「たしかに すずかの言う通りね。 フェイト、一緒に洗面所まで行きましょう」
 すずかちゃん、アリサちゃんが フェイトちゃんの手を引き立ち上がらせようとする。
「そのお洋服…… プレシアさんに買って貰ったお気に入りなんでしょ? だったら早くしたほうがいいよ」
「う、うん…… 分かった」

 二人の気遣いに説得される。 そして、当然の如く女性用の洗面所に入ることの出来ない 私は(だって男の子だし!!)
 フェイトちゃんに掛かったのがパフェの真っ白なクリームじゃなかったことに、最悪な事態だけは避けられたことに安堵しながらも……

(…………)

 かつて、私が アリサちゃんにシュークリームのクリームを吹き付けられた忌むべき過去を思いだし苛ついていた。<『魔法少年ロジカルなのは1-1』参照
 あの時 私に向けられていた不快な視線の束が フェイトちゃんに向けられた可能性を思いうだけで 黒い何かが心の奥底から隆起し、どうしようもなく腹が立ってくる。  例え それが想像の範囲に過ぎないことだったと自覚していても、このこみ上げてくるマグマのように熱い怒りに歯を食いしばり…… 駄目だよ。 抑えきれない。

 だから、第○回・脳内会議全会一致で その原因に対し八つ当たり…… 否、正統なる報復を断行することを即決する。

「じゃあ 私は…… ちょっとシメてくる?」
「ええ、お願いするわ、なのは」
「うん、こっちは任せて貰って大丈夫だよ、なのはちゃん」

 私の言葉に力強い笑顔で親指を立てる アリサちゃん、すずかちゃん。 それに答えるよう 私も不敵に微笑み親指を立てる。
 この瞬間、私達の意志は統一された。 パフェの残されたまま、一時的とはいえ誰もいなくなる このテーブルを エイミィさんに任せ 私は立ち上がり席を離れる。

「……ッ! ……ッ! ……ッ!」

 駆ける 駆ける 駆ける 人の波間を潜り抜け、脱兎の如く駆け抜ける

 冷たく固まった意志を抱えたまま熱狂する会場に駆け込みごった返す人と人との僅かな隙間をすり抜けるように音も立てずに走りさる。
 肌にまとわりついてくる周囲の汗くささやむさ苦しさ気合いではねのけ視界から削ぎ落とす。 そして、ただただターゲットの捕獲のみに意識を集中していく。

「桃子ちゃぁぁぁぁん こっち向いてぇーーーーッ!!」

 聞こえる……

 その他、多くの雑音に紛れながらもヤツの声がはっきりと聞こえる
 ヤツの黄色っぽい毛並み、ヤツの小さな姿をしっかりと視界の中心に捉える。 どうして こんな場所でヤツが あの小動物形態でいるのかは分からない。 でも、どうでも良い…… どうせ 私にとっては下らない理由に違いないから

「やた! こっちに来t『ガシ!!』ぁらば!?」

 数十センチの小さなナマモノを低空ジャンプでひっつかみ そのまま回転して立ち上がる。
 突然、しかも目の前で起こった会場の真ん中にいる役者さん達以上の派手なアクションに周囲の人達が硬直し息を飲む気配が伺える。
 少し不味いかもしれない…… 必要以上に注目を集めている。 そう判断した私は、周りが固まっているのを幸いと そのまま走る速度を上げて一気に走り抜ける。

「な、なのは!? え!? なッ!? ちょッ!!
 あぁ…… 男の子の理想郷がぁッ! 熱いリビドーがッ!! 神秘の白い逆三角形が遠ざかっギャピ!?」

 放っておくと際限なく有害な妄想・妄言を撒き散らしそうな雰囲気の淫獣に、私はブゥンブゥンと大きく力強く腕を振ることで答える。
 舌を噛みアグアグと呻き、大きく揺さぶられた脳味噌は既に平衡感覚が失われているだろうが、しゃべるフェレットを見られるよりはマシだろう。 それも手遅れかもしれないが……

 でも多分大丈夫。

 面倒な尻拭いは管理局がやってくれるはずだ。 ついでに このナマモノ…… いや、ユーノ君も刑に服してくれれば一石二鳥?

「……ふぅ」

 人気のない建物の陰に駆け込む。 その間、私は証拠隠滅に思考能力の大半を割きながらも両手の中にいるフェレットもどきを軽く締め上げつつ宙へと吊り上げる。
 必殺・ヘレット絞首刑……

「うぅぅ…… 景色が、グルグル き、気持ち悪い……」
「それって完全無欠に自業自得だね。 分かってるよね?」

 ポテチ…… ベチャ

 腐りきった果実が地面に落ちて潰れるような鈍い音がする。
 手の中にあった今にもリバースしそうにプルプルと震えるナマモノを、私が一瞬の躊躇もなく離す。 当然だろう、あれだけ縦横無尽に振り回せば脳の状態だって正常に保てるはずがない。
 私も吐瀉物で汚されるのはごめんだしね。

「それで…… どうして ユーノ君がこの場所にいるのかな?
 それは不本意な現実で、最近はもう ここに居る理由さえ見あたらないけど……
 君はフェレットとして、一応は 私の家で飼われてるようなモノだから この次元世界の通貨も持っていないはずだよね」

 我ながら氷点下以下まで冷たくなった言葉に眼下のナマモノ…… 『ユーノ・なんたら』がピクリと反応を示す。
 あれ、もう再生してるの? ギャグ体質とはいえ、最近化け物度が増してるよね。

「フッ 目の前に雄大で見事、かつ美しく柔らかな真っ白い双丘があるなら挑むのが漢……ぅぇッ!?
 ごめんなさい、お願いだから無言で睨まないで下さい」
 ヘタレだね……
「……入園はフェレット料金が書いてな『それはつまり、ユーノ君は人間じゃないってことだね。 へレット族? かつて地底世界に閉じこめられた悪魔族の一派とか?』……え、えぇと それは……」

 あからさまに動揺。 明らかにもつれる舌。 目に見えて動揺する眼下の小動物。
 冗談も混ぜて冷たいツッコミ入れたつもりだったけど…… もしかして本当に凍結封印されたことがあるの?
 やだなぁ…… うん、何時でもどこでも縁を切れるようにしとかなきゃ

「それに クロノ君からも魔法の認知されていない この世界で余計な騒ぎを起こすなって言われてるのに、なんだって君は小動物形態で何を大声で叫んでいるんだよ?」
「大丈夫だよ!! 遊園地は現実から切り離された夢溢れる子供達のファンタジーな世界! だから僕がコスプレ感覚で着ぐるみ着てても特に違和感ないから!!」

 何、しょうもないことを力説してるんだよ?

「……大きさが全然違うよ」
「も、問題無いよ!! だって、僕の周りに居た信念を等しくする人達とは分かり合えたから!!」
「それは子供達の話じゃなくて、大きなお兄さん達じゃない……」

 ユーノ君って九歳で良いんだよね? それで会場にいた同世代の子達じゃなくて、一回り以上上の、しかも特殊な趣味をお持ちの二十歳を超えるお兄さん達と話が合うって……
 よく、私や アリサちゃん達も精神年齢高いって言われるけど、ユーノ君もある意味で精神年齢高いよね。 もちろん駄目進化、無駄究極体っていう意味だけど。

「はぁ…… まあどうでも良いよ。 この件は目下、自我自失中の クロノ君にきちんと報告して、しかるべき対応をとってもらうから」
「ちょッ!? なのは!!」
「うん、しばらく ユーノ君のフェレット顔は見れなくなるかもね。 全然寂しくもないどころか万々歳だけど、とりあえず冷たい床と粗末な食事でも真面目に労働に従事してね」

 私を止められないことが本能で悟ったか、ドタンバタンと暴れ出し、逃走を謀ろうとするフェレットボディを踏みつけ、それだけで動きを封じる。 この本能に忠実なナマモノを野放しにしてはならないという強い使命感が 私を動かしているのだ。
(でもこれ、どう処理したら良いんだろ? どっかで引き取ってくれないかなぁ……)
 本気でそう思い願う。 今なら多少割高になっても、リサイクル料金を払ってでも引き取って欲しい。
 『管理局局員ってお給料いくらかな』と、真面目に考えながらも苛立ちを誤魔化すように少しづつ踏みつける足に力を込めていく。 それは『むぎゅぅ……』と空気の抜ける浮き輪みたいだ。
 このまま押し続けたらペチャンコになって折り畳めるようになったりしないかな?

 硬直する状況の中、変化は思いがけない方向から訪れる

「そこの君…… こんな場所で一体何をしている?」
「あ、はい ……警備員さん?」

 青い制服に身を包んだ四十代半ば、二メートル近い身長で大柄な無精髭おじさん。 しかも、被る帽子の下に輝くは天然スキンヘッド。
 気配を感じ取り 私は慌てて踏みつぶす寸前のフェレットを解放し、何事もなかったように抱き上げる。 いかに天誅とは言え、流石に動物虐待(見た目だけ)の現場を見られるのは不味い。 だから 私は咄嗟に『可愛い小動物を見つけた小学生』を装う。

「……ん? そのフェレットは君のペットかい? 駄目だよ 園内はペット同伴禁止なんだから……」
「ごめんなさい…… だけど違います。 私は偶然、この子が紛れ込んでいるのを見つけて ここまで追いかけてきただけですよ」
《え……? えぇーーーッ!?》

 私達の目の前まで歩み寄り問いかける警備員のおじさんに 私は少しばかり薄汚れたフェレットを大事そうに優しく胸に抱きしめ、ニコリと微笑んでみる。 ユーノ君が素っ頓狂な念を飛ばしてくるが、無論演技だ。

「それは…… うーん 野生のフェレットなんてモノがそうそういるはずもないから、他の方が無断で連れ込んだんだろうか?」
「はい この子は結構人慣れしているみたいですから…… どこかから逃げ出したんだと思います」

 右手で無精髭をさすりながら思案にふけるおじさんに、私は『どうしたら良いですか?』と礼儀正しくも、僅かに小首を傾げ出来るだけ可愛く見えるように尋ねる。 どんな世界でも『礼儀』と『愛想』というのは大切なんだよ。

「そうか…… では仕方がないな。 飼い主が名乗り出てくるまで その子は 私達の休憩所で預かろう」
「良いんですか?」
(あれ おじさん、頬が少し赤いよ)
「ああ、大丈夫だよ。 こう見えても 私も、私の同僚達も動物好きが多いからね」
「そうなんですか。 では、お願いしてもよろしいですか?」

 とんとん拍子に話が進んでいく。 どうやら このおじさん、その厳つい風貌に対して本当に動物が大好きみたいだ。 そのことは、おじさんのポケットから覗いている国際的ねずみさんや国民的ねずみさんの携帯ストラップから、まず間違いないと思う。
 彼なら安心して ユーノ君を任せられる。 むしろ積極的に任せてみたい!

《良かったね。 この優しそうな警備員さん(おそらく複数形)が飼い主が見付かるまで保護してくれるって》
《ボディビルダー並みに筋肉隆々で無闇やたらに厳つくて無駄に暑苦しそうなんだけど…… あ、あれ!? 身体が動かない? 動かないよ!? バインド!? 違ッ!? なのは! また僕の変なツボやら急所を突いた!?》

 私の手から警備員のおじさんのゴツゴツした指先へと、フェレットが受け渡される。
 大人しくしているように見えてダラダラと冷や汗を流し続け滑る黄色っぽい毛玉に、『もう、帰っきちゃ駄目だよ』と おそらく初めてであろう暖かい視線を向ける。

「任してくれたまえ。 責任を持って飼い主に返すことを約束するよ」
「ありがとうございます」

 私と警備員さん。
 年齢差、体格差、容姿、大きな隔たりがありながらも、泣きの入りつつある手元のフェレットを完全無視し、その上ではとびきりの笑顔が交差する。

《もしかして、僕捨てられてる!?》
《家の ユーノ君は変態さんなんかじゃなくて、ちゃんと はやてちゃん達の警備も兼ねてお留守番している律儀で誠実な頼れる優秀な結界魔導フェレットだよ》
 それはおそらく、別世界の ユーノ・スクライア
《今更デフォルト設定持ち出されてる!?》
《森の泉に沈めたら…… 女神様が出てきて、”貴方の沈めたのは この金の魂を持ったフェレットor銀の魂を持ったフェレット……” いえいえ、私が沈めたのはただの淫獣…… ”正直者の貴方には この金の魂を持った……” ああ、ありがとう。 ありがとうございます女神様。 産廃の回収、本当にありがとうございます》
《現実逃避してまで、さらりと無視しないでよ!!》

 うん、『心躍る』っていうのは こういう心境のことを言うんだね。 今なら 私、大空高くまで飛べそうな気がするよ。
 脳裏に浮かぶ優しげな女神様(何故か リンディさん似)に心の底から感謝の気持ちを伝え、どこからか雑音の如く悲鳴じみたノイズ混じりで紛れ込んでくる念話を 私には必要ないモノと決め込み完全無視する。

 私との会話を終え、小さくなっていく警備員さんの嬉しそうな背中と軽い足取りを見つめながら、本日最高の出来事にどうしようもなく満面の笑顔が飛び出てくる。 これで心置きなく、午後からもみんなと一緒に遊べるよね。
 ああ、お化け屋敷に入った後遺症は完全に消え去り、足が身体が心が ものすごく軽く感じる。

「ハッハッハ それじゃあ行こうかぁーーー」
《うえ!? この人、指毛までボウボウ…… 熱帯雨林じゃないか!!
 この剛毛…… 武器化…… 武器化するのか!? 戦闘時にオーラを通して硬直鋭利化するのかーーーッ!?》
 優しく撫でられる警備員さんと撫でられるフェレット
「ほら、あまり暴れたら駄目だよ…… 部屋に戻ったら、うんと自由に遊ばせてやるから」
《ぐぅぼらッ!? あ、汗くせぇーーーッ!! 暑苦しいうえに そんな分厚い胸元に抱き寄せないでよ!!》
 それはむさいオッサンの熱い抱擁
「可愛いヤツだなお前は…… んん? 毛並みが少し汚れているな。 後で一緒にシャワーでも浴びるか」
《ぐぅごぉごぉ…… ジョリジョリ…… 髭、面で…… 頬ずり、する、なぁ…… ごべっ》

 それはスキンシップ親愛の証

 良かったね ユーノ君。 このSSでかつてない程のモテっぷりだよ。 それに君の行き先で待ってる同僚達からも同じ扱いされそうだからモテモテ?
 なんなら、そのまま居着いちゃっても良いから こっちにだけは帰って来ないでね。

《GOOD LUCK!! ユーノ君》
《なのはぁぁぁーーーーッ!!!!?》

 心地よい絶叫(念話)が 私の耳(脳)を叩いた

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【今回のおまけ】

 その後の管理局内某所での会話

「エイミィ 闇の書について、無限書庫にいるへレットから何か報告は?」
「少しづつは届いてるんだけど…… 有益な情報はまだないよ クロノ君」
「そうか…… 協力することが彼を減刑する最低条件だから、監視を付けて睡眠時間を削り無理矢理にでもやらせてくれ」
「りょーかい でも ユーノ君、無限書庫内の本で内部を迷宮化して…… 引きこもり?」
「外部との接触を極度に怖れているみたいだね。 その点は 僕にも詳しいことは分からない。 けど、世にも恐ろしい体験をしたらしい…… 数日前、高町家付近で発見された時には真っ白く燃え尽きてたみたいだよ」
「ああ、だから何時も何かに酷く怯えてるんだ」
「ちゃんと餌だけは与えておけば死ぬことはないから大丈夫だろ…… まあ、入り口にでも置いておけば大丈夫だろう。
 今は それよりも重要なことだらけで そんな細かいことには構っていられないのが現状だよ」
「それもそうだね♪」

 結界ヘタレ魔導士 ユーノ・スクライア
 数々の犯罪行為に対する減刑と引き替えに無限書庫に拉致監禁成功!

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ロジカルなのはIF4話②ー2

注意事項
 本作は「館長」さんの「創作天文台」にて掲載中の「魔法少年ロジカルなのは」のパロディ(三次創作)です。
 館長さんや原作者様から、怒られたら……多分、すぐに更地になります。
 本作は「魔法少年ロジカルなのは6-4」からの強制分岐です。
 なお、桃子さんが理不尽なまでに最強で、プレシアさんは原作、及びロジカルとは逆方向に壊れております。
 以上の事に注意して、納得した上で読んで下さると嬉しいです。


4-2 その②

『はい、ここまでです』

 その言葉を合図に黄色く目立つよう塗装された鋼鉄の鎖がジャラリと重い音を鳴らし、人の波を二つに断ち切る。
 この遊園地において係員さんの身分を証明する写真つきの名札を胸に付けた制服姿の男性により分割された その長蛇の列は、そこを境に安堵と溜息、喜びと残念そうな表情とに分かれる。
 二つを分つもの、それは僅か数分間の差でしかない。 けれど、その数分間の僅かな時を前者はアトラクションを満喫し、後者は その様子を見つめながら再び期待感に胸を躍らせていくことになるだろう。
 私達の並んでいる行列の先には それほどまでに心躍らせるモノがあるのだ。
 それはいくつもの大きな円形に形作られたレーンと、その上を走るように作られた専用の滑車。 赤いボディを持った乗り物が 私達に その姿を晒している。
 つまりここは絶叫系マシンに属する『ローラーコースター』と呼ばれる遊具の前。
 そして、私達は黄色い鎖で分けられたうちの前者であり、ある意味勝利者。 これからすぐに この絶叫マシンを楽しむことが出来るのだ。

「はぁ…… なんとか無事全員で乗れるみたいね」
「うん、人員的にはぎりぎりセーフみたいだね アリサちゃん。
 こういうのは時間を置くと込むだけだから、やっぱり一番人気のは混みはじめる前に行くのがベストだよ」
「朝一から、絶叫マシーンかぁ…… 二人とも激しいんだね」
「これがそうなんだ…… 楽しみ」

 本日第一便のコースターに乗り込むことに成功し、私達のグループを ここまで先導してきた アリサちゃんが少しばかり荒い呼吸とともに安堵の吐息を漏らす。
 実際、入園と同時に アリサちゃんが 私と フェイトちゃんの手を引っ張り、エイミィさんと クロノ君(黄昏モード発動中)を見捨て置き去りなスタートダッシュをかけなければ、おそらく 私達四人はまだまだ長い時間を待たされることになったと思う。
 この際、私達に先行していたはずの すずかちゃんがいつの間にか アリサちゃんとつなぐ右手とは逆の左手を握りしめ、私が引っ張る形になっていたことは、きっと深く考えない方が良いんだろうなぁ…… うん。
 だって、私、アリサちゃん、フェイトちゃんの三人が三人とも夏の暑さとスタートダッシュで軽く汗ばんでいるのに、すずかちゃんだけは涼しげな表情で優しく穏やかに微笑んだままなんだもん。

『乗車中に落としてしまいそうな物は こちらに預けてから来てください』

 私達は係員さんに先導されて四人用の座席に座る。 その席順は右側から すずかちゃん、アリサちゃん、私、フェイトちゃんとなっていた。
 過去の経験から一番外側の方がよりスリルを楽しめそうだと思い、私は停車する赤い乗り物を前に目をキラキラと輝かせて見ている フェイトちゃんに左端を譲ったんだ。
 だけど、このアトラクションを最も楽しみにしていたはずの アリサちゃんが反対側の左端を すずかちゃんに譲ったのは少し意外に感じていた。
(まあ、みんな楽しそうにしてるから……いいのかな?)
 『失礼します』と声を発し、ガチャンと係員さんが黒いバーを降ろす。 それによって私達の身体に動かないよう安全に固定される。

 ゴトン ゴトン ゴトン

 長いような短い時間が過ぎ、ゆっくりと それが動き始める。 長い坂道を少しづつ上っていく その動きにドキドキと 私の胸が高鳴っていく。
『ゴクリ……』
 緊張しているのか? 期待しているのか? もしくは その両方なのか?
 私と私の両隣で、アリサちゃんの、フェイトちゃんの唾を飲み込む声がやけに大きく聞こえる。

 ガタン ギュオォォォォーーーー!!

 ついに滑車がレーンの山を完全に登りきり頂点に達する。 瞬間、位置エネルギーが運動エネルギーへと変換され滑車はは猛烈に加速し走り始める。
 風を切り裂くように進む滑車に 私は思わず身体を固定している黒いバーを強く握り締める。
 私達の髪に顔に身体に、強く激しい風が激流のようにぶつかり続ける。
「……ん?」
 掌を覆う温もりに手が握られていること気付く。
 この手は誰? 誰の手? それは当然…… 隣にいる フェイトちゃんに? アリサちゃんに?
(あれ、違う……両方だ)
 すぐさま視線を左右に動かし その掌の持ち主達を確認する。
 まず左側、フェイトちゃんが唇を噛み締めつつ強風に負けないように目を開けているのが分かる。 どうやら無意識に手が伸びただけみたい。
(フェイトちゃん。 魔法を使用した高速機動の方が激しそうで退屈するんじゃないかって心配だったけど…… 充分楽しんでるみたいだね。 良かったよ)
 続けて逆隣へと視線を移せば、目をギュッの瞑り頬を紅潮させている アリサちゃんがいた。
(手が震えてる…… アリサちゃん、もしかして怖いのかな? ……そうだ!)

 ギュ……

「ぁぁ…… ふ、ふん!」
 握り返された掌に アリサちゃんが熱い吐息を漏らし、瞼を忙しなくパチパチさせ 私を見つめる。
 けど 私が微笑んだら、すぐにプイッと 私から顔を背けちゃった…… なんで?
(ま、まあ よく分からないうちに元気になったみたいだから…… 大丈夫、だよね?)

「「「「きゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ♪」」」」

 結局、二人とも大丈夫そうだったんで 私も楽しみことにしました。
(私だって このアトラクションを結構楽しみにしていたから!)
 爆走する滑車がレールの山を越えるたび、加速と減速を繰り返しながら回って捻って引っくり返る。 その飛行魔法と違い、自分では全くどうしようもない不規則な動きと身体に掛かる圧力が 私達の心拍数を激しく揺さぶり、同時に楽しませる。
 両手に感じる二人の掌の温かさに安心するものを感じながらも、私は この瞬間を充分に満喫した。

 数分後……

「くぅぅぅーーーッ! 楽しかったね!!」
「そうだね なのは。 私も こんなに楽しいとは思わなかった」
「ふふふ フェイトちゃん、まだまだ楽しい時間は これからなんだよ?」

 滑車から降り、出口から少し離れた場所で、両手を全身を天高く伸ばし身体を解しながら独り言のように感想を話す 私に、フェイトちゃんが興奮に意気込み、頬を染めながら食いついてくる。 その仕草に、私と すずかちゃんから自然と笑みが漏れ出し、『ここに来てよかったよね』『みんなで乗るのは楽しいね』『時間が余ったらもう一度乗ろうね』と フェイトちゃんを含めた三人で微笑みあう。

「……ん? アリサちゃん、どうかしたの?」
 そんな中ただ一人会話の輪から外れ、アリサちゃんだけがモジモジと俯いているのが 私の視界から外れずにどうしても気になって仕方が無い。
「べ、べべべ別になんでもないわよ!!」

(いや、そこまで動揺されたら流石に説得力の欠片も無いよ アリサちゃん?)

「アリサ…… 顔、真っ赤?」
「アリサちゃん 急に体調を崩したり、どこか痛めたりしたの?」
「う、うるさい!! 次、次よ次!! 次に行くわ!!」

 心配し、気遣う 私と フェイトちゃんに、何故か終始変わらぬ笑顔の すずかちゃん。
 その三者三様の視線と言葉が集中する中、突然に アリサちゃんはキッと顔を上げ大慌てし、そのまま自爆、何故か暴発する。 そして、そのまま大地をゲシゲシと踏みつけ、両手を大きくバタつかせながらダッシュで次の目的地へと駆け出してしまう。
 呆然とする。
 『目が点になる』ってこういうことを言うんだと、私の中の冷静な部分が頭の片隅でささやく。
 私には全く分からない部分で、色々な臨界点を突破したらしいとしか言えない アリサちゃんの状況にどうしようもない。

(もしかして、アリサちゃんの掌を握り返したのが機嫌を損ねたの? ……だとしたらちょっと凹む)

 どこからどう見ても誰もが全力疾走で爆走していく その様子に、決して少なくない人ごみを器用に、絶妙な動きで隙間を縫って駆け抜けて行く アリサちゃんの背中を 私は、ただただ茫然自失に見つめていることに気付き、自我が急速に復旧していく。

「ア、アリサちゃん!?」「アリサ!?」
「二人とも、ひとまず落ち着いて…… そんなに焦らなくても大丈夫だよ」

 同時に再起動を果たし、アリサちゃんの小さくなっていく背中に追いつこうと慌てふためく 私と フェイトちゃんを すずかちゃんがやんわりと宥めて止める。

「で、でも! このままだと アリサちゃんの姿、見失っちゃうよ!?」
「次の目的地は 私が知っているんだから問題ないよ」
 あぅ……
 すずかちゃんの声は風鈴のように静かで、心に染み入るようにどこまでも冷静で……
「だけど、すずか…… アリサ、かなり慌ててたみたい」
「それも…… うん、あのペースで走り続ければ アリサちゃんもすぐに頭の方が冷えると思うよ」
「「そうなの?」」

 こみ上げてくる動揺をと隠しようの無い不安を抑えきれない。 けれど、すずかちゃんはいつもと同じ、優しく柔和な笑顔で、落ち着き大人びた声で、さらには 私達の手をしっかりと握り締め追跡を押しとどめる。
 とにかく『落ち着く時間と発散する運動が必要』なんだと言い聞かされる。
 そこにあるのは アリサちゃんのことを理解し、信頼しきった顔。
 そんな風に、私には出来ないほど深く分かり合えている アリサちゃん、すずかちゃんのことを…… 少しだけ寂しく、羨ましいと感じる。 少なくとも このときだけは そう感じていた。

「じゃあ、そろそろ 私達も アリサちゃんの後を追う?」
「「うぅぅん……」」

 数十秒後、すずかちゃんが『うん』と満足げに大きく頷き、私達二人の手を引き悠々と歩き始める。 そのあまりに余裕な態度が 私達に反論を許さない。
 結果、目的地を知る すずかちゃんに手を引っ張られる形となって進んでいく。
 スタートダッシュで全力全開に走り抜けた最初とは異なるゆったりとしたテンポの中、私は アリサちゃんが不機嫌になった理由が全く分からないまま唸り続けていた。

 すずかちゃんの指示の元、私達は何も一つ問題なく アリサちゃんに追いつく

「お、ぉぉ…… お天道様が 私を呼んだのよッ!!
 べ、別に なのはの顔を見るのが恥ずかしかったわけじゃないんだからね!!」
 そうでもなかったね……
 開口一番。 出会い頭に アリサちゃんから言葉がぶつけられる。
「??? ……アリサ?」
「え、えぇ……と アリサちゃん? それっていったい……」
「ふふふ アリサちゃんは可愛いね」

 待ち合わせ場所(?)で合流直後に腰に手を当て、ほっぺから首筋まで見事に赤く染め上げられた アリサちゃんが発した意味不明な言葉。 その理知的で理性的な普段(平常時)からは全く想像出来ないぶっ飛んだ表現力と発想力に返す言葉もなく押しやられる。

(ええ、そうです。 そうですよ? アリサちゃんの勢いに圧倒されて 私も フェイトちゃんも無理矢理納得させられたんだよ!
 っていうか…… この状況を理解し合えるってことは すずかちゃんも潜在的に同レベルなの!?)

 果たして、そんな恐ろしい推測を考え込んでいた 私が悪かったのだろうか?

「「「なのは(ちゃん)?」」」
「フヒャッ!?」

 アリサちゃんの発生させた謎のプレッシャーに精神抵抗する中、突然目の前に迫ってくる三つの顔に心臓がバクンと大きく打ち鳴らされる。
 ほぼ毎日顔を合わし会話を交わしあい、既に見慣れたとはいえ、三者三様の美少女達のどアップに転びそうに、否、そのまま頭を地面に打ち付けるような勢で仰け反り、その限界を超える付加が掛かった腰がグキリと断末魔に近い悲鳴を上げる。 そして、その信号はすぐさま脳へと正確に伝達され涙が滲み出す。
 痛みに身体が震え、冷たく嫌な汗が 私の額から流れ落ち背中を伝っていく。

「くぅ くぅぅおぉぉぉ…… みゅぅうぅぅ……」
「す、凄い音が…… なのは、大丈夫? 順番次だよ 乗れる?」
「全く…… 何、ボケっとしているのよ?」
「あは とりあえず、さっきの アリサちゃんが見せた醜態からは想像も出来ないような言葉だよね」

 言語化出来ない苦痛に蹲り、痙攣を繰り返す四肢を持って全身を支える。
 噴出した冷たい汗が重力に引かれて落ちていく、汗に湿った髪の毛が同じように色々な水分で湿ったほっぺや首筋に張り付き不快に感じる。 その全てを押し殺しながら左手で痛む腰を摩りギリギリと歯を噛み締めて必死に耐える。
 だけど、悲しいことに そんな 私を心配し介抱してくれるのは フェイトちゃんだけで……
 他の二人の親友達は『しょうがないわね』や『なのはちゃんなら頑丈だから大丈夫だよ』と既にこの程度のアクシデントは日常で見慣れた光景とあっさりすます。
(この程度って…… 既にデフォルト扱いされてるの!?)
 アリサちゃん、すずかちゃんは大切な親友だけど、こういう部分だけは分かり合って欲しくないよ。 しかも、時々意気投合して協力しあうし……
 フェイトちゃんの優しさが心に染みるよぅ
 お願いだから、フェイトちゃんまで染まらないでね?

「すぅーずぅーかぁー?」
「いやぁーん♪ アリサちゃんに怒られちゃったよぅ」
 ギュゥゥゥゥ
「す、すずかちゃん!? な、ななんで、いきなり 私に抱きつくの!? ちょっと! 圧し掛からないでよ!! さ、流石に今の状況だと…… つ、辛いの……」
「こぉーらぁ…… なのは!!」

 痛みに涙が滲む。 ついでに何でか『私』が怒られる?
 あぅ いつの間にか二人が 私を出汁にお楽しみタイムに入っている。 しかも それに馴染み始めている自分を感じるのも凹む。
 最近、ほんと 私が弄られるパターン多いよね?
 すずかちゃんはともかく、アリサちゃんまで以前とは段違いに手強くなって、私がからかうチャンスなんてほとんどない。
 だ、駄目だよ すずかちゃん。 そんなに強く抱きつかないでよ、ね?
 ……はぁ 私、全然歯が立たなくなってきてるよ。

「なのは、アリサ、すずか あの…… 早く?」

 遊具を前に フェイトちゃんが呟く。
 ポンポンと軽く叩かれてようやく状況を理解すれば、フェイトちゃんは既に順番が回りながらも気付かずにいる 私達三人の様子に戸惑っているみたいだ。
 ちなみに次も絶叫系で上空約八十メートルからの垂直落下式。
 ゴトゴトと少しづつ上昇し後は真下へと自由落下する園内ランク三位以内に入る人気の代物。 その人気ゆえに こちらも結構混んでいたはずなのに、私が他に気をとられているうちに順番がきていた。
 最初に並んでいた行列から想像するに…… うん 私、四十分近くも弄られ続けてたんだね。

 ちょっとだけ泣きたいかも?

「ああ、もう順番なんだね フェイトちゃん」
「じゃあ、早速乗りましょうか」
「うん…… 良かった。 やっと気付いてくれた」

 アリサちゃん、すずかちゃんが両脇から腰痛に苦しむ 私を支えるという名目で拘束し……(えと、これは手首から肘、肩の関節まで完璧に極められてるから これは拘束だよね?) そのまま乗り込み、フェイトちゃんがニコニコ笑顔で それに続く。
 フェイトちゃんには 私が親友の二人に優しく支えて貰っているようにしか見えてないんだろうなぁ……

(この絶叫系アトラクションは待ち時間に比べても、あっという間に終わっちゃったけどね。
 正直言うと、この恐怖よりも腰の痛みの方が辛かったりしたんだよ……)

 次、行って見よう…… 引きづられての移動だけど

 豪奢な装飾のなされた白い建物と その中にいる機械仕掛けの白馬達。 けれど、そこには人の列もなく、その寂しさからか白馬達にも心なし元気がないように見える。
 次の目的地らしき場所を前に二人が軽く唸る。

「メリーゴーランドは…… 休止中?」
「うん、残念だけど そうみたいだね アリサちゃん」
「むぅ……」

 アリサちゃんは腕を組み不満そうに、すずかちゃんはほっぺたに人差し指を当てながら思案顔だ。 そんな二人の前にあるのは『改装中』という太い黒字の看板と、そのことに対する代表者の謝罪の言葉。
 どうやら今回は空振りだったらしい。

「……これは乗れないの?」
「そうみたいだね フェイトちゃん。 何か事故とか問題が見つかって、改装作業が間に合わなかったのかな?」
 まだジクジクと痛む腰を支えるように肩を貸してくれている フェイトちゃんが残念そうに、少しだけ悲しそうに動かない馬達を見つめている。 その表情にチクンと胸が痛み、少しでもなんとかしたい、彼女の、自分の気を紛らわしてあげたいと話しかける。
「少しだけ…… 残念、かな?」
「そんな顔する必要なんて無い、また、来れば良いんだよ。
 私は フェイトちゃんや アリサちゃん、すずかちゃんと一緒ならいつだって行きたいと思うはずだから」
「そう…… なのは、ありがとう」
「うん」

 フェイトちゃんがはにかむように微笑む。 それが嬉しい、その笑顔が本当に嬉しくてしかたない。 だから、私も自然と頬が緩んで、目の前の彼女と同じように微笑んでいるのだと遅れて気付く。

「聞いたわね すずか……」
「うんうん、確かに聞いたよ アリサちゃん……」
 すぐ側に アリサちゃん、すずかちゃんがいた…… 私と フェイトちゃんを囲むように二人で 私達をギュウと抱きしめてくる。
「アリサ? すずか?」
「どうしたの二人とも? そんなに嬉しそうな微笑みを浮かべて……」
「つまり、改装が終わった頃にもう一度 ここに来ることが確定したのよ!」

 戸惑う 私達に、アリサちゃんが堂々と宣言した。 その凛とした声の響き。
 そして、どアップの アリサちゃんの笑顔にはとても迫力があって…… そんな恐怖を凌駕する圧倒的な感情に、私は物凄くドキドキ、バクバクと全身が震え、高鳴った。

「ところで アリサちゃん。 ここ…… 注意事項で『二人乗り禁止』になってるって知ってた?」
「へ、へッ!? し、知ってたわよ!!」

 アリサちゃん、『二人乗り』って…… それ すずかちゃんに注意されるまでもなく危険だよ?

「『二人乗り』は駄目だよ……
 でもちょっと意外かな? アリサちゃんって作り物じゃなくて、本物の馬を持ってて、乗馬の練習もしてるって言ってたよね」
「……馬? ああ、『百矢(びゃくや)』のことね」

 馬主の話が普通に出てきちゃう……
 アリサちゃんは快活で活発な女の子だけど、れっきとした『お嬢様』だ。
 すずかちゃんと一緒に色々な習い事をしていることも知ってる。 けれど『深窓の』なんていう大人しめのイメージなんて彼女にはとても似合わない。 だから、『乗馬』という趣味を聞いたときは アリサちゃんらしいとひどく納得したものだった。

「『百矢』って、あの綺麗で優しそうな白馬のことだよね?
 でも、私が聞いたのは、そんな名前だったかなぁ……」
「ああ そういえば すずかは見たことがあったわね。
 本当の名前は『ホワイトアロー号』って言うんだけど、こっちの響きが 私も あの子も その呼び方が気に入っているみたいだから、みんなそう呼んでいるのよ」
 つまり、『百矢』っていうのは愛称ってことなんだね。
「乗馬かぁ…… 楽しそうだよね。 機会があったら、私や フェイトちゃんも乗せて欲しいな」

 本当に楽しそうだ。 その『百矢』という白馬が大好きで、それと同じくらいに好かれ懐かれているのだと容易に想像出来る。 その絆を、私は素直に羨ましいと感じる。 その輪の中に、私達も入れたら良いなと思い それを言葉に変える。

「え、ええッ!? なのはを乗せるって……
 私が王子様役!?」
「アリサちゃん? ……王子様って?」

 白い軍服に身を包み、腰に豪華な装飾の成された儀礼用のサーベルを挿した『王子様』な アリサちゃんに抱きつく 私の姿が浮かび上がり…… 瞬時に強制的かつ徹底的に叩き潰し、押しつぶす。
 想像の中の 私が白いドレス姿で、しかも 私から アリサちゃんの首筋に抱きつき、その胸に顔を埋めていたのは絶対に秘密だ。
 きっと以前に アリサちゃん達に強制的に着せ替えさせられたときの後遺症だよね…… うん。 きっと、そうに違いないよ。

「じゃあ、私は なのはちゃんが練習して上手く乗りこなせるようになったら一緒に乗せて貰おうかな…… お姫様抱っこで」
「ちょッ すずか!? お姫様抱っこは羨まし……じゃなくて危険よ!!
 それに乗馬だったら すずかも…… すずかだって毛並みが真っ黒で艶やかな、すごく逞しい馬を持っていたはずじゃない!」

 あ…… それは初耳。
 でも、すずかちゃんの持っている馬って想像すると規格外の生物で なんだか空でも飛べそうな感じがするよね?

「それは……『黒王号』のことだよね?
 アリサちゃんの言うように、確かに立派で賢い子なんだけど…… あの子だと、他の馬さん達が怖がって一緒に走ってくれないんだよ。
 せいぜい後ろからコッソリついてくるのが精一杯かな?」
「まぁー あんな象みたいな巨馬なら当然よね」

 大空の覇者じゃなくて、草原の王者なんだ……
 でも、流石 すずかちゃんの お馬さん…… ユーノ君なんかよりも余程役に立ちそうな感じだよね。
 不埒な行いをする ユーノ君が巨大な蹄に踏み潰される図が鮮明に思い浮かぶ。

「象並みの大きさって…… 本当に馬?」
 フェイトちゃんの意見に賛成。 だけど、『魔法』も実在するんだから これくらいの超常現象は普通にありそうな感じがするよね。
「それは実際に見てみないと分からないと思うよ フェイトちゃん。
 あと、二人のやりたいことは良く分からないんだけど…… とりあえず次、回ろうか?」
「仕方ないわね」「仕方ないよね」

 私の提案はあっさりと受け入れられる。
 まあ、私が それを言い出すまでに結構時間が経っているから、アリサちゃん、すずかちゃんも充分話をしたって気分なのかもしれないけどね。
 フェイトちゃんも楽しそうに その話を聞いていて……
 あ、そういえば プレシアさんって相当の資産家で、研究機関から多額の賠償金も毟り取って…… しかも特許とかも色々と持っているって言っていたような?
 あの人、フェイトちゃんの話を聞いて買い与えたりしないよね?
 いや、むしろ作成するとか アルフさんを改造する方向?
 私、全力でバレないように気をつけなきゃ……<多分、既にバレてますよ

 そうして再び移動する 私達(私はみんなに引きづられて)
 数分の後、私の前には大きな屋敷がそびえ立っている……

「アリサちゃん…… すずかちゃん…… こ、ここは……」
「見ての通りよ なのは」

 それは見るからにおどろおどろしい不気味な雰囲気の館……
 感情の制御に失敗し、声が震える。 これは、これは…… もしかして……
 うぅ…… 何も考えたくない。 想像もしたくないよ。

「うん、午前中の、ある意味メインだよ♪」
「あー 二人とも? 私がこういうのが大の苦手なのは知っているはずだよね?」
「ええ、当然ね♪」「うん、それはもう♪」

 楽しそう……
 二人とも物凄く楽しそうに微笑んでいる!?
 しかも、私がお化けを苦手なのを承知で仕掛けてきてるの!!
 角だよ…… ロングホーンだよ…… 角が、見える……
 そうなんだ! すずかちゃんって『鬼』だったんだ!?
 あぁ…… アリサちゃんにも黒い翼と尻尾が…… 『悪魔』?
 これって…… 私の心の目が舌なめずりする二人の様子を脳内で鮮明に描き出すの?
 お、お願い…… お願いだから、そんなに妖艶に微笑みかけないでぇーーーーッ!!

「わ、わわわたしは! 待ってる! ここで待ってるから!!『ガシ』 フェイトちゃん!?」
「なのはは一緒に行かないの?」

 そんな風に悲しそうに、寂しそうに、申し訳なさそうに聞かないでよぅ……
 しかも咄嗟に握ったちゃったと思われる手の感触に戸惑い、ほっぺを赤くなんてされたら 私、なんだか大雪のように罪悪感が積もってきちゃうじゃない。

「心配しなくても大丈夫だよ フェイトちゃん。 みんな一緒だから♪」
「そうよ、こんな楽しいことは みんな一緒ね♪」

 大・ピ・ン・チ!?

「私は楽しくない!!」
 拳を握り締め、両足を踏ん張る。 背水の覚悟をもって、断固として拒否するの!!
「……なのは以外は みんな一緒ね?」
「既に問答無用!?」
 既に右側は アリサちゃんに間接を固められ、左側の すずかちゃんには物凄い力で拘束……って、両脇固められてるし!

 私、四面楚歌!?

「ええ♪」「うん♪」
「じゃあ、出発!」「出発だよー♪」

 引きずられていく 私ぃーーー<ちょっと自棄
 ドナドナ ドォーナ ドナァー なのはは 揺れるぅぅぅぅ<ちょっとヤバイ精神状況
 たぁすけぇてぇぇぇぇぇーーーーーッ!!

 結果…… やっぱり駄目でした。
 成すすべなく悪魔の館…… 幽霊屋敷に連れ込まれちゃったよぅ

「見えない見えない…… 私には何も見えていない」

 中に入ると同時に目をギュッと瞑る。
 瞼のカーテンにガードされ、視角からの刺激が遮断される…… まさに鉄のカーテン!!

 けれど……

『ヒュゥー ドロドロドロ…… 恨めしやぁぁぁあぁぁ』

 視角を封鎖した分だけ他の感覚が鋭敏に研ぎ澄まされて……
 背筋をゾクゾクとさせる音の群れが、首筋に纏わり付くようなねっとりと生暖かい空気が滅茶苦茶怖くて膝が笑い出す。
 こ、腰が抜けそうだよぅ……

「聞こえない聞こえない…… 私には何も聞こえていない」

 自己暗示しようとしても それは無駄な努力。
 両手は アリサちゃん、すずかちゃんに抱きかかえられるように塞がれ、とても耳を塞ぐことなんて不可能だぁ。
 涙が止まんない……
 足が前に出なくて、二人にズルズルと引きずられる形になってるぅぅ

「ひぃひゃぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!!!」
 当たった! 今、当たったよぅ!! 首筋に冷たいモノが!?
「ひぃぅッ!?」
 み、耳元になんだか生暖かい空気が!?
「みゃあふぅッ!!!?」
 ほ、ほほ ほっぺを何かが掠めた!?

 もう…… いっそ、気絶したい……

「ふぅ…… たっぷりと堪能しちゃったね アリサちゃん」
「ええ、充分に堪能させて貰ったわ。 やっぱり これだけは外せないわ」

 恐怖の時間がようやく終わり……
 アリサちゃん、すずかちゃんが青空のような爽やかさと、日の出のような清清しさを想像させる笑顔を満たしている。 その様子はとてもホラー体験後だとは思えなず、一仕事を終えた技術者のような達成感に満ちたモノだった。

(終わった…… やっと終わってくれた……
 あぁ…… 真っ青な青空がとっても素敵なの)

「動け…ない…… こ、腰が抜けちゃったよぅ……
 くぅ 古傷(神速の反動)が痛むよぅ……」
「なのは、大丈夫?」
 フェイトちゃんが優しい…… なんだか後光で フェイトちゃんの姿がぼやけてる?
 女神だ、私の前に女神様が光臨してる…… 女神様だよぅ……
「大丈夫じゃない…… 膝が震えて力が入らないんだよぅ」

 出口付近でへたり込んだまま立つことさえままならない 私に、フェイトちゃんが伺うように覗き込んでくる。
 涙が滲んでいるだろう瞳が、震える声が、どうしても フェイトちゃんを心配させてしまうらしい。
 私としてもみんなに心配なんてかけたくないんだけど…… 如何せん腰が大地に根付いたみたいに全く動かない。
 だけどなんで フェイトちゃんは そんなにもケロリと何でもないように平然としていられるの?

「えと…… でも、ここは一体どういう場所だったの?」
 ……はい?
 フェイトちゃん、今なんと?
「ここはお化け屋敷なんだけど……
 フェイトちゃんは『怖い』とか『恐ろしい』って感じなかったんだ?」
「……『怖い』? ……どうして?」

 フェイトちゃんの頭上に、分かりやすい程大きな『?』マークが見える……
 それは痩せ我慢でも強がりでもなく、本気で分かっていないような仕草。 その純粋なまでに真っ直ぐな反応を見せる フェイトちゃんに、もしかしておかしいのがこちら側なんじゃないかと、私の方が逆に戸惑う。

(フェイトちゃんはお化けとか幽霊とかが怖くないの?)

「だってお化け屋敷だよ!? 暗くて周りが見えないし、変な音や悲鳴とかが聞こえてくるんだよ!!」
「うーん、なのはの言っていることはよく分からないけど、母さんが時々屋敷の模様替えとか言って、あんな感じにしてたから……
 私、こういう雰囲気は結構慣れているんだ」

(元凶は あの人か!?
 あぅ…… 凄い勢いで問答無用な強固さを持つ説得力が構築されていく……)

「プ、プレシアさぁん!! 一体、どういう意図で そんな模様替え…… というよりもお化け屋敷化してるんだよぅ
 でも、フェイトちゃんは そんなお屋敷に住んでて怖いとか不気味とか思わなかったの?」

 叫ぶ声にどうしても震えが混じる。 なんだって あの人はもう……
 怖いほどの笑顔を浮かべた プレシアさんが全傀儡兵を指揮し、夜を貫徹で屋敷全体を模様替えする光景が鮮明に想像出来る。 おそらく、目の前にあるお化け屋敷を遥かに凌駕するクオリティで完成させられたであろう あの庭園内での生活を余儀なくされていたんなら、フェイトちゃんが それに慣れてしまったというのも納得できる。

「庭園に住んでいても、私は魔法の基礎理論とか実践とかで大変で忙しくて、部屋に戻れば疲れて眠るだけだったから…… あまり気にならなかったんだ
 なのは…… 私、気にしたほうが良かったのかな?」
(不味い!? フェイトちゃんがちょっと落ち込んでる!?)
「プレシアさん…… 貴方の娘はとっても良い子ですよぉーッ!」

 地面に大の字になり、真っ青な晴天に向かって絶叫する。
 周りからは全く意味を理解されないであろう その行為によって、私は体内に蓄積する鬱憤を少しだけ追い出し心と身体の再構成を試み……
 そのままの勢いを利用して伏し目がちに俯く フェイトちゃんを慰めに掛かった。

「……え? なのは、急になにを?」
「気にしないで…… 特に深い意味もないし、なんでもないから…… むしろ深く考えないで欲しい。
 とにかく! フェイトちゃんは フェイトちゃんのままで居てくれるのが一番嬉しいってことだよ」

 私の奇行に戸惑い目を白黒させる フェイトちゃんを あの手 この手と、話題の引き出しを引っくり返しながら笑わせ楽しませようとする。
 私の失敗談、アリサちゃん、すずかちゃんから聞いた話、飼いフェレットの行動記録等等……
 フェイトちゃんが少しでも面白いと微笑んでくれることを祈り願いながら一生懸命に話を続ける。 そんな 私の想いを理解してくれたのか…… フェイトちゃんの口元が緩む。

 それが我を忘れるほど嬉しかった。
 だからかもしれない。
 美しき小悪魔達の陰謀に気付かなかったのは……

「すずか…… お昼まで、まだ時間が残っているわね」
「うん、予定のメリーゴーランドがカットされちゃったから結構時間が余っているよ」
「流石に…… 最低二回、三回程乗ることを見越して時間を取ったのはやりすぎだったかしら」
「そんなことはないと思うな。 実際に乗れたら最低で三回は確定だったんじゃないかな…… 私達が一回ずつで」
「すずか…… 私は ここで予定時刻の調整を提案するわ」
「もちろん、私も賛成だよ。 せっかくの一日無料パスなんだから無駄にしたら駄目だよね」

 ニタリ……

「Once Again?」
「Yes ♪」

 私が気配を感じ取り、ふと見上げれば……
 既に手遅れだった

「ちょ!! 二人とも何を!?」
 そこにあるのは、ガッシュと両脇を抱きかかえられるように立たされている 私の身体
「なのはちゃん♪ いいから♪ いいから♪ ……ね?」
 左側には天井をぶち抜いたような上機嫌さを見せる黒髪の美少女
「ここは結構空いているから…… あと二・三回は行けそうよね」
 右側には興奮に頬を染めつつ冷静に時計をチェックしている金髪の美少女

 いつの間にやら出口から入り口へとループしているのは 私達!?

「ま、待って! ちょッ!? 二人ともちょっと待ってよぅ!!」
「「ううん、待たない(わ)♪」」

 それが 私の最後の言葉
 この後、クロノ君、エイミィさんと休憩所で再会するまで、そこで食事をとっている自分自身を認識するまで
 私の記憶は全くない……
 人間の記憶力と忘却能力って、とても大切だよね!!

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【今回のおまけ】

「ふぅーん…… あの子が『高町なのは』ちゃんかぁ にゃるほど にゃるほど…… 可愛いし、クロ助以上に弄り甲斐のありそうな子だね」

 園内中央部にそびえ立つ白い城の頂上。 犬歯を見せ悪戯好きな笑みを浮かべたメイド服の猫耳娘が腰を下ろしている。
 灰色かかった頭髪を、肩の辺りで切りそろえた その女性は リーゼロッテ。
 『中立派』の長たる グレアム提督から なのは達の監視と護衛を命ぜられている 彼個人の使い魔の一人。

《ロッテ…… ちゃんと監視している?》
《大丈夫。 で…… アリアの監視する八神家の方は?
 ……まあ、今の状況で干渉してくるような組織なんてほとんどないんじゃない?》

 彼女は、同じく八神家付近で はやて達を監視している姉の リーゼアリアと念話を繋ぐ。
 現在、『排除派』から離脱した者達の暴走により管理局の合意に反するような干渉を表立って行うことは出来ない。 そんなことをしても、他の派閥に批判され、陥れられる口実を作り出すだけだ。 けれど、それは『闇の書』を放置するという意味ではない。
 各派閥の抗争は、より深くより暗い部分へと移行しているに過ぎず、騙し騙される激しい情報戦が続いている。

《せいぜい個人レベルでしょうね……
 でも、私達『中立派』からも多くが『擁護派』に流れたと言っても、日和見な人間も残っているから、彼らは少しでも情報を欲しがるのよ》
《アイツら……
 とっとと『擁護派』にでも行って利権争いでもしてればいいのに…… 嫌な奴らだよ。 全く。
 苦労ばっかり 私らに押し付けて楽して美味しいところだけが欲しいなんてさ!》
《勿論、彼らに渡す情報は制限させてもらうわ。
 干渉の制限が管理局の正式な決定として出されている以上、『私達は違反してます』なんて証言を彼らに与える気はないから》
《当然の対応だね。 あいつ等、父様の気苦労も知らない癖に…… ねぇ、いっそ陥れちゃおうか?》

 グレアムは利権目当てに『擁護派』へと流れる者達を積極的に止めようとはしなかった。 例え派閥の規模が縮小しようとも、足を引っ張られることを嫌ったのだ。
 けれど、その数を減らし『擁護派』に下回る勢力に落ち込んでも、それでもなお『中立派』に居座り、自分達の力を高く売りつけようとする日和見な者がいなくなることはなかった。 つまりはどれだけ優秀な人材を集めようとしても、周りの状況も見えず、また自身の価値を客観視出来ない、誰かの足を引っ張ることしか出来ないような輩はどこにでもいるということなのだろう。
 言うまでもなく、そのような者達は どの派閥からも真に信頼も信用も得ることも出来ず、利用されるだけ利用され要らなくなれば捨てられる。 そんな結果しかない。
 自身の価値を見誤り、売り時を見失った者達の末路は火を見るよりも明らかだろう。

《そこまでする必要はないだろうけど、相応の対応は取らせてもらうつもりよ。 流石に背中を刺されるような真似は困るしね。
 それと、アリア…… 貴方、父様にしばらくは大人しくしていなさいって言われたでしょ?》
《うぅー だってさぁ》

 おそらく、『猫耳(自前)メイド』で園内に潜り込んでいることを知っているのだろう、ロッテの念話に若干の呆れた色合いが混じる。
 ロッテの方もかなりの悪戯好きなのだが…… 妹の アリアよりは自制が効くらしい。

《我慢なさい。 今、派手に動いても良いことがないわ》
《うぅ…… じゃあ、クロ助弄って遊ぶだけで我慢する……》
《そうしなさい。 私達がここに来ているのは正式な辞令によるものだから、彼女達への干渉だけは制限されているけど、執務官の地位にある クロノと連絡しあう程度の接触なら誤魔化しが効くわ》

 酷でぇ……

《うひひ クロ助ぇー 待ってろよぉ》
《まぁ…… ほどほどに、ね》

 『確認』と『肯定』
 そこに拒否の意思は微塵とない。

「にゃはは 弄り甲斐のありそうな子達ばっかりでお姉さん嬉しいよッ!!」

 クロノ・ハラオウン執務官。
 本日、この園内で『高町なのは』の次に弄られる予定の人物。
 なのは達と合流する頃には アリアも退散するはずだから……
 端から見れば エイミィ、アリサの美女に囲まれ、ユーノ生唾モノの羨ましい状況だから……
 とりあえず 頑張れ クロノ!

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ロジカルなのはIF4話②ー1

注意事項
 本作は「館長」さんの「創作天文台」にて掲載中の「魔法少年ロジカルなのは」のパロディ(三次創作)です。
 館長さんや原作者様から、怒られたら……多分、すぐに更地になります。
 本作は「魔法少年ロジカルなのは6-4」からの強制分岐です。
 なお、桃子さんが理不尽なまでに最強で、プレシアさんは原作、及びロジカルとは逆方向に壊れております。
 以上の事に注意して、納得した上で読んで下さると嬉しいです。

 4-2 その①

 季節は真夏と言って差し支えない七月の下旬の夏休み一日目。 その日は昼になるまで、まだだいぶ時間があるにも関わらず、青空にある太陽が熱い視線をギラギラと 私達を照り付け、今日も暑い一日になるだろうと想像に難くない。
 子供達の心待ちにしていた夏休み開始に合わせるよう、今日この日に改装準備が整えられた この娯楽施設は、空の雲ひとつ無い真っ青な晴天にも助けられ この街の規模から見てさえも信じられないほど多くの人達が集まり、たくさんの子供達のはしゃぐ声が園内の明るい音楽と共に辺りに賑やかに響きとても楽しげに思える。
 おそらく 私も そんな子供達の一人なのだろう…… この賑やかさ当てられに意識しないまま足取りが軽くなっている。

「ぅわぁー たくさん来てるね」
「凄い人ね…… これは噂以上の賑やかさだわ」

 私に先行し先を進む すずかちゃん、アリサちゃんが 可愛いマスコットキャラがたくさん描かれた彩りに満ちた看板に装飾された入場口兼チケット売り場から、延々と並ぶ人達…… 既に百人近くはいるのだろうか? その行列を前に驚嘆する。
 けれど、その長蛇の列を前にしてさえ二人の様子が楽しげに聞こえるのは 私の気のせいではないだろう。 どうやら二人にしてみれば この長々とした行列に並ぶという時間の浪費に感じる行為にさえ、その喜びを蓄積し期待感を増幅させるイベントとしているように見える。
 二人の様子を見、私は ふと視線を落とす。 すると、その右手に巻いたピンク色の可愛いらしい腕時計の針は九時五分前を指し示している。
 あと五分…… カチカチと時を刻み続けるアナログ時計の秒針が五周したなら ここ海鳴市内最大のアミューズメント施設、『海鳴遊園地』の開園時間である午前九時となるんだ。

 ここまでくればもう説明の必要もないんじゃないかな?

 私、『高町なのは』は親友と呼べる友人達。 アリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃんと、保護者役(おまけとも言う)の クロノ君、エイミィさん(なのはの知らない水面下にて『プロジェクト・黒の場合』進行中)の五人と共に、計六人で この遊園地へと遊びにきている。
 ただ、一つだけ心残りなのは、親友の一人である はやてちゃんが足の障害と、人の溢れる遊園地内でも狙われる可能性があったため彼女を護るヴォルケンリッター共々、一緒に来られなかったことだ。
 実際、私はその時、はやてちゃんと彼女を護る守護騎士達と一緒に八神家に残ることも考えたんだけど……
 けれど、遊園地の話を聞いて以来、私と一緒に行くのを本当に楽しそうにしていた フェイトちゃん(アリサちゃん、すずかちゃんも楽しそうにしていたんだけど、フェイトちゃんの『お母さん(桃子)の話すアトラクションに瞳キラキラ』+『同居状態でずっとワクワク』+『初めての遊園地』という強烈コンボ炸裂だったんだよ)や、『私らの分まで一杯楽しんできてや』とほんの僅かな寂しさを満面の笑顔で押し隠して話す はやてちゃんの優しさを前に、ちょっとやそっとの抵抗なんて紙屑同然だった……
 結局、なぜか泣きそうな顔で気温28度下の状況でさえ、全身を悪寒に震えさせながら人型になるのを拒んでいた アルフさんが
 遊園地の『ペットの同伴を禁止します』という条項に引っかかったことから、彼女が八神家に残り、何かあったらすぐに フェイトに連絡するということで落ち着く。

 え? ユーノ君? ユーノ君は多分…… 金のわっかで拘束され、どこかの大きな山にでも押しつぶされてるんじゃない?
 最近、エロ猿化というか、野生化してるみたいだし……

「なのは…… 行かないの?」
「……え?」

 私の意識が思考の渦にズブズブと沈み込んでいく中、突然にクイクイと洋服の裾を引っ張られ意識が現実へと浮上する。
 身体にかかる力の原因を視線で辿れば、私の服を掴む白い指先と綺麗に切りそろえられた清潔感溢れる爪。 そこには不思議そうに 私を見つめている紅い瞳があった。
 突然に切り替わる意識に驚愕し、思わず目を見開き、右へ左へと…… 辺りを見渡す 私。 そして、すぐに 私達の並んでいる列が前へ前へと動いていることに気付く。
 腕時計の示す時刻は九時二分位。 つまり開園から約二分。 どうやら考えことをしているうちに気付かないまま開園時間を過ぎていたみたい。

「もしかして…… まだ身体だるい?」

 可愛らしく小首を傾げ、問いかけてくる その少女。 フェイトちゃんの紅い瞳が次第に 私を気遣う色合いが帯びていくのを感じ取る。 その仕草は 私に、フェイトちゃんが一週間程前の決闘で受けた疲労をいまだに心配していることに気付かせる。
 約一週間程前、あの決闘で 私は始めて『御神流 奥義の歩法・神速』を発動させること成功し、フェイトちゃんから表面上の勝利を得ることが出来た。 けれど、その後 私の身体にはね返ってきた反動は酷かった。
 体力に魔力、さらに精神力まで、ほとんど全ての力を使い果たした 私達の元に駆けつけた お母さん。 そして直後の『心配させた』という理由で(私だけに)お仕置き…… 駄目だ、脳が震えて記憶の再生を拒否してる。
 ……とにかく、神速の影響に身体と精神が未成熟で慣れていないという理由で父と兄から その全面的な使用と数日間の鍛錬禁止を全会一致で固く禁止され、それを寝込みながら聞く 私の身体は二、三日は全く動くことが出来ないほど消耗してしまった。

(ああ、トイレとかお風呂とか着替えとか食事とか…… この辺も結構トラウマな記憶だね。
 ……お布団被ってゴロゴロと転がりまわりたい気分になるね)

「えと…… 問題ない、かな? ちょっとした違和感を感じる程度だから大丈夫だよ」
「うん、でもあんまり無理しないで」

 首から両肩、両手足と、全身を軽くコキコキさせ、改めて状態を確かめるように話す 私に、フェイトちゃんは その真偽を見極めようとずずいと顔を近づけてくる。
 長い睫に護られる綺麗で澄み切った紅い瞳、きめ細かい白い肌が、その息遣いさえ感じそうな距離に 私の胸の鼓動が高まり頬が熱く感じる。

「ちょ、ちょッ!? だ、大丈夫だって!!」
「??? ……そう?」

 緊張に汗ばむ二つの掌が フェイトちゃんの細い肩を掴み、力つくで 私の顔から引き離す。 あまりに焦り、勢いよく動いたせいか フェイトちゃんが その展開についていけずキョトンとした様子でまじまじと 私を覗き込んでくる。 すると、その動きに合わせて フェイトちゃんの金色のツインテールが流れ、ピンクのリボンが小さく揺れる。
 今日の フェイトちゃんの格好は黒い半そでYシャツに白い半ズボン、白く健康的な両足には白い靴下に白いスニーカー。 一見、男の子のようにも取れる彼女の格好は、だけど生まれ持った可愛らしさとキラキラと輝くような長い金糸を結ぶピンクのリボンによって逆に女の子らしさを強調する形となっていた。

(ピンクのリボン似合うよね…… 私があげたの。
 でもなんでか…… あの時の…… アリサちゃん、すずかちゃん、ものすごく笑顔が怖かったよね)

 恐怖という名の本能が奥底から呼び起こされる。 それはつまり、同居している フェイトちゃん(+迎えに来た クロノ、エイミィ)と一緒に アリサちゃん、すずかちゃんを迎えに行った時の記憶が呪いのように半ば強制的に高音質・高画質モードでリピート。
 『ふぅーん…… ふぅーーーん ねぇ、なのは?』<金色夜叉、『へぇー…… ねぇ、なのはちゃん?』<黒き堕天使、『『そうなんだ?』』
 フェイトちゃんのつけるピンクのリボンが 私のモノだったことに即座に気付いた二人は、笑顔という名の、すぐにも破け落ちそうな…… それこそ縁日で売買されているような安物のお面を付けて、表向き優しく優しく詰問し

 ピキ! キィィィン! ビュォォォォォーーーッ!

 リボンの事情を話し、その気恥ずかしさに頬を赤く染め、それ以上に喜びで口元を満たしながら、身に着けたリボンを二つとない宝物に触れるが如く優しく撫でる フェイトちゃんの様子に、それを無言で聞く二人は笑顔で…… 満面な、とびっきりの笑顔にも関わらず、ポカポカ気分に浸りっぱなしで、まるで気付いていない フェイトちゃんの周り以外の空気が凍りつき…… ついで 私に対する圧力が息苦しくなる程高まり、鉛の如く身体が重く感じ…… 冥府魔界、絶対零度の極寒地獄へと追い落とされる。

 理由ははっきりと分からないけど…… 『もしも』の話。 そう、私が フェイトちゃんから貰った黒いリボンを付けて行った場合の『IF』を考えると、背筋のゾクゾクと両膝がガクガクするほどの悪寒が走り、恐怖という名の感情に怒涛の如く襲われるんだ。

『まったく、アンタって子は…… そのリボンはやめておきなさい』

 凍りつく 私の世界全て…… そんな中、高町家でのお母さんの言葉がリフレインする。
 それは朝七時前、自宅にてウキウキと楽しげにリボンを結ぶ フェイトちゃんに合わせるように彼女と交換した フェイトちゃんの『黒いリボン』をつけようとした 私を溜息混じりに嗜めるお母さんの声。

『なのは、男の子だったら ちゃんと女の子をエスコートしなくちゃ駄目よ』

 続けざま、声がお告げのように脳裏に蘇る。
 次は遊園地へ遊びに行く前日、アリサちゃん、すずかちゃん達に『前の話は冗談だから、入園料はワリカンで良いわよ』と言われ、踊るような気持ちに浮かれていた 私の頭を軽く叩き、声を掛けてくるお母さんの声。
 結局、クロノ君、エイミィさんも含め、全員分の入園料はお母さん、プレシアさん、リンディさんの母親連合が出してくれることになり、その上、お母さんは来月分おこずかいにボーナス並みの色をつけて前借りさせてくれた。
 ……でも、その際 フェイトちゃんに『男の子に奢らせてあげるのは女の子の甲斐性よ』と吹き込んだりして、一切の現金を持たせずに出発させようとしたのは少しばかりアレじゃないかな?
 とにかく今、私はお母さんのありがたい配慮に涙が止まらないほどの感謝の気持ちと尊敬の念を抱かずにはいられない。 その想像の中で微笑むお母さんには眩い後光が差し、マザー・テレサ、あるいは聖母マリア以上の慈悲が滲み出している。

 ここ最近、お母さん株が急上昇中だよ。

(もしかして、お母さんも何を企んで…… これ以上考えたら駄目だと本能が猛烈に告げている……
 うん、もうやめようか?)

「なのは! フェイト! 早く行くわよ!!」
「わわッ!? ……アリサちゃん!?」
「ご、ごめん アリサ」

 もたもたしているように見えたらしく、アリサちゃんが業を煮やし駆け寄ってくる。 そして、そのまま両手で 私達の手をギュッと握りしめ入場口へと引っ張る。
 アリサちゃんに引っ張られながら走る 私達は その手のぬくもりを感じながら、それがなんだか嬉しくて知らずに笑顔が出来上がる。
 私達は三人一緒に、もう一人の親友の下へと駆けていく。
「あ……」
 私達の前を元気に駆ける アリサちゃんの金髪が風に乗りフワリと優雅に舞い踊り、思わず小さな溜息が漏れる。
 フェイトちゃんとはまた違う色合いと輝きを放つ アリサちゃんの綺麗な金髪を舞い散らないよう結いとめるのは白いリボン……
 実はそれ、本日あのときに 私と交換したリボンだったりする。

 ……どうして そのような事態に陥ったのか、そこまでにどういった経緯があったのかは本当に記憶にないのです。 だから、聞かないでください。

 私の脳に残る途切れ途切れの記憶が復活するのは 私のリボンで アリサちゃんの金髪を結ってあげたり…… その代わり、アリサちゃんのつけていた赤い、黒い上品そうな刺繍の入ったリボンをつけて貰ったりしているシーンから?
 ちなみに 意識が鮮明に復活されても その点において、私には何一つ選択権が無かったのは言うまでも無い。

「全くもう……遅いわよ。 この混雑具合も計算に入れて、すずかと一緒に完璧な巡回プランを立てたから…… 二人とも、今日は気合を入れて徹底的に遊ぶわよ!!」
「アリサちゃぁぁん! これ見てよ 一日フリーパス、エイミィさんから四人分貰ってきたんだよ」
「O.K. すずか これで準備完了ね♪」

 その瞳に闘志を宿し、私の手を握る アリサちゃんの手にさらに力が篭る。
 そして気合満タンなのは その言葉だけじゃなく、今日のために準備されたであろう戦闘服…… 否、違う。 その服装についてもだと思う。 そんな アリサちゃんの格好は胸元に可愛くデフォルメされたクマのプリントがされた真っ白なTシャツに白い小さな肩掛けカバンを肩に掛け、クリーム色の膝上辺りまである半ズボン。 フェイトちゃんに負けず劣らない健康的な素足には同じ清潔感溢れる白の靴下に真新しい白いスニーカー。
 さらに、私達を笑顔で迎える すずかちゃんの格好は、同じような白のTシャツに小さな赤いリュックを背負い、膝上辺りまである黒のスパッツに アリサちゃんと同様の白い靴下、白いスニーカー。 そして その艶やかな黒いロングヘアーを飾るヘアバンドの上には赤い野球帽を被っている。
 簡潔に言い表すならば、その姿が意味するものは『遊びつくす』こと。
 お嬢様と呼ばれる彼女達が、お洒落よりも動きやすさ、軽快さを最優先した二人の格好には明確なまでに その意志が感じ取られた。

(今日はきっと…… とてもハードな一日になるんだろうなぁ)

 アリサちゃんの白いリボン(赤いリボンと交換させられた)やら……
 すずかちゃんの赤い野球帽(一時間ほど前まで 私が被ってたやつで、いつの間にか所有権が移っていた)やら……
 二人が着ている服装に妙に見覚えがあったり、『それ(洋服)もしかしたら 私の衣装ケースから持っていったの?』とか思ったり思わないようにしたり。
 あと、何気に アリサちゃんの今の格好が 私とペアルックしている事実とか……
 色々と聞くに聞けないことに 私は今まで延々とモヤモヤしていたわけで……

「はい フェイトちゃん」
「これが…… フリーパスなんだ」

 すずかちゃんから受け取ったパスを付属の防水ケースに入れ、そこからのびる白いひもを フェイトちゃんの首に掛ける。
 私が掛けやすいように少しだけ前かがみになって受け入れた フェイトちゃん(フェイトちゃんの方が 私よりも身長が高い!?)は、そのパスを大切に両手で包み、嬉しそうに頬を染めながらジィーっと見つめている。
 目を大きく開き、瞳をキラキラと輝かせながら、フェイトちゃんは時折口元を僅かに緩め『フフフ』と笑みを漏らす。 その様子は、普段の彼女からは想像出来ないほど幼くあどけなく、本来の年齢である九歳よりも更に低く小さく可愛らしく見える。

「次は アリサちゃんに……」
「ええ…… ありがとう」
「ちょッ アリサちゃん? そんなに踏ん反り返ってたら少しやり辛いよぅ……」
 唇を噛み締めながら両手を腰に当て胸を張る アリサちゃんの様子に、その頬を染め何かを耐えるような仕草が、アリサちゃんらしくて思わず苦笑してしまう。
「エ、エスコートさせてあげてるんだからねッ!! ちゃ、ちゃんと責任とってやりなさいよ!!」
「ひぃ!? ひぃたい! ひぃたいってば ありひゃひゃん!!」
「ふ、ふん!! ほ、ほら、ちゃんとしなさい……」

 アリサちゃんに苦笑した瞬間、烈火の如く怒り、条件反射の如く引っ張られる 私のほっぺ……
 この展開、結構慣れちゃってるけど…… やっぱり涙が落ちそうなほど痛いよ。
 フンッ!と不機嫌そうに鼻を鳴らす アリサちゃんの首にヒリヒリと熱を持つほっぺの感覚に耐えながら、これ以上怒らせないよう丁寧に丁寧にパスを掛ける。
 不機嫌ですよと 私を軽く睨みながらも アリサちゃんはパスが掛けやすいように首を傾げてくれる。

(アリサちゃん、素直に頭を下げてくれるんなら、最初からそうして欲しかったよぅ……
 これって 私、抓られ損?)

「最後に すずかちゃん…… でも、よく考えると…… なんで 私が すずかちゃんからフリーパス受け取ってみんなの首にかけてるんだろ?」
「細かいことを気にしたら駄目だよ? 今日という日を楽しもうよ なのはちゃん」

 最後に、満面の笑みを浮かべて待ち構える すずかちゃんの首にパスを掛ける。
 前の二人の様子をしっかり観察してたであろう すずかちゃんは、私が掛けやすいように上手く上体を動かしてくれたから、とてもやり易かった。 そこまで完全に仕事をやり終え、清清しい気分に浸る中、私は唐突にある事実に気付いてしまう……

『どうして 私は三人にパスを掛けてあげているのだろう?』

 エイミィさんがまとめて購入した一日無料券を受け取ったのが すずかちゃん。 それにしげしげ、ワクワクと子犬のような視線を送っていたのが フェイトちゃん。 そして、アリサちゃんの何やら射抜くような視線と、微笑みのまま四つのパスを手渡してくれた すずかちゃん。

(……あれ? 意味ありげな視線とか、微笑みとかしかないじゃない……
 私、別に何も頼まれてないよ?)

「笑顔で言われると身体が自然に動いちゃう辺り…… なんかこれ、パブロフの犬並みの条件反射だよね」
 いつの間にか躾けられている自分を認識し、額に汗が伝う。
「パブロフの犬……? ある条件下で犬の喜ぶようなことをしていると、条件を満たすだけで その犬が喜ぶんだっけ?
 ……アルフが人型になりたがらないのも何か条件があるのかな?<発動条件は プレシアさんです」
 フェイトちゃんの呟きに…… なんだか急に、涙と共に、アルフさんに対する親近感が沸いてしまう。
「アハハ それは素晴らしい反射だと思うな なのはちゃん」
「フフン 私達の笑顔に それだけの価値があるという証拠よね」
 私の言葉を耳に入れ、二人はとっても上機嫌。 まあ、二人の笑顔は確かに それだけの価値はあるけどさ……
 もう良いよ。 はぁ……

「それじゃぁ…… 全制覇目指して、突入よ!」
「うん♪」「楽しみ♪」

 気合を入れなおし、私達は一つのチームとなって園内へと突入していく。
 こうして 私達の夏休み第一日は遊園地にて幕を開けることになったんだ。

 クロノ君? エイミィさん?

 うーん…… 二人は アリサちゃん、すずかちゃんの『二人っきりにしてあげましょう』とか『なのはちゃん、野次馬根性とかで二人を邪魔をするのは野暮だよ?』っていう指摘や、エイミィさんと管理局内の様子を聞こうと話をしようとしても『もう なのはちゃん? クロノ君の彼女(候補)を そんなにマジマジと見つめたら失礼だよ?』と首がムチウチになるんじゃないかって位強引に、素早くグルン、グルンと回され、視線をズラされたりするから……
 別に、頭にめり込んでくるような指先が 私の頭蓋骨をメキメキと嫌な音をたてていたとかじゃないんだよ?
 最終的には別行動ってことにしたんだけど……(それで、エイミィさんの服装はよく見ていない。 クロノ君はまあ…… 黒一色?)

 でも、エイミィさんが冗談で言った(らしい)『大人一枚(エイミィさん)、子供五枚(私、アリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん ……クロノ君?)』に受付のお姉さんが何の指摘もせずにスルーされちゃって、そのことに大きなショックを受けて、今は入り口付近で両手両膝付いて力なく黄昏てるよ。

 十二歳以下で…… ここの遊園地では子供扱いなんだよね?
 クロノ君は十五歳かぁ…… 私、将来は最低でも クロノ君より身長欲しいなぁ。
 神様仏様…… 身長をくれるなら真面目に信じます。 信仰します。 だから、ほんとに本気でお願いします!!

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【今日のおまけ話】

 これは なのは達が遊園地に遊びに行く前の、はやても参加するつもりでいた頃の話。 そして、はやて、ヴィータ、シグナム、リインの四人が八神家でした会話の全てである。
 小さくは八神家の主であり、大きくは五人の守護騎士達の主でもある はやてが、みんなが集うリビングにて海鳴遊園地のパンフレットを広げている。 そして、そんな彼女に抱きつくような格好で小さな ヴィータが それを興味深そうに覗き込んでいる。
 ヴィータが終始ご機嫌なのは、大好きな主と一緒にいられるだけではなく、その膝にあるパンフレットの効果もあるのだろう。 その傍目から見てさえワクワク、ソワソワ、モゾモゾと興味津々しているのが丸分かりな 幼い赤毛の少女に シグナムが、リインが苦笑を漏らしながらも暖かい目で見守っている。

「メリーゴーランドかぁ…… これは ええなぁ……」
「はやてぇー それよりも こっちのジェットコースターって乗り物の方が迫力ありそうで面白そうじゃんか!」
「うん ヴィータ、そっちもええんやけどな。 私は『白馬の王子様』にお姫様抱っこにも憧れんよ」
「『お姫様抱っこ』!?」
「せや。 恋する女の子、永遠の夢やよ」
「そうなのか!?」

 『お姫様抱っこ』
 それは女の子の夢と両手を胸に握り締め、恍惚な表情に浸り蕩ける はやてに、ヴィータは自分の質問するような形になった発言が、はやての乙女回路にスイッチを入れてしまったことに気付き、ピクピクと笑顔が そのままビクビクと恐怖に引き攣る。
 リインの、シグナムの、やっちゃった感を攻めるような視線が ヴィータの後頭部に容赦なく突き刺さってくる。

「水を差すようですみません。 主はやて、ここに『二人乗り禁止』と明記されておりますが?」
「なんでや!?」
 リインの指先が冷静かつ的確にパンフレットの注意事項を指差す。
「それに これだけ人が集まりそうな場所に…… 主を危険に晒すようなことは承服しかねます」
「なんやて!?」
「はい、残念ながら……」
 シグナムが視線を伏せ、懺悔するかのように その事実を告げる。

 その瞬間、八神はやては硬直した……
 瞬きや息をしているのかさえ分からないほど凍りつき、何一つ身動きがなくなる。
 けれど、それも永遠のように感じた刹那の時間……

「……フ、アハ フフフ ウフフフフフ……」
 喉が震え笑みがこぼれる。 それは同時に始まった肩の震えと同調しながら徐々に徐々に、そして確実に大きくなっていく
「「「はやて(主)(主はやて)!?」」」

「そうかぁー そうなんやね……? これは 私に対する挑戦やねッ!!」

 はやての乙女回路が臨界点を突破し大暴走を起こす……

「は、はやてぇーーーッ!!」
「主、落ち着いて下さい!」
「烈火の将…… あの状態になった 主はやてを止める術はない」

 横から主の肩をカクンカクン揺らして正気に戻そうとする幼い赤毛の騎士。
 真正面から主を見据え、決死の覚悟を持って言葉を叩きつける騎士達の将。
 一歩、二歩と主から離れ、既に何かを悟ったかのように被害軽減について思考を巡らし始める主の半身たる銀色の髪を持った騎士。

「ウフフ ウフフフフ フフン♪ 決まりごとは力押しやね。 後、メリーゴーランドさんには…… 私の足が治って、面倒事が全て片付くまで休んどいてもらわんとなぁーッ♪」

 手にした携帯をピ・ポ・パと手馴れた動きで素早く操作していく満面笑顔の はやて。
 恋する乙女に立ちはだかった障害を前に初心を思い出した上、何やら色々なやる気が充填されてしまったらしい……
 『人生万事が塞翁が馬』…… 本当に、何が幸、不幸となるか分からないという典型。
 最も今の事態は、ここにいる騎士達にとって、途轍もない不幸であるのは確かであろうが……

「はやてぇ…… 正気に戻ってよぅ」
「……シャマルと連絡を取り合ってるようだな」
「……もう駄目だ」

 とりあえず、なんらかの問題が発生し、夏休み一日目までにメリーゴーランドの改装が間に合わないことだけは決定したようだ。
 呆然自失気味の守護騎士達は、そのことだけは漠然と感じ取っていた。

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ロジカルなのはIF4話①

注意事項
 本作は「館長」さんの「創作天文台」にて掲載中の「魔法少年ロジカルなのは」のパロディ(三次創作)です。
 館長さんや原作者様から、怒られたら……多分、すぐに更地になります。
 本作は「魔法少年ロジカルなのは6-4」からの強制分岐です。
 なお、桃子さんが理不尽なまでに最強で、プレシアさんは原作、及びロジカルとは逆方向に壊れております。
 以上の事に注意して、納得した上で読んで下さると嬉しいです。

 4-1

「蒐集」
《Sammlung》

 薄い緑色の、聖職者の身に纏う法衣のような服装をした金髪ショートボブの、一見して優しげに見える女性が目を閉じ精神を集中し高める。 その容姿に見合う涼やかな声をまるで風鈴を鳴らすかのように発され、瞬間、その力持つ言葉により 彼女の目の前に魔法で拘束された十人余りから、一様に簡素な格好をした者達の胸から白・赤・青・緑…… 様々な輝きを放つ光の玉が引き出される。 それは、その者達が持つ魔法資質の中枢であり、すなわち彼らの持つリンカーコアの輝きだった。
「…………ッ!!?」
 リンカーコアを無理矢理に抜き出された者達が声にならないほど低い苦痛の悲鳴が反響し響く。 それと同時に彼女の手にした分厚く重厚な書物が、その金色に輝く十字の装飾のなされた表紙がバサリと勢い良く開かれる。
 それと同時に宙に浮かぶ数々のコアが その輝きを増し、そして女性の手にした書物がバラバラと素早く捲り続けられ、その白紙であったはずのページが様々な文字と複雑な図式で次々に埋められていく。

「……蒐集完了」

 女性が その目を開きくと同時に手にした書物の輝きが収まり、開かれたページもまた閉じられる。
 そして、その後 彼女の周りに残るのは魔力を奪われ輝きの鈍ったリンカーコアと、力尽き倒れた伏した人の群れのみ

「……どうだ?」
「うーん…… 全部で三十ページちょっとね? まあ、Bランク以下の魔導士十名余りだから、こんなところだと思うわ」

 唸るような低い声が近づいてくる。 それは その女性を護るように控えていた青い大型の獣。 あえて動物に例えるならば巨大な狼が、その鋭い犬歯を覗かせながら状況を確認してくる。 けれど、女性は その何物も噛み砕きそうな鋭い犬歯も太く強靱そうな四肢と その先にある分厚く鋭い爪さえも怖れることなく平然と返答する。
 彼女の名前は『シャマル』。 そして、その隣に控える巨大な獣の名前は『ザフィーラ』と呼ばれる獣人。
 二人はヴォルケンリッターであり、『湖の騎士』と『盾の守護獣』。 共に同じ主を戴く闇の書の主を護り、仕える古代ベルカの魔術を扱う守護騎士達。

《だが、本当に 我らだけで大丈夫なのか? 流石に 主をここに連れてくる訳にはいかぬだろうが……》
《いいえ、私達が最適よ。 ベルカ式のカートリッジシステムを搭載した強力なデバイスを持つ シグナムや ヴィータちゃんでは管理局側に余計な不審や必要以上の警戒心を与えてしまう可能性が…… 何より過去の私達、特に蒐集のために直接戦闘をしていた2人に打ち倒された者もいる可能性もあるもの……
 例え当たり前のように恨まれていたり嫌われていたり、あからさまな視線や行為を受けたとしても、それを助長したり認めるような行動を 私達自身が取ることはないはずよ》
《むぅ……》

 現状に対する疑念と返答のやりとりが飛び交う。 二人は現在、十数人からなる武装局員の張る強力な結界内に先ほど蒐集された囚人達と共に閉じこめられている。 そして、それだけではなく既に魔力をチャージを済ませ、油断無く構えた完全武装、臨戦状態の武装局員達まで配置されている。
 こちら側に、あるいは その手にある闇の書に異常が見られたならば、即座に対応しうる警戒。 その上、管理局側から用意された魔法犯罪者達、蒐集させる彼らの魔力ランクは最高でもB以下に抑え、レアスキルを持たない者達が厳選され、闇の書に余計な力を与えすぎないように考慮されている。 それは蒐集により犯罪者達の力を奪い抵抗をなくすためでなく、過去に『闇の書事件』を引き起こし多くの人達に与えた大きな被害と巨大な悲しみから来る不安と恐怖の塊。
 全ての人間が無条件に他の異質な存在、異なる価値観をすんなりと受け入れられる訳ではないのだ。 それ故に、『闇の書』の持つレアスキルの研究に加え全体的な機能の解明の為、不本意ながらも このような状況での蒐集を強制されている。

 『交換条件』

 つまりは その一言につきる。
 管理局という組織は全体のため冷静で冷酷な決断を下すことはあっても、無意味で無慈悲な殺生を望むような非情な組織ではない……
 彼らはある意味、非常に現実的で打算的なのだ。 そして、事実や実情はどうであれ、この組織は表向きには そのような体裁を取り繕っており、そうである以上、個々の感情はどうであれ立場的に友好的な協力者を無碍に扱うわけにはいかないし、更には リンディや プレシアのような管理局内で一定以上の影響力を持つ者達が公に協力を表明し保証人となっていることから、目立ち過ぎる強引な方法をとることも出来ないでいる。
 そして、なによりも、闇の書に収められているであろう失われた古代ベルカの持つ特異で高度な魔導技術は魅力的過ぎた。
 結局、どんなに立派なお題目を立てて、気高い理想を声高らかに訴えようとも、魔導士の起こす様々な犯罪の抑止や防止、全時空に散らばったロストロギアの蒐集、管理を可能としているのは『力』。 組織が所有する その純然たる魔導の『力』に裏づけされた権力であった。 それ故、局内の少なくない指導者達は潜在的に、過去でどれほどの災害を撒き散らそうと、そこでどれだけ多くの人々が苦しみ憎もうとも、目の前にある『闇の書』という『お宝』を破壊、凍結処理を施すことを良しとしなかった。
 最も、完全破壊の方法が見つからないことも下から発せられる反対の声を封じ、その解析のための時間確保もまた、現状に影響を及ぼしているのを否定することは出来ないだろう。

「2人ともご苦労様。 次は今回の蒐集の影響で出た『闇の書』の変化を調べるわ。
 それと…… 臨時で用意した休息所に研究員達に頼んで飲み物を用意させたから、そこでひと休みした後に研究室へ向かいましょう」

 他に聞き取られないよう、ザフィーラに頭に触れる シャマルの白い指先から直接念話のやりとりを続けている二人に 一人の女性が声を掛けてくる。
 艶かしい黒い長髪を腰まで流した白衣の女性。 その病的なまでに白く透き通る肌に真っ赤に充血してなお、鋭い目を持った管理局の黒い魔女。 その人物の名前は『プレシア・テスタロッサ』。 彼女は現在、ロストロギア関連の第一人者の研究者であり、闇の書解析のため、民間からの大抜擢を受け、その人選と与えられた地位以上の活躍を見せている才女である。
 見た目(だけ)はグラマラスで知的。 その上多額の資産まで持っている艶やかな美女。 だが その実態は、野に下っていた時期に、あるいは野に下る原因となった過去の事件に理由があるのか、その性格は過去の彼女を知る者達の貞淑で大人しいモノから豹変し……
 娘と息子(未来の)のために世界征服、世界の滅亡さえ厭わない極度で重度でマッドな『親馬鹿』であった。

「ありがとうございます」

 プレシアの提案に シャマルが人好きする笑顔を作り直し、にっこり微笑み返し答える。
 疑う素振りさえ感じさせず、プレシアに付いて静かで軽やかな足取りで用意された休息所へと向かっていく シャマルの様子を見取り、ザフィーラが音も立てずに急ぎ歩み寄る。 そして その尖った鼻先を指先に押し付けて直接念話を試みる。

《……この場で出される飲み物を安易に飲むつもりか シャマル?》
《あら ザフィーラ、毒物の心配? 生粋の科学者(娘達が関わらなければ)である プレシアさんが研究半ばで 私達に危害を加えるとは考え難いから それは杞憂だと思うわ。
 ……それに 毒見役もいるし》
《ど、毒見!? それは確認するまでもなく、俺のことか!!》
《頑張れ みんなの守護獣。 優しく頼もしい狼さん♪》

 ザフィーラの警告を シャマルは全く意に介さない。 なぜなら彼女の主、はやては フェイトの友達。 そして フェイトは言うまでも無く プレシアの大切な娘。 故に フェイトが本当に悲しむことをしたりはしない。 からかうことは結構頻繁にしていたりするが……
 彼女にとって娘と息子(未来)の命と幸せ、そして将来生まれてくるであろう『孫』の価値は この世界に存在する全てよりも重い。 それが彼女を本当の意味で理解し、知る者にとって、僅かな揺るぎさえない、疑いようのない真実。
 シャマルは それを承知の上で その事実を知らない ザフィーラをからかいにかかる。 否、その青い毛並みを優しくさする仕草から毒見役云々は本気なのだろう。 動揺する 大型獣に念話で投げかけられる それは静かで優しげな言葉ではあったが…… 言外に是非を言わさぬ迫力があった。

《……こんなときだけ『狼』扱いするのは何気に酷くないか シャマル?》
《そんなに心配しなくても大丈夫よ。 私なら大抵の毒物は 私の魔法で中和出来るし、ここなら その設備にも困らないはずよ
 ……むしろ盛られていた方が敵対者を割り出し、その勢力を削ぐのに都合が良い?》
《おいッ!!》

 柔和な笑顔を保ち続ける シャマルの外見とは正反対な真っ黒い性格に ザフィーラが脊髄反射でツッコミを入れる。 その絶妙で神妙なタイミング…… 彼と、同輩である ヴィータ以外にツッコミ属性を持たない八神家での経験の賜物だろう。
 八神家、唯一の男手である『ペット(メイン)』兼『守護騎士(サブ)』ザフィーラ……
 それは ヴォルケンリッターの一員であり『盾の守護獣』の異名を持つ男。 けれど、その実態は良く言ったとしても縁の下の力持ち。 剣や鎚が表舞台で華やかに激しく活躍する中、目立たない、影の部分で絶えず泥を被り続ける悲しき運命の中でなお、懸命に働き続ける土方な男。
 静かで、寡黙なはずの この男が今、シャマルの黒発言に対し切実なまでな生命の危機を感じ取り吼える。

《……冗談よ。 けど、あんまり本気にしてると近い将来ハゲちゃうわよ ザフィーラ》
《誰のせいだと…… 最近、主にブラッシングしてもらうと大量に毛が抜けているんだが……》
《……あら ここに円形のハゲが?》
《何ぃッ!? じょ、じょじょ…… 冗談なのだろぅ シャマル!!》
《うふふふふ 冗談、なら良いわよ…… ねぇ?》

 念話で延々と、ネチネチと弄られつづける ザフィーラ。
 彼は気付いていない。 彼が ここまでネチネチと苛められている理由が、盗聴防止用のため身体接触による直接念話の際にうっかり彼の身体が シャマルのお尻に密着し無意識にセクハラをしているということに……
 友人に対し、少しばかり(それ以上に?)過保護な『高町なのは』参入のおかげで、彼の負担は確実に減ってはいるのだが、まだまだ彼の苦労は続きそうである。
 今後、彼の苦労は報われるのだろうか?

 闇の書の暴走が起きたとしても管理局に被害が出ないであろう都合の良い万全の処置をとった場所。 その敵地と言っても差し支えのない場所に居てさえ、変わることない平常心と ちょっとどころでない悪戯心を維持しながら困惑する ザフィーラを飽きることなく弄り倒している シャマル。
 そんな腹黒参謀を、彼女以上の図太さを持って悠然とした態度で前を行くのが管理局のマッドサイエンティスト・プレシア。
 彼女の進む先、その他多数の研究者達の群れが十戒で モーゼに割られる大海の如く人垣を切り裂いていく。 けれど、そんな人外な存在に先導されながら歩く一人と一匹の目的地である休息所に先回りし、その癒しくつろぎのひとときを妨げるように立つ勇気と覇気を持つ人物がいた。

「テスタロッサ主任、解析の方は進んでいるのかね?」

 笑顔の陰に彼女を知る者でしか気付けないほど微かな不機嫌さを醸し始める プレシアの放つ存在感を前にしてさえ、それに押し切られることなく彼女と異なる威風堂々たる存在感を放っている その男の名前は『トール・カミザキ』提督。
 本人の魔法資質はAA+程度。 されど、三十半ばの若さでありながら少将の地位に付く闇の書『排除派』を主導するトップであり、その最終的な行動方針を決定している重要な人物。

「古代ベルカ技術の結晶ですから、順調に…… とは言い切れませんが、着実には進んでいますわ 提督」
「そうか…… 我々も我々なりに過去の文献等を調べてはいるが、得られるデータは少しでも多い方が良いだろう。
 ……例え、どんな結果になるとしても、な」

 プレシアは瞬時に気分を切り替え、淡々とした調子で現状の説明を始める。
 この場で必要な言葉を交し合う中、カミザキ提督の後ろに無言で守護騎士達を睨み続ける彼の二人の護衛らしき人物らが プレシアの後ろで所在なさげに微笑んでいる シャマルと その横に控える ザフィーラを睨み付けている。 その隆々と盛り上がる筋肉を管理局の制服に身を包んだ二m近い岩のような巨漢の男達は2人を睨む以上のことを決してしようとしない。
 何故なら、彼らの前で話を続ける カミザキ提督の声は常に自信に満ち溢れ、部下を制するだけの弾力に満ちたしなやかさと力強さと鋭さとを感じさせる。 その管理局の制服に身を包んだ細身で190cmを超える長身は鋭利な刺突剣を思わせ、その意思と身体を統括する痩せ気味の顔面で輝く細長い目は、一片の油断や慢心さえ見られない。
 彼はかつて、管理局結成よりも以前に襲い掛かった時空世界滅亡の危機を救った外世界から来た英雄の末裔。 そして、彼の先祖にして その英雄の血を受け継ぐ者達もまたデバイスの発展に貢献した一族であり、更には管理局の理念を受け その創設を助けて外世界からの入ってくる有能な魔導師達を保護し柔軟に受け入れ、組織勢力の拡大に大きな実績を持っている。
 その実績の多くはは確かに信頼を得るに足るものであり、この管理局内においても、かつて彼らの一族に保護された者達も多く、現在は その血を引く者達が高い地位に付いている場合さえあり、その人脈の深さと広さは他の追随を許さない。
 そして彼自身もまた、彼の先達達が積み重ねてきた偉業を誇りに、それに恥じないよう自身を厳しく律している。
 彼は その血脈と、幼き頃より絶え間ない日々の精進によって得た才覚によって30代という若さでありながらも一つの派閥の長として立っているのだ。

「『闇の書』の暴走は多くの悲しい悲劇を生み出してきた…… そう、それを扱う主自身さえ巻き込んでな」

 プレシアとの会話が途切れ、カミザキ提督の意味ありげな視線が言葉とともに その後ろに控える シャマル、ザフィーラへと移る。
 怒り、憎しみ、悲しみ…… 形容しがたい、複雑なモノの絡み合った視線が、2人に強く鋭く問いかけてくる。 その対応の全てを見逃さぬよう、それによって その在り方を見極めるために、それ以上の言葉を発することなく静かに ただ見つめ続ける。

「私達、守護騎士は 主を護る盾。 そして、主の意志を貫くための剣ですわ 提督」
 その視線から目を背けることなく正面から受け止め答える。
「それは 主の為ならばプログラムの消滅…… 人格の消失、人としての『死』さえ受け入れるという意味なのか?」
「いいえ、違いますわ。 主は自分の命を失うことも、災害をばら撒き、悲しみを増やすことも、更には 私達の消滅を望んではいませんもの。
 主は、とても欲張りで…… 優しいのですよ」

 シャマルは微笑を絶やすことなく、それでも揺るがない強い決意を持って敵意を内包する者達に対し守護騎士としての自分達のあり方を宣言する。 そんな彼女に対し、提督の探るような視線が、その後ろからは煮え滾るような恨みと憎しみの篭った視線が突き刺さってくる。 けれど、彼女は その息苦しさを感じるであろう圧力に負け退いたりはしない、自分達の帰りを待っていてくれる主のためにも逃げ出し譲ったりはしない。
 低い唸りながら庇うように前に出ようとする ザフィーラに貴方の出番ではないと軽く手で制し受け流す。

「確かに欲張りだな……」
 ほんの一瞬、厳しい表情が僅かに剥がれ落ち苦笑が漏れる。
「現在の『闇の書』の主が 自身の意志と才覚によって暴走やリンカーコアへの侵食を抑えているという事実は認めよう。 だが、それも言ってしまえば その場しのぎに過ぎない。 今後の状況次第ではそう遠くない未来に全てを失い大きな災厄を振り撒く可能性も大きいのだぞ」
「主の行く先に未来はない。 だから苦しまずに済む様な選択をせよと 私達に主を説得しろとでも?
 目の前に可能性がないなら見つけ出せば良いし、全てを解決する方法が無いのならば作り出せば良いのではないかしら? 例え一時的であっても 主が闇の書からの侵食を抑え、暴走するまでの時間を稼いでいるのは確かな事実なのですよ?」

 視線を交差させ言葉の刃を交し合う両名。
 一方は全体のため、組織のトップに立つ者として より少ない犠牲で多くの人達を救い護るために
 もう一方は護りたいと願う ただ1人だけのために、その人が大事に思う人達と幸せに笑っていられるような優しい世界を築き上げるために
 どちらかが正しくて、どちらかが間違っているわけでもない。 けれど、どちらも大切なモノを、互いに想い描く理想の一線を譲ることはしない。

 平行線のまま一瞬の静寂。 黙りこみ、冷気を帯びた二対の視線のみが絡み合う。

「貴方の考え方を否定する気はない。 だが、同時に今回の状況は稀有なモノにすぎない」
「そうですわね。 過去に行われた改竄の影響か 私達の中には『闇の書』完成時の記憶がすっぽりと抜け落ちていました…… 主が協力を求め、管理局に納められた過去の記憶を探らなければほぼ確実に今までと同じ過ちを犯していたでしょう」

 カミザキ提督の言葉が静寂を切り裂き会話が再び繋がる。 それは『奇跡』と呼んでも差し支えないような小さな小さな可能性。
 巨大な力に溺れ、抗えない力に呑まれていった かつての『闇の書』の主達とは、ほとんど言葉さえ交し合う機会なく血で血を洗い、憎しみと悲しみを撒き散らす争いあうだけの救いの無い関係。 更には改竄の影響か守護騎士からは『闇の書』完成時に起こる暴走の記憶が欠け落ち、消失されてしまう。
 故に、主自身が その力に溺れず呑み込まれず…… その上、前に進みだそうとする強い意志なくして、ここに至るまでの道のりはあり得ず、起こりえなかったのだ。

「我等としても降って沸いたと言える このチャンスを逃す気はない。 ……ここで必ず全てを終わらせる」
「それはこちらも同様です。 それがお互いにとって妥協の出来るモノになれば良いですわね。
 ああ、そういえば…… 前回、主が襲撃されたときに その情報を送って下さったのは貴方でしたわね? この場で改めて御礼を言わせて頂きますわ」

 自分達の意志を宣言した。
 そう判断した シャマルは 今以上に空気が淀み、相手にある負の感情が高まるのを避けるため会話を一転させようと話を変える。 その口から出てくるのは自分達に害を成す可能性の高い排除派に対しての『感謝』の言葉。
 一見、意外に感じるかもしれない。 だが、それは以前に排除派から離反した襲撃メンバーについての情報に対する感謝。
 シャマルの言うように それが主と その友人達を助けることになったのも、その結果、自分達の保護レベルが上昇したのも 紛れも無い事実。 けれど、この場所で、かつ、捕獲された局員が排除派に属していたメンバーである以上…… 全然、会話を一転させてはいないし、逆に相手の感情を煽っている。
 当然のように提督の後ろに控える鼻息荒い部下達の額には太い青筋が浮かび、ピクピクと痙攣を引き起こす。 それでもなお、シャマルは動じない。 悠然と構え、優しい笑顔のまま…… どうやら相手に『主を犠牲にする』という自分達にとってありえない認められない選択肢を示唆されたことにより、この参謀の内面にも無意識に火が付いたのだろう。

 『私達は絶対に主を見放したりはしない』のだと

「……気にする必要などない。
 情報伝達が予想外に遅れ、戸惑ったのは事実だが、元々こちら側にいた者達が私怨から保管されたロストロギアを盗み出してまで引き起こした災いで そこに尊重すべき大儀などない。 その上、かような方法では『闇の書』を消滅させることは出来ないことも分かりきっていた」

 背後でいきりたつ部下達を軽く諌めながら カミザキ提督は嘆息する。
 彼は柔らかく微笑みながらも自分を観察するような シャマルの鋭い視線に気付いていた。 そして、無意識下とは言え彼女が相手の感情を逆撫でするようなことをわざわざ言い、自身の器を見ていることに
 そのことを理解しているが故に、彼は必要以上に冷静であろうと努める。 意志の力により微動だに揺るがない心を以って部下を落ち着かせ、極めて理性的に話す。
 感情の制御、その程度のことが出来ずして本当の意味で人の上に立ち、部下達の信頼を得ることなどないのだ。

「ふふふ それはそれ…… これはこれ…… ですわ。 経緯はどうあれ、その情報のお陰で被害が抑えられた。 それが事実である以上、感謝したいという気持ちもまた事実ですよ」
「抜け目ないな…… まあ良い。 我らは我らの方法で手段を探す。 それまでは この状況も甘んじて受け入れるとしよう」

 宣戦布告は成った。 それゆえ、これ以上続ける価値はないと会話が打ち切られる。
 会話を終えた カミザキ提督らは プレシアに一礼し その場を去る。 そうして守護騎士達の参謀と排除派のトップとの初のての会合が終わる。
 けれど、これは始まり。 それは直接武器を交えぶつけ合い、火花散る鍛鉄や流し合う血の臭いが立ち込める戦闘ではなく、水面下で人知れず静かに浸透し進行し広がっていく謀略の類。
 主に絶対的に不足しているであろう交渉経験を補い、一手に担う『湖の騎士』シャマルの人知れない日の目を見ることも無い、静かな戦いは続く。 その心労を柔らかな笑顔に隠したままに……

 それは置いといて、後に残った プレシア、シャマル、ザフィーラの三人と一匹のやりとりは……

「ザフィーラ…… もう少し愛想良く出来ない? 私が精一杯、愛想を振りまいているのに…… 貴方が横で威嚇していたら効果減は確実よ」
「だが…… それでは周りから侮られ『パン』おうッ!?」

 シャマル主導の ザフィーラ弄りが再開されていた……
 文句を言い返そうとする ザフィーラに容赦なく振り下ろされる主から下賜された白いハリセン。 そのハリセンがブゥンと唸りを上げて目標の頭で素晴らしく良い音を立てる。
 いつものボケとツッコミとが逆転し、シャマルはハリセンを手に満足そうに頷きながら微笑む。

「あのねぇ…… 侮られない、舐められないようにするなら、威圧感爆発な シグナムを連れてくるわよ。 そうしないのは…… 先ほどにも話したでしょ?」
「う、うむぅ……」
「だ・か・ら…… ほらほら笑顔笑顔、ス・マ・イ・ル」
「こ、こうか……『バキャッ』へぶぉっ!?」

 シャマルの勢いに完全に言い負かされ、ザフィーラが犬歯を剥き出しにニヤリと笑う。
 獲物に喰いかかる寸前の肉食獣のような凶相に加え、大きく鋭い犬歯に唾液が絡み滴る。 その上、照明の反射まで受けた牙が妖しく輝き、周りにいた研究員達の表情が恐怖に引き攣り、背筋に大量な冷や汗を感じながらも その生存本能に従いジリジリと後ずさる。
 当然ながら シャマルが そのような状況を許しておくはずがなく……
 一度目よりもさらに強力なツッコミが入る。 魔力で硬度を増し、緑色の輝きを帯びたハリセンが ザフィーラの後頭部を容赦なくどつく。 その破壊力は凄まじく、そのままコンクリートの硬い床に鼻面から勢いよく叩きつけられた ザフィーラは噴出した鼻血で大地を染め上げながら低く呻き悶絶する。

「お馬鹿!! そんなに鋭い犬歯剥き出しにしたら、今にも襲い掛かられるんじゃないかって引くわよ!!」
「だ、だが……」
「ザフィーラ…… 家に帰ったら特訓ね」

 騎士達の主は生きることに貪欲で、それ以上に幸せになることに前向きで努力家なのだ。 それゆえに自分が、その周りの人達が笑っていられるような幸せな時間を得るチャンスを早々と見逃したりはしないだろう。 ザフィーラが一家総出で弄られるのはほぼ確定だろう。 ……いや、もしかしたら シグナム、ヴィータも巻き添えで被弾するかもしれない。
 シャマルによってなされた死の宣告(ある意味)に ザフィーラが今夜から八神家で行われるであろう特訓と言う名の自分弄りを、シグナム、ヴィータらが巻き込まれた場合に起こるであろう報復行為が脳裏に走り、溜息とともに脱力し力なく項垂れる。

「……改造手術……する?」

 スチール製の椅子に座り簡易式なテーブルで それに不釣合いなほど高価なコーヒーの香りを堪能しつつ、一人と一匹のやりとりを妖艶に見つめていた女性。 プレシアがボソリと呟いた。
 彼女の脳裏には既に アルフの代わりに『フルアーマー・ザフィーラ』の構想が出来つつあるとかないとか……

 詳細は弟三期で明らかになる……のかもしれない。

 この3次創作、本当に なのは以外の(もしかしたら なのはも)男性陣は苦労している。
 ……っていうか、登場するたびに一番ボコボコにされている ユーノ君が一番輝いて見えるのは何故なんだろう。

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 おまけ<前回の感想欄を読んで電波が届きました
 『高町なのは(♂)が どうしてミニスカへと至ったのか』について

 海鳴市藤見町に居を構える高町家の一室。
 その和風な家の一室にて、栗色の髪の毛をサイドポニーにした ある人物のためにファッションショー(もどき)が行われていた。

「ね、ねぇ!! なんで……? なんだって 私が こんな格好しなくちゃならないんだよぅ!!」
「既に決定事項よ。 諦めなさい なのは」
「だってミニだよミニ? 太もも丸出しなミニスカなんだよ アリサちゃん!!」

 否、ファッションショーの形をとっただけのモノ。 激しく激昂するは主役であるはずの女性にしか見えない女装な男性。 つまり『高町なのは』の絶叫によって それは否定される。 その場に居合わせるのは、主役である なのはを含め、アリサ、すずか、はやて、フェイトの五人。 いずれも十五歳前後で、それぞれがそれぞれ別の輝きを持つ綺麗で可愛らしい少女達(一人は男の子だけど)。
 眩しいほどに主役の全身に照りつける照明と その晴れ姿(あるいは痴態)を余すことなく録画するために設置される複数のビデオカメラ。 その全てが目標である なのはの全てを捕らえ離さない。
 白を基調に青いアクセント。 そして その胸を鮮やかに飾るのは赤のリボン。 先ほどの『ミニスカ』発言も含めどう見ても女性モノの制服であり、なのは自身の性別とは全力全開で逆噴射していた。
 その容姿とは完全無欠に一致してはいるが……
 ついで発せられる アリサの発言が非情さと冷酷さを帯び、残酷なまでに なのはに突き刺さり その脳を激しく揺さぶりノックアウトにかかる。

「胸部装甲も以前より強化されとるから…… 更に防御力が上がっとるみたいやね」
「はやてちゃん、あれって胸パットじゃないんだ? じゃあ、あの膨らみは緩衝材なのかな」
「そや、でも表向きが緩衝材やよ すずかちゃん」

 こちらは アリサとは逆サイドで なのはから右側にいる すずか、はやて組。
 前もって手渡されている解説書を手に色々と話し合っている。 主に女性っぽい膨らみを得た なのはの胸部を指差しながら……

「すずかちゃん、はやてちゃん?
 だから…… なんでまた『女の子』用なのよ!! しかも更に それっぽさが増してるし!!」

 ギュルンと質の良い油、挿したての機械の如く、滑らかに物凄い勢いで2人の方へと振り返る。
 どうやら この格好は なのは自身の意志を百八十度無視し、正反対の方向に突っ走ったモノであったらしい。 少しばかり目尻に涙を浮かべ、顔を真っ赤に染めながら猛烈に抗議を繰り返す。 けれど悲しいかな、その仕草は本当の女性う以上に女性らしさが滲み出し、発する言葉のほとんど100%を無効化していた。

「でも なのは…… その新しいバリアジャケット、母さん達から聞いただけでもかなり優秀な性能みたいだよ?」
「ぅぅぅ…… フェイトちゃんまで……」

 アリサ側。 つまりは なのはの左側にいる フェイトから声がかかる。
 なのは自身も知らないうちに換装が済まされていた新バリアジャケットのデザイン。 無論、そのデザインをノリノリで請け負ったのは フェイトの母親、プレシアであった。
 可愛いモノは可愛い、似合うモノは似合う。 なのは自身の意志は別として それで良いんじゃないかと素直に真っ正直に思い口に出してしまう辺り、フェイトと プレシアは紛れも無く母子と言えるかもしれない。

 ……プレシアの方がより過激で過剰なのは言うまでも無いが

「なによ なのは。 そんなに似合っているのに その新ジャケットに何か不満でもあるっていうの?」
「アリサちゃん…… だから、私は『男の子』なんだってば!!」
「まあまあ それはひとまず置いといて…… なのはちゃん、これを見てみてや」
「置いとかないでよぅ……」

 風に揺れる柳の木のように あっさり無視されスルーされていく なのはの抗議。
 自分の意志に関係なく違う方向へと進んでいく展開に なのははガクリと両肩を落とし、なんだか言いようの無い無力感に苛まれる。

「えと それは…… 首都クラナガンにおける犯罪報告書?」
「そうや、みんなによう説明するためにちゃんと日本語に訳してきたんやよ。
 それでな…… ここ、ここを見て欲しいんや」
「痴漢…… 婦女暴行…… はやて、これ凄いわね。 ここ最近で犯罪件数が急下降してるわ」
「けど、はやて ここ最近で そういうのを取り締まるような新しい条例とか出ていないはずだし…… そのデータは本当?」

 ガックリとした なのはをひとまず差し置き、はやての取り出した資料をマジマジと見つめる3人の女性達。 その資料の束を前に すずかは聞きなれない地域名に思わず疑問の声を漏らし、アリサが そのデータの変化に驚きの声をあげる。 そして、管理局本局に努め この地名をよく知る フェイトは犯罪件数の三割以上減少というあり得ない結果にデータの真偽を疑いを抱きながらも この変化を看過出来ず資料を持ち込んだ はやてに問いかける。

「あの 私…… 無視なの?」

 なのはが呟く。 ミニスカでの体育座りで下着が丸見えなのも気にせず『はふぅ……』と溜息が途切れることなく漏れる。
 けれど、なのはは知らない。 自分が4人から本気で無視されている訳ではなく…… むしろ真の なのは弄りは ここからだということを

「ここにな…… それに関する報告もあるんやよ」
「えぇ……と 『白がメインの制服を着ると防御力が格段に上がったような気がする』? それでこちらは、『管理局のMSは化け物か?』?
 ……ああ、そういえば なのはちゃんのバリアジャケットも白だよね」
「まあ、なのはは生身でも頑丈よね」

 はやての白い指先に示された部分、被害に合いそうになった、被害に悩んでいた女性達の心の声を すずかがそのまま読み上げる。
 そして、そこには『白い制服』の劇的な効果が、どこぞの宣伝広告の如くの怒涛の呼び込みの如くで書きつられていた。 この瞬間、なのはを除く四名の中では なのはとの接点が確かにあった(ほぼ確定?)ことが確認される。

「『白い制服』? ……私は関係ないと思うんだけど、うん、関係ない関係ないよ…… そうに違いないよ、ね?」

 体育座りで力なく項垂れていたいた なのはも流石に この言葉にピクリと震える自分自身に対し、必死にどうしようもない言い訳を積み重ねて精神の再構築を図ろうとしている。 けれど、残念ながら この程度の なのは弄りは、まだまだ軽いお触り程度でしかなかった。

「次は…… 『髪の毛をツインテールにすると、痴漢、変質者に対して容赦なく急所攻撃が出来るようになる』?」
「あ…… なんとなく分かる」

 引き続き続けて読み上げられる被害者に成りかけて加害者になった女性達の調書(?)に フェイトが思わず同意の声を漏らす。 今はサラサラと腰まで流れるように輝く金髪を先の方で結っている フェイトも、バリアジャケット展開時は なのはと同じツインテールなのだ。
 管理局のアイドル的存在である なのは、フェイト。 この調書(?)の女性が一体どちらの影響を受けているのか…… まあ、それは言うまでもないことであろう。

「フェ、フェイトちゃん!?」

 バッっと弾かれたように飛び上がり、そのまま会話の中心部へと転がりこむ なのは。
 相当に焦り動揺しているだろうことに、ビクビクと震える指先で すずかの手にある書類を奪うように受け取り、半ば涙目で その内容を斜め読みする。
 当然、書類の内容に捏造なんてなく…… なのはの顔から滝のような汗が流れ落ちていく。

「そうやね バリアジャケット展開時の フェイトちゃんも金髪ツインテールやったな」
「フェイトちゃん ツインテールは関係ないよぅ……」
「そうね…… 関係あるのは『なのはのツインテール』だものね」
「あぅ、あぅあぅ……」

 手にした証拠書類の束に縮こまるように顔を隠しながら力なく反論する なのはの言葉はどこまでも弱々しく……

「はやて…… 貴方の言いたいことは大体想像がついたわ」
「さすが アリサちゃんやね。 そうや…… つまりは なのはちゃんの可愛らしい女装はクラナガンの防犯に多大な貢献をしているってことや」
「なのはちゃんの管理局勤務した辺りから犯罪の減少が始まってるみたいだから…… 因果関係は確実にあるよね」

 結論はあまりに簡単に、すぐさま弾き出される。 つまりは、クラナガンに在住する女性の多くが『管理局の白い悪魔』と呼ばれる なのはの影響を受けているということ。

「ちょッ!? 私は男の子なんだよ? そんなことあるはずないじゃない!!」
「だ、大丈夫だよ なのはが一番綺麗なはずだから……」
「えぐぅ フェイトちゃん…… それフォローになってないよ」

 なのはが泣くように叫ぶ。 頬を真っ赤に染め上げ、手にした書類がしわくちゃになるほど強く握り締めながら振り回す その仕草は本当の年齢以上に幼く見え、フォローしているようでとどめを刺している フェイトの言うように とても『悪魔』と称される人物には見えない。

 ……それが女性にしか見えないのは もはや揺るぎようが無いのだけど

「なのはちゃん? それだけ似合っとんのに…… 世間にとって意味のあることなんに…… それでも駄目なんか?」
「はやてちゃん、似合っているとか、意味があるとかじゃなくて…… 私、男の子なんだよ? 男の子が女の子の格好をすること自体がおかしいと思う」

 唐突、あまりに唐突に はやてがシリアス・モードにチェンジする。
 それまで浮かべていた柔和な微笑みが消え、真摯で真剣な表情を見せる はやてに なのはは思わず息をのみ、その瞳をまじまじと見つめる。 そこには なのはを茶化すような色は一切なく、真正面から問いかける強いモノがあった。
 なのはは それを敏感に感じ取り、熱くなり沸騰し蒸気の如く全方向に霧散していた心が、急速に冷え込み一つに固まっていくのを感じ取る。

「……なのはちゃんが魔力の暴走で大怪我をしてもうたとき、私らがどんだけ心配したんやろ……」
「……え?」
 はやての瞳に戸惑う……
「そうね…… 私も含め、みんな夜も寝られず食事も満足に喉を通らない。 それに なのはの意識が戻るまで目も充血して真っ赤だったわよね」
「それは…… ごめんなさい」
 アリサの告白に謝罪の言葉しか出てこない……
「女装していた方が犯罪者達が油断してくれるんじゃないかって…… そして、その方が なのはちゃんが現場で傷つく可能性が減るんじゃないかって思うのは、私達の思い込みなのかな?」
「間違っているとは言えない……と思う、けど……」
 すずかの その言葉を否定しきれない……
「フェイトちゃんも…… なのはちゃんの看病と執務官試験の勉強でフラフラやったよね? あの時は顔色が真っ青で、不合格の通知が着たとき フェイトちゃんまで倒れるんやないかって心配やったんやよ?」
「……ごめん」
「いいよ なのは…… 私の場合は まだまだ努力と経験が足りなかっただけだから……」
 フェイトの暖かい微笑みが何故か心に突き刺さる……

 それはかつて なのはが犯した過ち。
 不安定なカートリッジシステムの限界を超える使用と蓄積された疲労を無視したような魔力使用の連続。 当然の結果として引き起こされた制御失敗による魔力の暴走……
 それによって課せられるペナルティ。
 二度と大空を飛べないだろうと言われた。 そして、そんな無茶をした なのはのことを涙混じりで怒り、どんな状態であれ生きていてくれたことに 顔を真っ赤にしながら喜んだ なのはにとって無関係とは言えない、目の前にいる大切な人達。

「ねぇ なのはちゃん。 もし なのはちゃんに何かあったら…… この子達は 私のお話の中でしか父親である なのはちゃんと会えなくなっちゃうよね」
「そうね すずか…… それはきっと、話をする 私達にとっても少しばかり悲しいことよね」
「すずかちゃん…… アリサちゃん……」
 すずかが…… アリサが…… そのポッコリと膨らんだ下腹部をゆっくりと擦るように撫でる。 もう少しで会えるであろう そこに宿る小さな命に優しく語りかける。
「私も、家族が欠けるのは…… どうしようもなく辛いよ」
「私らも…… なのはちゃんのことを心配してるんよ」
「フェイトちゃん…… はやてちゃん……」
 唇を噛み締め、何かを耐える なのはをあやすように フェイト、はやてが優しく抱きしめる。

 なのはを抱きしめる可愛らしいフリルの付いた薄ピンクのマタニティドレスを着た三人と管理局執務官の制服を着た一人女性。 それは来月に臨月を控えた アリサ、すずか、はやての三人の妊婦さん達と フェイトの四人であり、なのはの愛する大切な奥さん達。
 彼女らの真の目的が なのはの心に深く深く奥の奥まで貫く。

「なのはちゃん? なのはちゃんなら、私らの言いたいこと…… 分かってくれるはずやよね?」
「……はい」

 女装は嫌なのは間違いない。 けれど、それ以上返す言葉もなく。 しばしの沈黙の後、なのはは奥様方を前にはっきりと頷く。

 高町なのは…… 奥様方に敗北(説得)完了!!

 そして、その後に当然のように行われる奥様方主催の『第○○回 なのはサミット』にて
 残念ながらヴォルケン組-1は今回欠席。

「はやて、すずか、フェイト…… 大方の計画通りね」
「うん、これで確実に私達の目の届かない所で なのはちゃんを誘惑する女性は減るよね」
「せやね…… 私らの身代わりに変身魔法で学校へ行ってもろうた猫姉妹みたいに これ幸いと なのはちゃんを誘惑したりはせんやろね」

 予定以上に上手くいき、満足げにうなずく妊婦さん達……
 現在、妊婦である彼女らは無理をして学校に行くことも出来ず、また なのはも過保護っぷりを発揮して彼女らを行かせようとはせず、故に普段の学校生活はシグナム(アリサ役)、シャマル(すずか役)、ヴィータ(はやて役)が身代わりをしている。<その陰で ザフィーラが全員分の職務を不眠不休で血反吐を撒き散らしながら働いていることは涙無しでは語れない。
 過去、一度だけヴォルケン組の都合が合わず グレアム元提督の使い魔である リーゼロッテ、リーゼアリアの猫姉妹に代わりを頼んだこともあったが……
 これ幸いと なのはの誘惑にかかるダブル猫娘(変身済み)。 オロオロとする フェイトと、実は心配でこっそりと魔法を使い自宅から観察していた妊婦さん達。 そして、再び学園生活を満喫してみたいと奥様達の身代わりを申し出ていた リンディ元提督の煽りも伴い…… 結果、修羅場発生。
 以来、どんなに忙しくとも ヴォルケン組-1が身代わりを努めることになる。<ザフィーラ残業激増で涙目、ついでに ユーノ、クロノにも被害が飛び火

「まあ、仮に誘惑したらしたで…… レズ疑惑っていう醜聞を流したりするんだけどね」
「……すずか。 その笑顔は怖すぎよ」
「でも…… なのは、かなり落ち込んでたみたいだけど……」

 盛り上がる妊婦達に、フェイトがおずおずと割り込む。
 人工生命である フェイトは生まれてくる子供に障害が出る可能性がある。 そして、いまだ女性として完成されているわけでもなく、そのしがらみに縛られた 彼女は他の奥様方のように積極的にはなれないでいた。<他の奥様方は なのはリハビリの際にかなり積極的に迫っていたりするw

「「「フェイト((ちゃん))」」」
「わわッ!?」
 悲しげに微笑み そのまま視線を足先に移し俯く フェイトを妊婦さんとは思えないほどの素早く軽快な動きでガッチリと包囲し、その身体をきつく抱きしめる。
「そうやね。 でも、なのはちゃんに示したデータ内容はしっかりしたものやし、この世界の男性が女性に対してある種の蔑視を持っとるのも事実なんやよ」
「言いたいことは分かるわ。 けど、なのはに怪我をして欲しくないっていうのも、私達の偽りの無い本心よ」
「そうだよ。 それにね フェイトちゃん…… 奥様は常に旦那様を愛し、愛される努力をしなくちゃいけないんだよ」

 猫姉妹を排除したとき以上の団結と結束を以って フェイトのフォローに入る他の奥様方。
 彼女らはお互いに競い高めあうライバルであると認識しあうと同時に、大切で掛け替えの無い親友でもあった。 それ故に、誰かが悲しんでいる、危険な目にあっているときには 全員が団結して助け合う関係にあった。 それゆえ フェイトが一人、輪から外れかけていることに気付き、自分達なりの方法と手段で励ます。

「みんなは…… 強いね」

「そうやね…… 私も『ママ』になるんやからかな」
「うん、『母親』って強いよね」
「フェイトは…… 決心がつかない?」
 子供達の『親』になるという強い自覚が、確かに フェイト自身の言うように、彼女らは フェイトを差し置いて強くなったのかもしれない……
「うん…… やっぱり、私から生まれてくる子供の状態とか考えると……」

 奥様の地位にいながらも フェイトは他の奥様方のように煮え切れず、一歩を踏み出せないまま、ただただ落ち込んでしまう。

「何言うてるん…… 私達の子供は フェイトちゃんの子供。 だから、フェイトちゃんも『ママ』になるんやよ」
「はやて?」
 フェイトが驚きにハッと顔をあげる。
「そうだね。 みんなで『母親』になろうね」
「すずか……」
 その紅い瞳が熱い涙に滲む。
「でも案外…… 私達の子供を抱いたら、可愛すぎて フェイトの悩みなんて軽く吹き飛んじゃうかもしれないわね」
「ぐしゅ アリサ…… うん、ありがとう…… ありがとう……」
 小さく鼻が鳴る。 みんなの言葉が嬉しく…… 本当に嬉しくて、何故か涙の止まらない顔で必死に笑顔を作ろうと微笑む。

 そうして、フェイトを中心に生まれてくる子供達に対する育児の話が始まる。
 男の子だった こんな名前で、女の子だったら この名前……
 こんな服を着せてみたい。 こんなお菓子を作ってあげたい。 夜、眠るときには こんな本を読んであげたい。 そして、こんな風に育って欲しい。 私達は子供達と こんな風にして生活していきたい。
 それは大きな希望と喜びに溢れる輝かしい未来の話。

 ここから一ヶ月と少し後……
 小さく儚い、けれど力強い命の輝きを秘めた赤ちゃんを抱いた フェイトが涙、溢れるほどの感激と感動を覚える。 そして、アリサの言うとおり それまでの悩みを軽く吹き飛ばし その勢いのまま…… 両頬をリンゴのように真っ赤に染め上げた フェイトによって なのはが押し倒したり、その事を第六感を超える第七感セブンセンシズによって何かを感じ取った プレシアが即座に2人の有給をむしり取ったりしたのはちょっとした余談である。

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小ネタ⑤ー2

注意事項
 例によってDVD2巻までしかみていないため、なんちゃってStsです。 設定上、おかしいと思う部分があるかもしれません…… 実際、エリオとかの扱いにちょっと困ってたりします(爆)

 小ネタ⑤(実はこっちが本編だったり)

 それは儚く小さな火種でした。 僅かな微風にさえ掻き消されてしまいそうな弱々しい火種。
 けれど、それは望まれた火種にして確かな輝き……
 それを囲う人達に不安を融かす暖かいぬくもりと、立ち上がる勇気の輝き。 だから、その輝きを想う人達全てが集い、強く願いました。
 『この尊い火を護りろう』……と。
 そうして、そこに集った多くの人達の想いにより、大切に大切に護られながら少しずつ、本当に少しずつ強く育っていく2つの火種。 それは小さな小さな生命の輝きを放つ者達。
 たくさんの優しい想いを受け取り、強く輝き始める2つの生命。
 1人は金色の髪をピンクのリボンでツインテールにした幼い女の子。 もう1人は栗色の髪を同じようにピンクのリボンでツインテールにした女の子にしか見えない幼い男の子。
 女の子の名前は『高町 はるか』、男の子の名前は『高町 はるな』、共に3歳になる双子の男女。 その子達は既に生きる神話と化した伝説の魔導士を祖母に持ち、現在進行形で伝説を作りつつある 只今出世街道爆進中の両親を持った子供達。
 父と母達、姉達、そして何より祖母達の過剰過ぎるほどの愛情に育まれ、か弱い身体故に必要以上に過保護に育てられ、少々(以上に?)甘えん坊に育ってしまいつつも……
 2人とも、輝かしい今日を元気一杯、精一杯に生きてます。

「「えぐ、えうぅぅぅ……」」

 あれ……?

「「ふぅみゅぅぅぅ……」」

 ……泣き声?

 その泣き声が時空管理局開発部主任の地位にある プレシア・テスタロッサの表情を幸福絶頂・至福極楽…… 天から地へと急下降させ瞬時に曇らせる。
 彼女を中心に時空が歪みぼやけだす……
 小さくとも元気で可愛い双子が自分の勤める部署に飛び込んでくるはずの日常が、爽やかな1日の始まりが最初の一歩から躓くという異常事態。
 開いたドアの向こう側にいる ルカ、ルナに何故か全く元気がない。 いつもなら自動ドアが開くと同時にジャンプで飛び込んでくるはずの双子が…… 自分の可愛い可愛い初孫達が、どうしたことか腫れぼったい頬をしたまま俯いている。
 彼女自身の目に入れても痛くないほど愛してやまない大切な孫達の、そ異常ともいえる元気の無さに何やら不穏な空気を感じ取り、その身体から陽炎のようにユラユラと金色の魔力が少しずつ漏れ出す。 更に、孫達にバレないようこっそりと時空魔法の構成を編んでいるあたり、既に報復の準備は万端だ。

「ルカちゃん? ルナちゃん?」

 自身の内面に吹き荒れるどす黒さを欠片も出すことなく即座に片膝を付き、双子に視線を合わせようとする プレシア。 けれど、それでも未熟児として生まれ、食も細い双子は平均的な3歳児よりも小さく、さらに状態を前方へと その身を屈ませる形になる。
 彼女は何一つ言葉を発することなく、ただ優しく見つめ双子の次の行動を待ち続ける。
 しばしの間を置き、双子は俯いたまま視線を合わせることなく、躊躇うような仕草を見せながらも、まるであらかじめ決めていたかのように全く同じタイミングでポテポテと歩み寄る。 そして、そのままギュムと大好きな『優しいおばあちゃん』に抱きつき彼女の着る白衣を握りしめて豊満な胸に顔を隠すように埋める。

「「ぅんん……」」
「どうしたの? 何か悲しいことがあったのかしら?
 2人とも、そんなお顔していたら、可愛いお顔が台無しよ?」

 プレシアが両腕で2人を抱きしめ、落ち着かせようと繊細な壊れ物を扱うように優しく丁寧に その柔らかい髪を梳く。 けれど、その行為が逆に抱きつく双子の力を更に強くし、より密着してくる。
 『ぅぅぅ……』と唸るような声を漏らし、双子の小さな肩が小刻みに揺れる。 その優しい言葉が身体をすり抜け、心を震わす。

「「ひっく…… ぅんぅぅ…… ばぁばぁ…… ふぇ…… ふぇぇぇぇん!!」」

 両者を隔てていた心の壁が、包み込むような安堵により決壊する。
 ポツリ ポツリと降り始めた雨が次第に激しくなっていく。 それはまるで豪雨のように、猛烈な勢いで泣き始める双子の孫の涙を、プレシアは何も言わずに抱きしめ続ける。 まるで豊饒な大地のように広大な母性が、不安を、悲哀を、苦悩を込められた泣き声を受け止める。
 激しく泣きじゃくる子供達を優しく抱きしめる プレシア。 それはまるで、聖母の如く神々しさと母性を併せ持っていた

 ……が

 『この表情も…… 良いわ』とか思っていたり、鼻頭から込み上がる鼻血を必死に押さえ込んでいる事実が、どうしようもなく このSSの プレシアが プレシア足る由縁。
 生まれ持った『親馬鹿』、『孫馬鹿』という属性はそうそう簡単に消えることは無いのだ……本人も消そう、無くそうなどとは微塵に思っていないし

《……で、これは一体どういうことかしら 駄犬?》

 プレシアが抱きしめる孫達に勘づかれないように念話を送る。
 『返答次第ではブチ殺す』という本気の殺意が篭もった その念話の送り先にあるのは、双子の異変を察知した瞬間に プレシア主任の発した無言の指示によって、その職員達(ある意味構成員)によって拉致された 子犬モード・アルフの姿!
 それはつまり、開発部を統括しているはずの管理局ですら把握されていない秘密の隠し部屋。
 一言に秘密基地。 正直に言えば、どう見ても悪の組織。 そのどこぞの秘密結社のように白い十字のベッドに仰向けに磔られている哀れな生贄・アルフ。

 ……というか、犬の間接は真横に開けるのか?

「ね、ねぇ!! ちょっとぉ!! 何だって アタシはこんな風にされてんのさ!!」
「ふふふ 安心して、アルフ。 貴方は貴重な情報源だから無闇やたらに危害を加えたりなんかしないよ?」
「そうですよ。 今はまだ……ですね?」
「こ、怖ッ!? てッ! そ、そんなんで…… 安心出来るかぁぁぁぁぁーーーーッ!!!!」

 全く理解出来ないうちに、四肢を頑丈そうな金属で拘束されながらも必死にもがく アルフ。
 唯一動かすことの出来る首を左右に振り回し拘束された四肢を中心に跳ねるように暴れる暴れる。 けれど、拘束具の強度に加え、強力なAMFまで自動発生させる悪の秘密結社顔負けの無駄技術力に全く歯が立たない。
 そして、その左右に立つ2つの人影。 それは プレシアと信念を共にする同士にして戦友。 白衣と言う名の戦装束に身を包んだ助手A『アリシア』と、助手B『マリー』。
 その2人の助手によって続けざまに掛けられた暖かさを装っただけの冷徹な言葉に、アルフは全身から嫌な汗を滴らせながらも顔を真っ赤に染めて全力全開で言い返す。 否、無理矢理にでも心を奮い立たせ言い返さなければ、再起不能なまでに折れてしまうのだろう…… そのフサフサな子犬尻尾はぴたりと腹部に張り付き、完全に服従、怯えきっている。

 支配する者とされる者。 絶対的な強者と無力な弱者。 そこにあるのは天と地ほどの隔たり。
 強大な力を以て その場に君臨する プレシアの念話が、アルフの心に浸透し浸食するように発せられる。

《駄犬…… いえ、アルフ 貴方には2つの選択肢が残されているわ……
 ルカちゃんと ルナちゃん…… 私の可愛い可愛い可愛い過ぎるくらい可愛い孫達に何が起こったのか素直に話すか…… それとも》
 僅かに空いた言葉の隙間に『ごくり……』と、アルフの喉がなり、瞳孔が大きく開く。
《そのとろけ気味で皺の足りていなさそうな脳味噌に直接聞くか……よ?》

 プレシアの念話を受け、助手達がゴソゴソと何やら行動を起こす。

「言う…… 言うって!! そもそも最初から話さないなんて言ってないだろ!!
 っていうか アリシア、その手に持ったドリル 何!? こっち(マリー)はチェーンソーッ!?」

 『キュイィィィィン』と唸りをあげ、ジリジリと少しずつ、少しずつ自分との距離を縮めてくる。
 迫り上がってくる恐怖を力に変え、アルフは泣き喚くように叫び、その声は次第に言葉としての意味を失い『ヒィィィーーーッ!』と喉を鳴らすだけの純粋な悲鳴へと変わっていく。
 実は最初から プレシア達に相談するつもりで必死に双子達を宥めながらここまで来たのに、あまりに報われない自身の理不尽な運命に…… なんだか理解不能ないろんな涙が止まらずに吹き出し続ける。

「何って…… 歯石でも取ろうかと?」
 漢の浪漫が力強く唸りを挙げる
「ドリルでかッ!? それ取るヤツじゃなくて虫歯削るヤツ!! しかもデカ過ぎッ!!」
「ちょっと医学の勉強を……」
 医学書っぽい本を片手に手慣れた仕草でエンジンをかけ直す
「解体新書は時代的に古すぎ! しかも、それどう見てもメスじゃない!!」

 生命の危機に怯えながらも、必死にツッコミ役をこなす アルフ。
 ルカ、ルナの送り迎え役を続け、開発部と接すことにより培った アルフの変人耐性、ツッコミ能力が今、花開く!(本人は全く望んではいないけど)

「……ってか、アンタら不思議メカで ルカ、ルナを24時間体制で警護してるんだから、何があったか知ってるはずじゃないか!!」

 『不思議メカ』についての説明
 プレシア・テスタロッサの加入によりロストロギア関連の解析が進み、ここ10年で魔導技術は飛躍的に進歩を遂げる。 その結果が開発部の発言力の増大。 そうして追加された予算は試作的に新技術の導入されることになる。
 開発部の面々は、その総意により完成したメカのモニタを高町ファミリー(主に孫達)に頼んでいるのだ。
 回収されるデータに無意味なほど ルカ、ルナの画像・動画データが多いのはきっと偶然であろう。

 ……誰も咎めない、咎められないし

《誤解があるようだから言っておくけど、いくら 私達でも…… プライベートまで覗いたりしないわ》
「……へ? そうなのか?」
 プレシアが見せた意外なまでの紳士な態度に口をあんぐりとさせ、ありえないモノ、信じられないモノを見付けたように呆然とする アルフ。
《フッ 親として当然じゃない。 でないと、3人目の孫に…… げふげふ、孫達の安全に関わらない部分においてなら、個人の空間は優先されるべきよ》
「ちょっ!? 新たな陰謀の匂いがするよぉぉぉぉーーーーッ!!!!」

 恍惚とした プレシアの声が アルフの疑問を一瞬で氷解させ、瞬時に爆散させる。
 左右に陣取る アリシアは本当に羨ましそうに手にしたドリルを見つめ、マリーはひどく恍惚とした表情で両手を胸に抱きしめる。 2人ともかなりの美人なはずなのに・・・ その様子はもう、プレシアの弟子に相応しい程、どうみてもマッドな科学者だった。

 その後、何とか自我の再構成に成功した アルフから開発部、否、ミッドチルダのアイドル、双天使である ルカ、ルナが落ち込んでいる理由が話されることになる。
 一部、妖しげな機械で記憶を覗かれた形跡があるとかないとか…… まあ、何故か理由ははっきりとしていないが アルフの記憶に残っていないため、幸いなことにトラウマになることもないだろう。

 アルフの話(記憶?)は昨晩の夕食時まで遡る。

 高町家(ミッドチルダ)。
 それは地球にある高町家の別邸。 とある高級マンションの1フロア全てを買い取り、壁に穴をブチ空けて部屋同士を繋げるという豪華で豪快な一家の集まり。 実際、なのはと その奥様×7には、それだけの地位や資産があるのだ。(なのは、フェイト、はやて、ヴォルケン組は管理局のエリート。 アリサはミッドと地球との交易ルート開発中、すずかは闇組織の大首領)
 今、この高町家の食卓。 真っ白なテーブルクロスに覆われた大きな机をを囲むのは子犬モードの アタシ、アルフを含め、なのは、フェイトと その子供である3歳の ルカ、ルナ。 そして はやて、アリサ、すずかの4歳の娘達である、いぶき、アリス、聖夜。
 『家族』である以上、なるべくみんなで食事を取るのが この一家の方針ではあるが、残念ながら それなりの地位にあるが故の責任、どうしても外せない用事というモノも出てくる。

 それがこの日で…… よりにもよって、その日に事件は起こる。

「やぁ…… やぁッ! ニンジン、やぁーーーーッ なの!!」

 ルカの目の前に対峙する憎き宿敵に対し、その顔を真っ赤に染め、両手両足をばたつかせる。
 左右に軽く結わえた感じの ルカの短い金髪ツインテールが照明の光を美しく反射させながらも、その動きに合わせて激しく揺れる。
 それは小さな ルカの、全身で力いっぱい拒否、拒絶の意志。 けれど、その目元にうっすらと涙が溜まりつつある今、強大な敵を前に敗北寸前の敵前逃亡なのだろう。

 つまりは、駄々っ子モード突入中。

「ルカ…… ちゃんと野菜も食べれるようにしないと丈夫になれないし、ママ達みたいな綺麗で美人さんな大人の女性になれなくなっちゃうんだよ…… それでも ルカは良いのかな?」

 なのはから出た『綺麗』『美人』という単語に、その隣に座る フェイトの頬がポッと赤らむ。
 それに対し、当の なのはは自身のいつものように膝の上に座る ルカを背中から抱きしめ その頭を優しく撫でる。
 本日も なのはの膝上に当然のように座る ルカ。 この食卓にも 小さな ルカ、ルナ用の椅子も しっかりと用意されているのだが、双子は好んでパパとママ、なのはと フェイトの膝上に好んで座る(居ない場合は他のママ達の膝上)。 それは3歳児にしては少しばかり甘えすぎと言えるかもしれない。 けれど、アタシ達の目の前にいる幼い双子の身体は3歳の平均値を大きく下回るほどに小さく、ちょっとした疲労でも熱を出してしまうほど身体が弱いため目を離すのは心配だ。 そして なのは達もまた未熟児として生まれた双子を、入院を理由に生後しばらくは抱きしめてあげられなかったことから、双子のぬくもりを まだまだ感じていたいのだと思う。

(仕方ないか…… なのは、フェイトの膝上に上機嫌で座る ルカ、ルナって、かなり可愛いし絵になるから)

 最も、そのことが なのはとママ達…… 更には姉3人に至るまで過保護に、特に姉達が妙に大人びてしまう原因でもあったりするから、アタシ達は ルカ、ルナを中心に団結しているってこと……のかな?

「うぅーー でも、いらにゃいモン!! ばぁばが、だいじょぶ 言ってたもん!!」

 抱きしめる なのはのぬくもりを全身に感じ、少しだけ落ち着きを取り戻した ルカではあったが、頬を大きくプックリと膨らませたまま決して引こうとはしない。 そして、その原因となっているのは プレシアさんから贈られた ルカの胸元に輝く緑色に光る宝玉を加工したペンダント。
 プレシア主導の元、開発部の総力を結集した最先端の魔導技術に加え、ちょっとばかり過剰防衛になりそうな新技術まで使用された高価なインテリジェンスデバイス。 弟・ルナの持つ赤の『ブラックサン』と対を為す その名は『シャドームーン』。
 つまり、ルカは『ニンジン嫌い』を、プレシアから教えられたデバイスの持つ免疫強化、解毒・快復効果で正当化しているのだ。

(なんて口が回る…… いや、賢い3歳児。 これってさ、2人のお婆ちゃんの プレシアや 桃子さん、リンディ達の教育の成果の賜ってこと?)

「ルカ、違うよ…… それは怪我や病気になりにくいっていうことで、大きくなるには ちゃんとバランス良く食べなくちゃ駄目」

 隣に座る フェイトが『メッ』と、白く細い人差し指で ルカの額をチョンと軽く小突き窘める。
 ちなみに、なのはの膝上に ルカがいるように、フェイトの膝上には ルナがちょこんと座り、スプーン片手に上機嫌でお食事中だ。
 ときどき、いや、かなりこまめに フェイトが ルナのモチモチとした白いほっぺに付いた食べカスなんかを拭き取ってあげる仕草が…… 物凄く和む。

(あぁ 小さい子の笑い顔って、凄く和む…… 本当に良いなぁ……)

「うぅ…… でも、嫌いゃもん ……おいちくないもん」
「でもほら、見てみてよ。 私、頑張って料理して見た目も食感もニンジンとは思えないように料理したんだよ?」

 声に嗚咽が混じり、本格的に泣きそうな顔を見せる ルカを、なのはが慌ててあやす。
 ルカの目の前にある敵(ニンジン)は、なのはの手により その姿形も分からないほど崩され、シチューに入れられている。
 騒がしくなりつつあるテーブルの下、湯気の立つ美味しそうなシチューの入ったお皿に アタシは頭を突っ込みながら、正直、ルカが駄々をこねるまで、ニンジンが入っているなんて全然気付かなかったよ。

 対して、それに向かい合う席では……

「はぁ ……というか、ルカってば、何でここまで形が変わっているのにニンジンが入ってるって分かったのかしら?」
「そうだよね。 ルカちゃんって粉末近くになるまで微塵切りにしたり、ペースト状にしたりして食感とか青臭さとか…… 全然違うモノにしても、ニンジンが入ってるって気付くんだもんね」
「ルナちゃんの方は、嫌いなニンジン入ってても、あんなに美味しそうに食べているやけどなぁ……
 でも、そこまで手の込んだ料理しても材料が分かるってのは、ルカちゃん、料理の才能があるんとちゃう?」

 アタシの疑問を代弁するかのように、なのは、フェイトと向かい合うように座る3人娘。 アリス、聖夜、いぶきが話し合う。
 普段なら食卓を中心に会話が弾み、家族が1つになっている感じなんだけど、今はちょっと二分されてる感じがする。 まあ3人とも、ルカの泣き顔を見てまで嫌いなモノを薦めたりするのが嫌だから、なのは、フェイトのフォローはしないんだよね…… その気持ちは分からなくもないけど
 それでも 実際、どんなに嫌がられても言わなくちゃいけない必要なことだって理解しているから、3人とも なのは、フェイトの邪魔をしたりはしないんだけどね。

「うーん じゃぁ…… 一口だけでも食べてみようか? ほら、ルナの方は嫌いなニンジンも美味しそうに食べてるよ?」
 フェイトが少しだけ首を傾げ、考える仕草を取る。
「うん、ママの言うとおりだよね。 それにこのまま好き嫌いが治らないと、ルカはずっと小さいままで大きくなれないよ?」

 フェイトがスプーンを手にして湯気の立つシチューの入ったお皿から一口分…… いや、半口分ほど救い、ルカの目の前に持っていく。 その行為を受け、なのはもまた ほっぺを丸く膨らませ不機嫌そうな顔をした ルカの頭をゆっくりと丁寧に撫でながら『じゃあ、私と半ぶっこしようか?』と耳元で優しく囁く。

「……にゃぁ? ルカ、おいちぃーよ?」
「ッ!?」

 2人の言葉を受け、ルカの視線が双子の弟、ルナを捉える。
 自分と同じ、ニンジン嫌いなはずの ルナが幸せそうな顔をしてシチューを食べている姿に驚き、大きく目を見開く。
 自分の嫌いな食べ物を美味しそうに食べる。 それを『裏切り』と感じ取ってしまったのだろうか?
 ルカの唇が小さく震えるだし……

「ルナの、ルナの…… ばかぁーーーッ!!」
 ガチャッ!!
「「「「あッ!?」」」」

 フェイトと、姉達の唖然とした声が響き合う。
 癇癪を起こした ルカの小さな白い手が、目の前にあるシチュー(お子さま用にちょっとぬるめ)の入ったお皿を フェイトと、その膝上に居る ルナに向かってひっくり返す。
 思いのほか勢いと飛距離を得た それが宙を舞い、いまだ現状を理解出来ないままご機嫌にシチューをつつき続ける ルナと、それを咄嗟に庇おうと身体を割り込ませた フェイトへとぶちまけられる。

 バチャ……

「「「「あ…… なのは(パパ)(お父様)(お父さん)」」」」
「ぷはッ ルカ、フェイトちゃん……大丈夫?」

 シチューは なのはに直撃した。 しかも、ご丁寧なまでに ひっくり返されたお皿が その頭にのっかっていたりする。
 どうやら、なのはが『神速』で2人の間に割り込んだみたいだ……
 そして、わざわざシチューの直撃を受けたのは ルカが大丈夫なように膝の上から降ろして自分の座っていた椅子に座らせたため、両手が塞がっていたからだろう。

 ポタリ…… ポタリ……

 なのはの栗色の髪を伝い、シチューが床へとこぼれ落ちていく。
 みんなの視線が なのはを捉え、何も言えぬまま呆然と見つめ続ける。
 時間の感覚が麻痺し それが一瞬なのか、それとも数分、もっと長い時間なのか分からない。

「……あぅ? ふぇ…… ふぇぇぇぇぇぇん!!!!」

 ルナが笑顔のまま固まり、そして それは少しずつ崩れ、ついには大声をあげて泣き出す。 どうやら、ルカに怒鳴られたことが徐々に浸透していったみたいだ。
 その愛らしい顔を真っ赤に染めあげ、小さな手にスプーンを握りしめたまま その幼い身体を震わせ泣きに泣き、全力全開で泣き喚き出す。

「ひっく ひっく えぐぅ…… ままぁー」
「あぁ…… よしよし、大丈夫だから……」

 潤んだ瞳で フェイトに抱きつき、更に上目遣いで ルナが愚図る。
 プレシアが見たら卒倒するほど殺人的な可愛さを見せる ルナだったけど、そのポロポロとこぼれ落ち続ける涙は頂けない。 それを フェイトも同じように感じたかは分からないけど、その涙を止めようと必死にあやし続ける。
 フェイトが優しく ルナの柔らかい栗色の髪を撫で、胸に抱きしめ自身の心音を聞かせ、頬ずりまでして愚図る子供を安心させようとする。 それが功を奏し、ルナは フェイトの胸でグシュグシュと鼻を鳴らしながらも少しずつ落ち着きを取り戻していく。

「……ルカ」
 フェイトは ルナを抱きかかえ、頭を撫で背中をさすりながらも隣に座る ルカへと視線を移す。
「……ひぅッ 悪くないもん…… 悪くないもん!! パパのせいだもん!!」
 小さな背中が一度、ビクリと震える
「え…… ルカ?」

 交差する フェイトと ルナの紅い瞳。 その無言の視線が、なのはと ルナへの謝罪を促す。
 けれど、心に負い目を感じているであろう ルカには その視線は重すぎた。
 みるみる涙に潤み始める紅い瞳に震える小さな身体。 その幼い心には制御しきれないほど激しい感情が、別の捌け口を求めて破裂する。
 シチューを頭から被りながらも心配そうに ルカと フェイトを見つめていた なのはに向かって……

「きらい きらい きらい!! ふわぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 高ぶる感情のまま勢い良く椅子から飛び降り両手で拳を握りしめ、すぐ側に呆然と立っていた なのはの足をポカポカと殴る。
 けれど、それも長くは続かない。 その見た目も打撃音も軽い攻撃でさえも、ルカの息はすぐに上がり肩で激しく上下させる。
 既に自分のしていることさえ分からないほどの錯乱し、激しい混乱を見せていた ルカ。 そしてついには、目の前にある全てに耐えきれなくなって逃げ出してしまう……
 それは多分、言いたいことが上手く言えない。 伝えたいことが上手く伝わらない。 そのことに苛立ってしまったのだと思う。

「ルカ、待ちなさい!!」
「「ふえぇぇぇぇぇん!!!」」
「えぇ!? ルナまで……」

 脱兎……とまではいかなくとも、ルカとしてはかなりの速さでトテトテと食堂から逃げ出す。
 フェイトは右手を伸ばし逃げ出す ルカを呼び止めようとするが、双子の片割れ、ルナが ルカの泣き声に併せて再び激しく泣き出す。 どうやら ルカの感情が ルナにまで感染してしまったみたい。
 重なり合いながらも離れていく2つの泣き声。 そして、小さくなっていく小さな ルカの背中。
 フェイトは胸に抱いた ルナを必死に宥めながらも 隣にいる なのはへと援護を求める視線を送るが……

「き、嫌われた…… 嫌われた? ルナに…… ルナに?」
「えッ! な、なのはまで!?」

 なのはが真っ白になっていた……
 シチューの残滓を頭から滴らせ両膝と両手を床に付けブツブツと何かを呟く その様子はとても『白い悪魔』に見えない。 まるで打ちひしがれた華奢な美女のソレだ。 しかも何気に絵になっているし

 ここに至って、流石に アタシも傍観している訳にはいかない事態に陥っていることを自覚する。

「フェイト! とりあえず、ルナと なのはのことは アタシに任せて…… ルカの方へいってやりなよ!!」
「フェイトママ、お願い、早く行ってあげて!」
「フェイトお母様。 ルカちゃんも心細いはずだから……」
「せや、お父さんと ルナちゃんのことは 私らで何とかするから……」

 アタシは『えぐえぐ』と泣き続ける ルナの頭を肉球でポテポテと慰めながら フェイトに言い、その言葉を聞き、硬直していた アリス、聖夜、いぶきの3人娘達も、ルナと…… ついでに、幽鬼のようにフラフラとしている なのはもあやし、落ち着かせようと動き出す。

「う、うん みんな、ありがとう。 ルナのこと少しだけお願いね」

 そう言い残し、すぐさま フェイトは、消えていった ルナの背中を求め食堂から飛び出していく。
 そして、残された アタシ達もまた、この惨状を何とかするため ルナが落ち着くまで抱きしめ、散らかった食器やブチ撒かれたシチューを片づけ、シチューまみれで魂が抜けたままになっている なのはをタオルで拭いていく。

 この後が大変だった……

 ルナの方はしばらく落ち着かせれば何とかなりそうだった。 けど、なのはは、娘達に優しく声を掛けて貰いながら身体を拭いて貰っていた時でさえ呆けたままで……

 そして、そんな状態の なのはに管理局から緊急の呼び出しがかかったんだ

「……という訳で、昨夜、緊急出撃してからずっと ルカは会えなくて…… なのはと仲直り出来ないままなんだよ」

 朝、遅刻ギリギリまで泣きそうな顔をする ルカ、ルナについていた フェイトを想い返しながら話す。 話している間中、なんだか微妙に呂律が回らなかったりしたのは緊張のためであって、決して怪しい薬を使われた訳ではないはずだ……
 少なくともそう信じたいよ。

「ああ、だから今日の フェイトは珍しく遅刻寸前のギリギリで朝一の会議来てたんだね」
「緊急出撃って…… テロリストがどっかのお偉いサンを拉致して立てこもったんだっけ? なのはさんの精神状態で大丈夫だったのかな?」
「それは問題無かったみたいだよ。 むしろ予定以上にはかどったとか……」
「憂さ晴らし……なのかな?」
「なのはの実家でやってる御神流って剣術では、対テロリストのノウハウとかも仕込んでいるみたい」

 アタシが会話を終え、何故か会話をしただけなのに…… ゼエゼエと息も絶え絶えの、目も涙か疲労で霞まくっている瀕死状態にある中、アリシアと マリーの声が聞こえてくる。
 その世間話のような気楽そうな会話内容が…… 世の中ってなんて理不尽なんだろうと痛感させる。 ……助けて ドラえもん<テンパってますね アルフさん

《つまりは アルフ…… 貴方が 私に頼みたいことは、既にテロリストは始末済みだから…… 私の持てる権力とコネを駆使し、こんな理不尽(プレシア視点)な緊急出撃を命令した責任者を社会的…… 更にはスキャンダルをでっち上げて人間的にも再起不能にして欲しいってことね》

 突然、アタシの頭の中に直接念話が叩き込まれてくる。
 頭に響きわたる プレシアの感情の篭もらない声。 その冷たく伝わっていくショックに脳が揺さぶられ物凄く気持ち悪い。 更には不快感、猛烈な勢いで嘔吐物がこみ上げてくる。
 アタシの直感が断言する…… 『この人(プレシア)の言葉はマジだ』と。

「ち、違うからッ!! それ明らかに間違ってるからッ!!」
《あらあら…… だって、私が そんなことされたらショックでおかしくなってしまいそうよ?》
「アンタはそうだろうけどさ!!」
 極度の緊張に加え、あまりにも大きな声を出しすぎたために、アタシの頭がクラクラとする。
《呼び出した愚か者の名前は……『シスコン提督』 あら、ブラック?》
「クロノ、逃げてぇぇぇーーーッ!!」

 若き英雄、クロノ・ハラオウンに迫りくる家庭崩壊の危機!?
 妻子を得、小さな幸せを手に入れた中間管理職(アルフ視点)を襲う醜聞の嵐!?
 果たして クロノは家庭円満を護りきることが出来るのか!!

(やる…… 絶対にやる…… この人は、『やる(殺る)』と言ったら全く躊躇しない人だ!?)

《まあ…… 今は制裁よりも ルカちゃん、ルナちゃんが優先よね》
「そ、そぉだねぇー……」
《でも、どうして ルナちゃんまで?》
「それは…… どうも、ルカの感情に引っ張られているみたい」

 プレシアの言葉に、風向きが変わったことを感じ取り安堵する。
 クロノ提督の安らかに見える日常は護られた…… とりあえず、一時的には
 双子と なのはとの仲直りがすんでからの クロノの不幸には敢えて目を瞑り、無理矢理、念入りに記憶から消去した上で、アタシは プレシアに細かい説明をする。
 まあ、ルカの方がお姉ちゃんぶっている分、ルナは ルカの感情に引っ張られやすいんだよね。 しかも、ルナは ルカ以上に甘えん坊だから……

 そんなこんなで アタシはようやく プレシアの発するプレッシャーから解放されて……
 多分、殺意の8割以上が クロノに向かっているおかげで アタシはちょっと楽? ……とか思ったりと
 クロノ惨殺の予知夢やら、走馬燈見たいなモノが脳裏に走りながら、極度の緊張から解放された アタシの意識は急速に落ちていった……

 そして場面は ルカ、ルナを抱きしめる プレシアへと戻る

「ぅぅ…… 朝、おきちゃら えぐ ぱぱ いないおー」
「えぅ 朝も…… ぐしゅ いってらっちゃいのチューも ないのー」
「きらい 言ったから…… ルカ、嫌われちゃったお……」
「「ふぇ…… ひっく…… ひっぐ……」」

 プレシアの胸元に顔を埋めながら、ルカ、ルナが嗚咽をあげながら捨てられそうな子犬のような瞳で訴えてくる。 その上、彼女らと開発部職員達とお揃いのデザインがされた2人の管理局員っぽい洋服に皺が走り、涙が止めどなく落ちる。
 もし後日、双子の着る この制服っぽい洋服が、管理局内へのフリーパスを名目に、ペアルックを企む開発部及び、ファンクラブ職員達の総意によってなされたモノだと知ったらどう思うだろう?
 特に ルナのはどうみても ルカと同じ女性用職員のモノだし……

「大丈夫よ2人とも…… なのはちゃんが、貴方達を嫌いになんてならないわ」
 プレシアが ルカ、ルナの耳元に春風のように優しく暖かく、そっと囁く。
「「ぐしゅ…… ほんろに?」」
「『絶対』に……よ。 だから、私と一緒に なのはちゃんに謝りに行きましょう?」

 こみ上げる熱い血潮(主に鼻血)を必死に堪えながら、備え付けのビデオを遠隔操作し記録作業に余念がない プレシア。
 アルフへの念話という平行動作までも行いながらも、優しげな笑顔で双子をあやす その姿は才能の盛大な無駄使いを感じさせつつ、確実に孫達の機嫌を快復させていく。

「「ばぁばも……いっちょ? うん ……行く。 ぱぱに謝るよぅ」」

 ルカ、ルナの小さな手が涙に濡れるほっぺを拭う。
 瞳を溢れる涙に潤ませながら、ようやく進むべき道を見つけた双子は漏れそうになる嗚咽を必死に抑える。 そんな健気さを見せる双子に プレシアは優しく微笑み、誉めるようにゆっくりと その金色と栗色の髪の毛を撫でる。

「ええ、一緒に謝りにいきましょう」
「「……うん」」

 右手に ルカ、左手に ルナ。 プレシアの両手が双子の手を取り仲良く部屋を出ていく。 その目指す場所は当然 なのはのいる場所。
 2人の幼子の涙を止めるため、その尊い笑顔を護るため…… プレシア・テスタロッサ始動!

 ……あれ、仕事は?(既に暗黙の了解です)

 古代遺物管理部機動六課。 それは第一級捜索指定ロストロギアに当たるレリック問題専門の部隊という名目で新たに設立されたオーバーSクラスの隊長3名を擁する精鋭部隊。
 その本部宿舎のあたるミッドチルダ中央区画湾岸地区。
 ここに、ルカ、ルナの求めるパパ。 『高町 なのは』の姿があった。
 細い身体を包む白いバリアジャケット(何故かミニスカ)に加え、腰まで届く栗色のツインテールのどうみても妙齢の女性にしか見えない人物。 それが なのはだった。
 地面に直に片膝を立てて座り、10年という長い付き合いのデバイス、レイジングハートを肩に担ぐ その姿はまるで彫像のような1つの完成された芸術品と言え、その憂鬱な表情で真っ青な空を見つめ、時折溜息をつく その仕草が さらに『美』の完成度を高めている。

 そして、そこから少しだけ離れた所に、寝転がる少女が2名。

「ねぇ ティア……」
「……なによ スバル」
「空、綺麗だよね」
「……そうねぇ」

 なのはを隊長とする起動六課スターズ分隊所属の『スバル・ナカジマ』と『ティアナ・ランカスター』だった。
 彼女らは共に大の字で寝転がり、大地の冷たさを、心地よい風の流れを、そして広く青い空とを充分に満喫していた。

「あっ! ほら、あそこ…… あんなにはっきりと虹が架かってるよ」
「……雨、降ったからね」

 スバルが腕一本、指先一つ動かすことなく、視線のみで大空に架かった美しい虹の存在を示唆する。 けれど、ティアは その存在に心も、視線さえ動かされることなく酷く不機嫌な様子で渋々と相づちを打つ。 遙か上空に広がる上天気とはまるで正反対の ティアの内面に、スバルは そのままの姿勢で思わず苦笑する。

「うん、降ってたよね。 訓練後のシャワーにしては少し冷たかったし、ちょっぴり生傷に滲みたよね」
「……そ、そうねぇ」

 雨上がりの空に架かった虹。 少し前まで降り続いていた にわか雨を思いだしプルプルと無意識のうちに スバルの身体が震える。 それは全身に刻まれたジワジワと痛みを訴え続ける生傷だけのせいではない。
 流石に、地面は雨で湿り、髪の毛が肌に張り付き、更に下着まで雨に濡れていては不快感を感じずにはいられないのだろう。 ちなみに なのはの方はレイジングハートが気を利かせてプロテクションの傘を張っていたため全く濡れていなかったりする。 そのことが尚更、しっけた自身を認識され…… ティアの気分は大空と同じブルーになる。

「なのはさん…… 強かったよね」
「…………」

 管理局を代表するエースオブエースを『強い』と称する スバル。
 当然の、周知の事実であるはずの それに、何故か咎めるような色が篭もっている。 その言葉を聞いた ティアは その事実に対して何も言えず口ごもる。

「今日は夜勤明けで少し疲れていたみたいだから、今日こそ1本取れると思ったんだけど……」
「……わ、悪かったわよ!!」

 スバルの天然なのか、故意なのか、よく分からない言葉の数々に少しずつ追い込まれていく ティア。 ついに我慢出来ずに逆ギレ気味に白旗を挙げる。 その突然の大声に全身が苦痛の悲鳴をあげ、ちょっとだけ ティアの目尻に涙が浮かぶ。

「ティア?」

 ティアの大声に スバルは目を丸くし、その後に耳に入ってくる小さな悲鳴に危機感を感じ、疲労と傷に痛む身体をギリギリと無理矢理動かし、自分の相棒、ティアの様子を確認しようとする。

「そうよ!! たしかに 私が、今の なのはさんのコンディションなら1本位…… 一撃入れる位は出来るんじゃないかって言ったわよ!!」
 言葉による速射で誤魔化しにかかる ティア。 身体的苦痛よりも精神的苦痛の回避を最優先したらしい。
「うん、なのはさん いつも『油断している方が悪いんだよ』って言ってるしね ……でも 私達、雨に打たれても大の字で動く余裕すらないよ?
 ……普通なら、なんとか歩ける程度には動けるのにね」
 こっち(スバル)はボコボコにされながらも『なのはさんって凄い』と頬を赤らめ傾倒中……
「だって!! 手加減されるよりも無意識の方が遙かに強いだなんて…… どんだけ達人なのよ あの人は!!」
「いつもは絶妙に手加減されてみたい。 生かさす殺さずってヤツ?
 ……あ、デバイスもボロボロ、シャーリーさんに修理してもらわなきゃ」

 自分達から申し出た なのはとの模擬戦で完膚無きまでにボロボロにされ、いまだに一歩も動けない2名の少女の姿が そこにあった。
 それは夜勤明け、しかも何故か目元に隈まで浮かび疲労困憊の『なのはさん』。 この状態ならば、今の自分達でも良い勝負が出来るのではないかと思い、望んだ一戦。
 請われるまま半ば無意識に戦いに望み、棒立ちで力無く垂れ下がる なのはの両腕。 そんな状況にも関わらず2人は、油断することなく最速、最大の攻撃を最高のコンビネーションで打ち込んだ。

 けれど、現実は、エースオブエース、白い悪魔はそんなにも甘いモノではなかった……

 予備動作さえ消した無駄のない攻撃。 読めない攻撃の軌道。 バリアジャケットを徹し貫いてくる容赦のない必殺の一撃。
 表情1つ変えない その攻撃は2人にほとんど何もさせないまま確実に戦力を削いでいく。 そして、数秒後には大地に見事なまでに無力化され、無様に沈む2人の姿があった。 それは予測の甘さ故、ある意味当然の事態だった。
 その結果として作り出された この状況…… 普段ならば、介抱してくれるはずの隊長は、自分達から少しばかり離れた場所で立てた片膝にもたれ掛かるように座りこみ、完全に気が抜けた状態でブツブツと呟いていて…… 怖すぎて声も掛けられない。

「「ぱぱぁぁぁーーーーッ!!!」」

 にも関わらず、この青空に響きわたるほど大きな声で『なのは』を呼ぶ声が聞こえてくる……
 果たして、この幼げで不安と憂いを含んだ2つの声は スバル、ティアの2人にとっても救いの声となるのだろうか?

「……ッ!? ルカ!! ルナ!!」
《Sonic Move》

 その声に弾かれたように顔をあげ……
 なのはの瞳が愛する2人の幼子の姿を映し出す。 その距離、約200M。
 それはまるで幼子達の声に導かれるよう、高速移動の魔法に加え、更には神速まで使用して 彼我の距離を詰めにかかる なのは。

 ゴォォォォォーーーーーッ!!!!!

 最速、最短で真っ直ぐに迷い無く突っ切る なのは
 物凄い轟音を立て、放出する魔力は大地さえも削り、容赦なく大きな傷をつけていく。
 そして、なのはと双子達に挟まれるような位置に大の字になっている スバル、ティアは……

「「ヒィヤァァァァァァーーーーッ!?」」
 当然のように巻き込まれる。
「で、でも、こんな容赦のない なのはさんも素敵ィィィィィーーーーッ!!」
「ア、アンタねぇ!! そのデレっぷりはちょっと異常よ!!」

 暴走特急なのはの直撃こそは受けなかったものの……
 その荒れ狂う嵐に巻き込まれ、人の身体がまるで木の葉のように舞い上がる。 そして、そのままクルクルと回転しつつ、ポチャンと海へと突入。
 怪我と疲労で動かない身体でのダイブ。 それはもしかしたら微妙に生命の危機だろうか?
 ……十中八九、六課の一員だから大丈夫だろうと判断されそうではある。

 されど、スバル、ティアを吹き飛ばしたという意識さえ無い なのは
 既に認識出来るのは ルカ、ルナの溢れそうな涙に決壊寸前の顔のみ

「ルカ! ルナ!」
「「ぱぱぁーーーッ!!」」

 なのはは精妙な魔力制御で加速と減速を行い、愛する我が子達である双子に全く悪影響を与えることなく、その直前にピタリと静止する。
 そのまま互いに涙を浮かべ、ガッシと抱きしめ会う親子3人。
 なのはは両腕で ルカ、ルナをまるごと包み込み、苦痛を感じさせない強さで強く胸に抱きしめる。 白いバリアジャケットの上着を握りしめながら胸に顔を埋める双子から溢れ落ちる涙が、なのはの胸もとを濡らしていく。

 なのはに抱きしめられ、宙に浮いた ルカ、ルナの足先がパタパタと揺れ続けている

「……ごめんちゃい」「ぉめんちゃい!」
「きらい うしょ(嘘)らお!! ……ほんろ(本当) 好きなの!!」
「ぱぱぁ…… ルカと ルナ、きりゃい(嫌い)ににゃらないでぉ」
「ルカ、頑張るきゃら…… ぐしゅ、たべりゅ(食べる)の頑張るきゃら…… えぐッ きりゃい(嫌い)になっちゃ…… やぁーッ!!」

 しばしの抱擁後、突然 ルカ、ルナは涙に滲む、赤く泣きはらした顔をガバリと上げ なのはを見つめる。 そして、双子特有の、謀ったかのようなタイミングで同時に謝り…… なのはの首筋にへと3歳児の持てる力全てを使い、強く抱きついてくる。
 嗚咽混じりに『嫌いにならないで』と繰り返し縋り付く双子の姿が健気で可愛らしく…… けれど、それ以上に痛々しい。

「泣かないで…… 大丈夫だよ。 嫌ったりするはずない…… 私も ルカ、ルナが大大大好きだよ」
「「ぐしゅ ……ほんろ?」」

 『大・大・大好き』という言葉と、親としての愛情を込めた精一杯の微笑み。
 その言葉と行為と共に なのはが片膝をついて屈み、双子の足を大地へと落ち着かせる。 その上で嗚咽を繰り返す2つの小さな背中を優しくさすり、ルカ、ルナの頭をポンポンと触れるように軽く叩き、撫でる。
 潤んだ紅と碧の2対の瞳。 涙の跡の残る晴れッぼったいほっぺ。 なのはの服を握りしめながらも震える全身。 そして、抑えきれない不安を嗚咽としながら、こみ上げてくる幼さ故に理解不能な恐怖に怯える ルカ、ルナ。
 幼い ルカ、ルナは なのはを求める。
 言葉ではない。 暖かい何かを……

「私が2人に嘘を言ったことがあるのかな?」
「……ないお」「……にゃいお」

 なのはの体温を、子供特有の高い体温を、互いのぬくもりを見失わないように決して離さない。
 真面目で真摯な…… 見る者全てが見惚れてしまうような凛々しい表情で なのはは ルカ、ルナを見つめる。 目と目を合わせ、言葉だけじゃない何かを伝えたいと願う。
 幼くあどけない2対の瞳が、なのはへと魅せられ惹き付けられていく。

「うん、そうだよね。
 だからそんなに泣かないで…… 2人は笑って欲しいな。 だって、ルカと ルナの笑顔を見ると 私はとっても元気になるんだよ」
 なのはの指先が、ルカ、ルナの目尻に溜まった涙の雫を拭いさる。
「えへへ……」「にゃう……」
「やっと…… 笑ってくれたね」

 ルカ、ルナの不安を残した表情が崩れ落ち、恥ずかしげに、照れたように微笑む。 その、いまだに涙に濡れた幼い微笑みが なのはの本当の微笑みも誘う。 それは心から沸き上がってくる幸せが形作った表情、心と心が繋がり合った喜び。
 なのはと ルカの心がすれ違って約14時間余り……
 長い、本当に長い(なのは私感で)葛藤を経て、ついに、ようやく和解へと至る。

「ミッション・コンプリート」

 プレシアが呟く…… 当然、手にしているのは『REC』の赤ランプが点灯するビデオカメラ。
 日々進歩を続ける最新機器が、抱擁し、額やらほっぺたやらにチュッチュとキスしあう親子の微笑ましい光景を、その至高の時を余すとこなく鮮明に捉える。
 予備のビデオ、バッテリーともに充分、強力な応援も要請済み(ファンクラブ及び、あの人とか あの人)…… 更には、既に独断で この後の なのは、フェイトに有給をぶんどり家族の時間もキープ。
 出来る女 プレシア・テスタロッサの本領発揮である。
 それが自身の趣味にのみ200%以上の力が注ぎ込まれるのが著しく問題ではあるけど……

 そうして、なのは・親ばか伝説に新たな1ページが加えられる

 そんでもって海上
 プカプカと浮かんだ人型の影が2つ
 今回、いまいち扱いが悪かったお二人

「ねぇ、ティア 私達…… 初出から、あんまり扱い良くないよね」
「それは このSS書いてるヤツが、まだDVD2巻までしか見ていないからよ……」
「DVD3巻は発売日当日に買ったみたいだけど…… これ書いてから見るのかな?」
「全く!! とっととDVD見て、もっと 私達の活躍も書きなさいよ!!」
「……あのさ、ティア? 3巻の8話で白い悪魔様降臨で ティア半殺しじゃなかったっけ?」
「で、出番を取るか…… 平穏をとる……か?」

 これを投稿したら襟を正して3巻を見させて頂きます…… はい

【せってー】<今回登場した子供達が全員オリキャラなので、整理の意味も込めて紹介
『高町 はるか』(愛称は『ルカ』)
 なのは×フェイトの娘で現在3歳。 未熟児として生まれ、1年近く入院していたため平均的な3歳児よりもだいぶ小さく、食も細い。
 性格は活発だけど甘えん坊で少々我が儘。 容姿はミニ・フェイト…… というより、性格的なものも考えれば、むしろミニ・アリシア。

『高町 はるな』(愛称は『ルナ』)
 なのは×フェイトの息子で現在3歳。 僅かな時間差で一応は ルカの弟になる。
 生まれから入退院までの経緯は ルカと同様のため、やっぱり身体が小さく、小食。
 性格は引っ込み思案で ルカ以上に甘えん坊。 末っ子の立場にいて、更に周りも過保護なため、かなりの泣き虫になってしまったけれど優しい子。 容姿はミニ・なのは…… 性別まで自分と同じにならなくても良いのに…… と、なのはを嘆かせるほどそっくり。

『ブラックサン』『シャドームーン』<ルナ、ルカのデバイス
 祖母プレシアにより開発、制作された赤と緑の宝玉をペンダントに加工した2つのインテリジェンスデバイス。 材質やら、技術やら…… 色々と最高級・最先端のモノが使用され、滅茶苦茶高価なモノに仕上がってしまったデバイスである。
 常に持ち主の体調をチェックし、蓄積された魔力により自動ヒーリングやオートプロテクション。 免疫関係の強化等を行う。 この機能により、強すぎる魔力から幼い双子を護り、また弱く小さな身体に活力を与えている。
 デバイス、及びバリアジャケット展開時は、両親に対する潜在的な憧れがあるためか、ルナは なのはに、ルカは フェイトに そっくりなデバイスとジャケットを展開する……予定。
 その違いは ルナが黒を基調、ルカが白を基調としているためイメージとしては黒なのは、白フェイト。
 更にバリアジャケットには プレシア補正が掛かっているため、通常のバリアジャケットの上に白(ルカ用)と黒(ルナ用)ゴスロリドレスを展開し、過負荷な魔力放出量抑制による攻撃力の低下(それでもAクラス近い力があったりする)、及び重量増による速力低下と引き替えに、鉄壁と言える防御力を得ている。

『高町 聖夜』
 なのは×すずかの娘。 一応12月25日生まれの4歳児ってことで……(あ、双子の方は決めてないや)
 性格はおしとやかで、4歳児とは思えない大人っぷり。 容姿はやっぱりミニ・すずか。
 妹弟が絡むと母親から受け継いだ夜の一族の力を躊躇い無く駆使するほどブラック化するけど、基本は落ち着いたお姉さん1号。

『高町 いぶき』
 なのは×はやての娘。 新年、1月2日生まれの4歳児。
 性格は明るく朗らか。 母親から受け継いだ関西弁を駆使する やっぱり容姿はミニ・はやて。
 妹弟には劣るが、両親の魔法資質をしっかりと受け継いだ魔法幼女なお姉さん2号。 やっぱり妹弟が絡むとにこやかにブラック化する謀略家。

『高町 アリス』
 なのは×アリサの娘。 1月5日生まれの4歳児。
 性格は勝ち気で積極的、負けず嫌い。 母親譲りの賢さを持つ、3人娘で一番下ながら、他の2人を引っ張る役割のミニ・アリサな幼女。
 一応魔法資質有り、最近、御神流を習い始めた魔法剣士なお姉さん3号で妹弟にはデレデレ……

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小ネタ⑤

注意事項
 本作は「館長」さんの「創作天文台」にて掲載中の「魔法少年ロジカルなのは」のパロディ(三次創作)です。
 館長さんや原作者様から、怒られたら……多分、すぐに更地になります。
 本作は「魔法少年ロジカルなのは6-4」からの強制分岐です。
 なお、桃子さんが理不尽なまでに最強で、プレシアさんは原作、及びロジカルとは逆方向に壊れております。
 以上の事に注意して、納得した上で読んで下さると嬉しいです。

 小ネタ⑤

 時空世界全てを管理しうる強大な魔法の力。 その魔法を扱う魔導士一般に最も普及しているミッドチルダ式魔法発祥の地。
 時空管理局の運営に強い影響力を持つ中枢世界であるミッドチルダ。 その中央区画にある首都クラナガン。
 そして、首都最大の総合病院であり、優れた魔導技術の粋を集めた設備の整う その病院内で女性のような高い調子の声が響く。

「フェイトちゃん!!」

 それはほとんど悲鳴に近い叫び
 その声の主が心に抱える焦りと動揺をそのまま表すかのように乱暴な動作でドアが開かれる。
 ガチャリと大きな音を立てて大きく全開まで開かれた扉の向こう側から息を切らせ肩を大きく上下させているのは、栗色の長髪をサイドポニーにまとめ、白を基調に青色のラインが組み込まれた教導隊の制服を身に纏った女性にしか見えない人物。
 XY染色体を持ち、生物学上は一応『雄』に分類されながらも、見る者の十人中十人が女性だと言い切る その人物の名前は『高町 なのは』、今年で16歳となる時空管理局の教導隊員。
 魔導ランク、オーバーS。 その積み上げられた実績と底知れない実力により『エースオブエース』、『管理局の白い悪魔』と次元世界全土に怖れられながらも、『悪魔でいいよ。 名声だろうが、悪名だろうが、それで敵が萎縮して実力を削げるなら 私は悪魔でも構わない』と冷笑し、冷徹なまでに言い切った剛の者。
 過去のトラウマを乗り越え、更に悪魔超人、悪魔騎士を超え、悪魔将軍として完成されつつある恐怖と暴力の魔王(あくまで噂話です)。 それ程の人物が今、目の前の光景に焦り、動揺、不安を露わにしている。

「その…… 遅れてごめん」

 自身の前に居る人物を見つめ、そして、その人物の背中に隠れているであろう状況を思い、ごくりと大きく喉を鳴らす。 そうすることで なのはは、ここまで来るまでに乱れに乱れた鼓動と呼吸を無理矢理呑み込み、努めて冷静さを装う。
 喧噪を呑み込む深い夜の闇が、なのはの声によって乱れ、その静寂を失い声を掛けられた人物がピクリと肩を震わせ反応を示す。
 なのはは その様子をジッと見つめながらも掛けるべき言葉を見いだせず立ちつくすことしか出来ずにいる。
 自身が属する組織の上下の地位に者達からさえ、冷静沈着・大胆不敵・破壊大帝と称される なのは。 その胸を ここまで乱し高鳴らせる存在。 それは彼の見つめる先、椅子に腰かけ背中を見せている長い金髪の薄いピンク色の患者服で身を覆った女性。
 暗闇を機械的に照らし出す照明の輝きが、彼女の腰まで届く金髪を幻想的に照らし、僅かな身じろぎに合わせ、まるで星空のように煌めく。

「赤ちゃん、小さいよね? 未熟児なんだ……
 2人合わせても3000g無い…… 予定日より2ヶ月近くも早くなったんだ」

 俯き、淡々とした調子で自身の青いスリッパのつま先を見つめながら話す その女性の名前は『フェイト・T・高町』。
 なのはが9歳の頃に出会い、そしてお互いに様々な障害を乗り越え、今は愛する奥様達の1人。
 フェイトが見つめる先には透明で卵形の保育器に入れられた2人の赤子。
 なのは、フェイトによって『はるか』、『はるな』という名前を贈られた金色と栗色の髪を持った小さく、か弱い赤子だった。
 未熟児として生まれた赤子達は保育器により、様々な細菌が溢れる外部から切り離し環境を整えて貰わなければすぐに体調を崩してしまう。 その上、よく見れば その繊細で傷つきやすい肌は軽く赤らみ、呼吸も少しばかり荒い。 更に、その赤子達の小さな身体に、細い腕には、数え切れない程たくさんの管が付けられ、室内を埋め尽くす計器類へと接続されている。
 計器達は様々な数値を刻み、赤子達の状態を監視し状況によっては生命維持に必要な処置を施す。 未熟児達の体調を正常な状態へと管理している。
 この赤子達は その機械の補助無しでは その儚い命を支えることさえ出来ない。 つまり、ここから満足に出て、太陽の眩しさや風の香りを感じることさえ適わない状況。

「私が アリシアのクローンだから、子供にも影響が出るかもしれないって分かってた…… 分かってたんだ」

 なのはの視線を背中に受けながら、フェイトは独白するかのように話を続ける。
 否、それは正しく独白だったのかもしれない。
 かつて、母親である プレシアから聞かされていた事実。 それは自分達から生まれてくる子供に何らかの障害が現れる可能性。 それらが今、自分達の子供達に虚弱体質と免疫関係の弱さという形で その影響が現れている。

「でも…… でもね、私は それでも なのはとの子供が欲しいって思ったんだよ。 この子達に会いたい、この子達にそばにいて欲しい、この子達の成長を見つめたいって……思ったんだ」

 フェイトの右手が僅かに震えながらも優しく保育器に、『高町 はるか』、『高町 はるな』と書き込まれたネームプレイトへと触れ、とても貴重で大切なモノを、壊れ物を扱うように撫で続ける。
 その胸にある想いを自分に、なのはに言い聞かせるように、更に深く刻み込むように声に出して続ける……

「2人とも、私と なのはの子供だから…… その資質を確かに受け継いで強い魔力を持ってるんだ」
 ググっと フェイトの白魚のように白く細い指先が震え、力が篭められる。
「……そして、その強すぎる魔力が2人の弱い身体を蝕んでる」
「ッ!?」

 その感情を奥底へと押し込めたような平坦な言葉に なのはが大きく息を呑み込む。
 なのはの脳裏に、ここへ向かう最中で はるか、はるなの主治医の手伝いをし、より詳しく状況を理解している シャマルから聞かされた言葉が、その時の激しい動揺と共に蘇る。
 一般的な赤子と比べてさえ未熟で弱い身体は、機械の補助が無ければ上手く魔力を循環処理出来ずに体内に留まり蓄積され続ける。 そして、それが更なる負荷となり身体を傷つけ弱らせていく。
 この子達の身体が成長し魔力の負荷に耐えられるようになるまで、身体の成長が魔力の増大を上回るまで その苦しみを、辛さを、唯、見つめていることしか出来ない無力な自分、子供を守るべき親であるはずの 自分達。

「私達の大切な子達なのに、ぬくもりを感じられないのは寂しいね……
 私、親なのに、ママなのに、それなのに子供に触れてあげられない、私の手では護ってあげられないのも、悲しいね……」

 保育器の上から、フェイトは精一杯に2人の赤子を撫で続ける。
 僅か十数センチに過ぎない その距離が、フェイトと それを見つめ続ける なのはにはひどく遠く感じられ、その切なさに なのはは唇を強く噛み締め拳を握り込む。

「フェイトちゃん……」
「私、不安……なのかな?」

 無機質な医療機器の敷き詰められた病室がひどく肌寒く感じるからだろうか?
 発せられた なのはの声に、フェイトの肩がピクンと反応を見せ、その言葉が震えて揺れる。
 心に叩きつけられた衝撃で棒立ちになった足を強引に動かし一歩、また一歩と足を前に出す。 せめて、フェイトとの物理的な距離だけでも詰めようと、なのはが前に出る。
 精一杯の強がりで奥底に押しとどめ、強引に封印していたモノが、なのはの声によって揺らいでいく。 それが なのはに対する信頼なのか、甘えなのかは分からない。 けれど、なのはの存在は確実に フェイトの心の壁を取り去り、突き崩していく。

「私のお腹の中に ルカ、ルナがいるって分かった あの時…… みんなが笑顔だった。 私も言葉じゃ言い切れない、たまらないほど嬉しかった。 だから、私は、私の全身全霊で2人を愛そうって…… 自分自身に誓ったんだ。 誓ったはずだったんだ」

 見た目以上に弱々しく感じる肩に、疲れの滲み出る背中が震え、緊張が走る。 なのはからは見えない位置で、フェイトの手が強く握りしめられている。

「2人が 私の所に生まれて来てくれたのは嬉しい。 本当に嬉しい。 それが、この先どんなに辛いことがあったとしても、私は幸せだ。 それだけは はっきり言える。 絶対、誰にも何にも否定はさせない。
 ……けど、その想いも、この子達からしてみたら それは迷惑なのことなのかな?」

 それは無意識のうちに心の奥深くまで蝕み始めた不安。

「私達の、ううん、違う。 私の元に生まれて来なかったなら、もっと健康な身体で、強い魔力もない、この上なく平凡な存在で、こんな風に辛いことも、苦しいことも背負わなくても良かったんじゃないかな……
 この子達は幸せなの……かな? 私は『そんな風に言わないで!!』……なのは?」

 なのはが後ろから フェイトを強く、胸と背中が一分の隙もなく密着するほど抱きしめる。
 その発せられた言葉以上に背中から感じる なのはのぬくもりが、フェイトの自虐的な言葉を切り払う。 その冷え切った背中に、トクントクンと胸の熱い鼓動が伝わっていく。
 無言で互いの鼓動を感じ合い そのぬくもりを伝え共有しあう。

「名前…… 2人の名前を呼んであげて」
「名前、を?」
「本当に強い『想い』の篭もった心からの言葉は、ただそれだけで誰かに、何かに負けない勇気を、強く生きる力を与えてくれる魔法だから……
 だから、この子達に それが届くまで何度だって呼んであげよう?
 私達が、大切なこの子達のためだけに贈った、私達の愛するこの子達だけの名前を」

 なのはが両腕に力を込め、強く強く、けれど優しく フェイトを包み抱きしめる。 そのぬくもりで心にある『不安』を融かすために
 なのはが精一杯の想いを込めて フェイトへの言葉を紡ぐ。 それが フェイトも赤子達も救うのだと頑ななまでに信じて

「あぁ……」

 フェイトの心から何かが込み上がり、吐息となって溢れ出す。
 なのはの言葉が、フェイトの中にある大切なモノを刺激し押し出そうとする。

「そうだね…… そうだったよね。 私にも、出来ることがあったんだよね。 そうやって母さんとも少しづつ溝を埋めてきたはずのに、私はどうして忘れてしまってたんだろう……」
 フェイトの赤い瞳から本人にさえ無意識のうちに、スゥーっと一筋、涙がこぼれ落ちる。
「……フェイトちゃんは忘れてた訳じゃないと思うよ。 ただ、ちょっとだけ弱気に、ほんの少しだけ余裕を無くしちゃっていただけだよ」
 なのはは微笑み、左手で優しく丁寧に フェイトの金髪を梳き撫でる。

 俯き、自分の子供を見つめることもさえ出来なかった フェイトの言葉が僅かに熱を帯び始める。
 右手を保育器に添えたまま、左手を後ろから抱きしめている なのはの両腕へと触れ、その存在を確かめるかのように強く握りしめる。 フェイト自身の想いだけでなく、なのはの想いも受け取ろうと その両腕を胸に抱きしめる。

「えと、ルカ……ルナ…… 私、ママだよ。
 ……ありがとう 私の、私達の所に来てくれて本当にありがとう。 大好き、大好きなんだ、大好きだよ…… 愛してる」

 フェイトの頬が赤色く、うっすらと染まる。
 普段の、執務官としての彼女を知る者達には信じられないほど、辿々しく、不器用に フェイトは自分の愛する子供へと言葉を贈る。 真っ直ぐに見つめ、ぎこちなくも笑顔を浮かべながらも言葉を贈る。
 赤子達は言葉を話せない。 例え、それを聞いたとしても その意味を正しく理解することが出来ない。 けれど、それでも フェイトは言葉を紡ぎ続ける。
 言葉ではなく、そこに込めた想いを伝えるために

「「ッ!?」」

 目の前で起こった現実に、なのはと フェイトが全く同時に息を飲み、目を見開く。 その見つめる先にあるのは2人の赤子。
 眠りについていたはずの ルカ、ルナがまん丸い赤と碧の目を大きく開き、なのは、フェイトをジッと見つめていることに気付いたから
 乏しい体力の消耗に疲労し赤らんだ肌、弱々しくも確かな呼吸に揺れる小さな身体。 そのか弱い命は、だけど、それでも自分達の両親を その視界に捉え……

 微笑んだ

「「あぁ……」」

 両者から、おもわず溜息のような声が漏れる。
 初めて見る双子の消えそうなほど儚い微笑みが、水に浸した角砂糖のように簡単に、あまりにあっさりと、それまで胸の奥底に淀み、こびり付いていた不安を融かしていくのを感じる。
 生まれて間もない赤子に言葉は理解出来ず、意味ある声を発することもない。 そして、一般的と言える赤子より更に非力でか細い その小さな身体、小さな手には感情を外に出すだけの余力さえない。 けれど、それでも無垢な2対の瞳は なのは、フェイトを見つめ、その唇にうっすらとした微笑みを見せてくれている。
 その微笑みが フェイトの言葉に応えてくれたものなのかは分からない。 だけど、既にそんなことは関係なかった。
 自分達の愛する子供達が自分達を見つめ微笑んでくれた。 それだけでもう、なのはと フェイトには充分であった。

 だから

「「ありがとう」」

 その想いを言葉に変える。
 心からの微笑みと、とびきりの笑顔とに、めい一杯の『ありがとう』の想いをめいいっぱい込めて。

 フェイトの心を覆っていた不安が、なのはと その子供達によって切り払われたのと同時刻。
 その病室から少しばかり離れた一室で、その光景を見守る3人がいた。
 1人は、明るく輝く金髪を肩口に切りそろえた勝ち気そうな女性、『アリサ・V・高町』。
 1人は、流れるように艶やかな黒髪を腰まで伸ばしヘアバンドをつけた優しい微笑みを絶やさない女性、『高町 すずか』。
 1人は、毛先まで手入れの行き届いた繊細で滑るような栗色の髪を肩辺りまで伸ばした どこかほんわかした雰囲気をもった女性、『高町 はやて』。
 それぞれの左手薬指に輝く銀色の指輪。 そして、なのはと同じ『高町』の姓を持つ彼女ら3人は、フェイトと同様に なのはの奥さん達であった。
 彼女らは、大切な親友である フェイトを、愛する旦那様に任せながらも監視体制の整った この部屋で2人と2人の赤子達の様子をずっと見守り続けていたのだ。
 部屋の一角を占拠する多数の監視モニタ。 その様々な角度から映し出される なのは達の映像。 それは、赤子達の入院する部屋がどれだけ設備が整っているのかを伺わせる。
 一言に国賓クラスの対応だろう。 そして、費用はともかく それだけのコネを持った人物…… 言うまでもなく孫のため『だけ』に動いた人物達であるのは言うまでもない。

 彼女ら3人は その部屋を一時的に占拠しているのだ。

「……ふぅ フェイトちゃんもなんとか立ち直れそうだね。 これも旦那様の愛の力かな」
「そうやねぇ、本当に良かったわ。 せやけど、今回は フェイトちゃんが良いとこどりやね」
「世話が焼けるわね!! フェイトってば、相変わらず頑固な部分があるんだから……」

 視線だけはモニタに釘付けのまま、安堵(ほへぇ)、微笑み(ホンワカ)、怒り(というかプンスカ)といった三者三様の対応を見せる奥様達。
 けれど、そこに同じようにあるのは フェイトが明るい微笑みを取り戻したことによる喜び。

「まあまあ アリサちゃん。 フェイトちゃんも、私達を信頼していないわけじゃない。 だけど、女の子同士だから話せないってこともあると思うよ?」
「私達の子供はみんな元気やから…… そのことを相談するのは気が引けたんやろうなぁ」
 それは彼女らが知り合って既に何度も見られてきた光景。
 憤る アリサを、他の2人がやんわりとなだめる。
「……分かってるわよ。 けど、やっぱり 私は気に入らない。 納得出来ないのわ
 だってそうでしょ? 私達自身の娘達も含めて、フェイトは 私達の娘の母親だし、あの子達の母親も フェイトだけじゃない…… 私達もでしょ!」

 2人の言葉は アリサの頭を確実に冷却していく、けれど理性では理解出来ても、もっと深い部分が、本能が納得出来ない。 それは アリサが フェイト、はやてのように魔力を持たず、すずかのように異端の血筋でもない。 つまりは、夫である なのは自身も含め、周りが異端である中、唯一 アリサだけが一般人の域を出ないが故に、彼女は阻害されることに敏感なのだ。
 フェイトの行為に言葉と態度で怒りを示しながらも、その瞳は安堵と喜びで零れそうになる涙で潤んでいる。 それは アリサの持つ未知の『恐れ』であると同時に差別や排斥を嫌う『優しさ』の根元だった。

「「そうだね(やね)」」

 アリサの目尻に溜まる涙に気付きながら、あえてスルーする すずか、はやても同時に微笑み、そして想う。
 その『弱さ』と『優しさ』を同様に孕んだ、儚くも強く輝く その想いを大切にしたいと感じている。
 最も、2人が それを口にしても アリサは目にゴミが入っただけだと言い張ることは間違いないのだろうが……

「ここにこれだけ あの子達を想う母親がいて、お姉ちゃん達までいるのに…… それなのに幸せになれないはずがないじゃない。 万に一つでも不幸になんてなるはずがないじゃない。 それなのに、フェイトは1人で必要以上に背負い込んじゃうし……」
 モニタの向こう側にいる4人に、ここにいる2人に、そして自分自身にまでも、宣言する。 自分達は『不幸』になんてならない。 必ず『幸せ』になるのだと宣言する。

「同意や。 まあこれからは フェイトちゃんの教育も子供共々、母親先輩の 私達が一緒に見てやろか」
「そうだね はやてちゃん。 私達、出産・育児の先輩だから、その辺を フェイトちゃんにもきっちり指導してあげようよ」

 アリサの宣言を、すずか、はやてもまた笑顔で受け入れる。
 しかし、その笑顔は口元が少しばかり緩み、その発言にも何だか妖しい妄想が……

「……あの、はやて 私達の育児は フェイトも一緒にやってたから、先輩後輩はあんまり関係ないんじゃぁ?」
「気分の問題やよ!!」
「あー はいはい。 ついでに心構えも1から教えてあげましょうね」
 握り拳まで作って熱血に主張し始める はやてに、アリサもまた、これまでの経験と本能が訴えてくる何かに従い、この話題を終わらせることを即決する。
「そうだよー ふふ みんなで幸せになろうね」

 すずかの妙に印象に残る笑顔を最後に、この話題を終了しようとした その時

『ツゥルルルルル ツゥルルルルル ツゥルルルルル』

 3人のいる室内に電話の着信音が響きわたる。 それはナースコール等の内部からのモノではなく、外部から掛けられた電話。

「電話? 2人とも、ちょうごめん。 ん、クロノ君からや…… はい、もしもし?
 なんや? 応援に来て欲しい? せやけど今は…… はい? プレシア主任が暴れているやて?」

 その場を代表し電話を取った はやてだったが、聞こえてくる声を苦痛に感じるほど、あまりに大きすぎたためが受話器を耳から離し、即刻でスピーカボタンをプッシュする。
 恐るべきことに(?)、電話のディスプレイに『シスコン提督』という通知がディスプレイに表示されるあたり…… この総合病院も既に あの人達の管理下にあるのかもしれない。

[今、へレットと ザフィーラが取り押さえようと…… だ、駄目か!?]
「クロノ君、落ち着いて事情話してぇな……」
[いや、だから!! フェイトの子供の状況を聞いて、急にアルハザードに旅立つって!!
 ちょっ!? プレシアさん!! そのドラム缶にしか見えない物体は…… って、これで逝く気ですかぁッ!?]
「あー クロノ君?」
[え、ええ!! な、なんで ここにジュエルシード全21個が!?
 はいッ!? こんなこともあろうかとオリジナルを解析して複製済み? 一体何時の間に!?]
「なんや…… あっちは凄いことになっとるみたいやー」
[待て! 待って下さい!! ちょ!! お願いしますから!! こんな場所に無理矢理虚数空間発生させないでくれ!!
 わっ なんだッ!! どうして突然 ザフィーラが口から泡を!? どわッ!! へレットが虚数空間に吸い込まれて……]
「私達とは違う方向で…… 愛が溢れてるよね」
「まあ…… プレシアさんだし」
[と、とにかく!! 早く応援に来てくれ!! 既に大惨事だけど、世界の終末まで招くわけにはいかないんだ!!]
「クロノ君…… 骨は拾ってあげるわ」
[み、見捨てる気かぁぁぁぁーーーッ!!!!]
「避けられない被害なら…… 最小限に治めなきゃならへんし、プレシアさんなら程々で治まるやない? これが 桃子さんやと全力全開でいきそうやけど……」
「流石 はやてちゃんだね。 常に最悪を想定出来るなんて」
[僕は既に過去の人っていうのかぁぁぁぁーーーーッ!!!!]
「クロノ 切羽詰まって、既に人格崩壊し始めてわね……」

 ガチャリ……

 はやては無情にも電話を切る。
 そして大きく息を吸い、そのまま1つ溜息を付き アリサ、すずかを見回す。 当然のように2人とも困ったような、呆れたような顔をして はやてを見つめ返している。
 お互いに無言で見つめ合いながら、何とか先程の電話を無かったことに出来ないかを考え…… 無駄なことだと瞬時に気付き、すぐに諦める。
 そして、嫌々…… 本当に、嫌々 クロノ救援(名目上は)のために動き始める。
 フェイトの義兄という以上に、提督という地位にある彼に貸しを作っておくのは意味があるのだ。<はやて、やっぱり黒い

 無敵の孫馬鹿プレシア女史攻略の鍵……

 それは なのは、フェイト(+更に ルカ、ルナ追加)。
 アリサ、すずかの同情的な視線を受けつつ はやては、ちょっと嫌そうに決意を固め、他のヴォルケン組にも集合をかける。 そして自身は対プレシア装備確保のために重い足取りで部屋を出ていく。

 先天的に大きなハンデを背負って生まれてきた双子の男女、『高町 はるな』と『高町 はるか』。 けれど、2人は それ以上に大きく沢山の愛情に包まれて精一杯に生きていく。
 そして その後、アルハザード(らしき場所?)から奇跡の帰還を果たした プレシア・テスタロッサが持ち帰った赤と緑の宝玉の収められたペンダント型のインテリジェンスデバイス。
 赤の『ブラックサン』と、緑の『シャドームーン』。
 異次元世界のどこからか調達してきた希少価値の高い材質を用いた それは、所有者の過剰な魔力を吸収し免疫力の強化と疲労時にオートヒールや様々な障壁等、高度なプログラムがふんだんに組み込まれたスーパーデバイス(防御関係はほぼ完璧)。
 そのデバイスを身につけることにより、それまで入退院を繰り返し、ベッドから離れることが出来なかった病弱な ルカ、ルナに太陽の下、緑溢れる大地へと外出する元気を与えることになる。

 そして3年後……

「ルカも ルナも良い子でお留守番してるんだよ」
「「あい!!」」

 教導隊と執務官の制服に身を包んだ なのは、フェイトが、お揃いのピンクパジャマを来た ルカ、ルナの頭を撫でる。
 早朝に出勤しなければならない2人を、姉である 聖夜、いぶき、アリスの援助を受けて、頑張って早起きした ルカ、ルナ達5人が玄関先で見送っている。

「ぱぱぁー 行ってらっちゃいのちゅー!」「ちゅー!」
「ふふ 2人とも今日も元気だね」
 既に毎朝の日課となっている行為に、なのはが2人を抱きしめ その額に口づけし
「ままもぉーッ!」「ちゅー!」
「2人とも甘えん坊さんだね・・・ はいはい」
 フェイトも2人に頬ずりしてから、それぞれの柔らかほっぺに口づけする。 そして、他の3人娘達は少々甘えん坊な弟妹の手前、軽く抱きしめ会う程度で済ます。
「「ぱぱぁー ままぁー いってらっしゃぁい!!」」
 姉達に宥められながらも両手をブンブンと振り回す双子が、上機嫌な子犬の尻尾のように思え、なのはと フェイトは顔を見合わせ微笑み会う。

「「「「「いってらっしゃぁぁぁぁい!!!」」」」」

 父と母達、姉達、そして何より祖母達の過剰過ぎるほどの愛情に育まれ、少々(以上に?)甘えん坊に育ってしまいつつも……
 『高町 はるか』、『高町 はるな』。 2人とも、輝かしい今日を元気一杯、精一杯に生きてます。

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ロジカルなのはIF3話⑤ー4 その③

注意事項
 本作は「館長」さんの「創作天文台」にて掲載中の「魔法少年ロジカルなのは」のパロディ(三次創作)です。
 館長さんや原作者様から、怒られたら……多分、すぐに更地になります。
 本作は「魔法少年ロジカルなのは6-4」からの強制分岐です。
 なお、桃子さんが理不尽なまでに最強で、プレシアさんは原作、及びロジカルとは逆方向に壊れております。
 以上の事に注意して、納得した上で読んで下さると嬉しいです。

その③

 海鳴市にある公共施設の1つ。 その最も大きな図書館内の一角、その人気の無い片隅に3人の可愛らしい少女と2人の目を瞠るような女性が真剣な面もちで顔を付き合わせている。
 上からの太陽のギラギラとした照りつけと、それによって焼き付き熱せられたアスファルトからの熱が厳しい外とは別世界の楽園とも言える空調の良く効いた涼しい館内。 それ程の楽園内。 けれど、不思議なことに そこに彼女等以外の人が誰1人として存在しない。

 ここは海鳴市であって海鳴市ではなく、そこに存在する図書館であって図書館ではない。
 ここは切り取られ、隔絶された1つの独立した世界・・・
 主はやての命を受け、リインフォースによって作り出された結界内だった。

「シグナムからの報告も大方済んだことやし…… ほな、『第1回 なのはちゃん・サミット』、始めよか」

 緊張感に張り詰めた沈黙の中、始めた発せられた その言葉を、私は手渡された新品で真っ白なA4ノートと、同様に手渡された黒字のボールペンを用いてスラスラと記録していく。
 『なのは・サミット』と表紙に黒字で達筆に書き込まれた このノートに発言を記録していく書記としての役目を担うのは、主はやてから新たな名前を与えられた 私こと、

 強く支えるもの
 幸運の追い風
 祝福のエール
 リインフォース

 通称、『リイン』と呼ばれる八神家の一員である 私が その役目を担わせて頂く。

 今の私は、清潔感溢れる真っ白なブラウスに膝下辺りまでの長さを持つ紺のスカート、度の入っていない伊達眼鏡に長い銀髪をてっぺんで纏めたような、秘書、あるいは女教師っぽい格好を強制されている。 誰によって強制されているかは言うまでもなく分かることだろう。
 あっさりとバラしまうと、これについて既に主の趣向として9割以上は諦め受け入れる覚悟済みだ。 それが精神衛生上、最善の策と言えるだろう。 そして何より、私と同じく 主はやてから警備役に任命された 烈火の将が、固い決意と強い覚悟を以て その役目を引き受けた 烈火の将が、照り返しが激しすぎて安っぽくしか見えなくなった服装を……

(主はやて、流石に少しばかり趣味に走りすぎなのでは? ……負けるな 烈火の将)
 主はやてに対するツッコミと、烈火の将への心からの声援が交互する。

 ある職業を模した青い上下の制服が、そう『ミニスカ○リス』の格好を強制されていることに比べれば。 頬どころか、首筋までを羞恥で真っ赤に染めあげ、唇を噛み締め、フルフルと震え続けながらも健気に 主はやてから仰せつかった任務を果たそうとする健気な 烈火の将の姿を思えば、私はまだマシなのだと実感せざるを得ず、苦情を言う気もほとんど霧散してしまった。

「あのさ はやて、『サミット』って……」
「アリサちゃん。 私達にとって、ううん、この世で最も大切な、何より重大なことを話し合うんだよ? だったら『サミット』で良いんじゃないかな?」
 当然のように入るツッコミに 主はやては変わらない笑顔で受け答えを続けている。
「え、ええ…… そうね、そうよね。 今はもっと重要な問題があるわね」
 左右から怒濤の勢いで押し寄せる、思い切りの良い笑顔に アリサの意志は完全に押し切られる。

 私は 主はやて、そして、その友人達である アリサ、すずかの発言を その速度に負けない速さを以て次々と書き記していく。
 3人の会話は日常的なモノの延長のようで、まだ本題にも入っていないような気がするが それでも書き記して後で要らない部分を削除し推敲すれば良いのだろう。

「アリサちゃん、すずかちゃんの2人に理解して貰えて、ほんま嬉しいわ」
 今から繰り広げられるであろう『サミット』の意味を正確に理解されたことを感じ取り、主はやてがニッコリと相対する2人に微笑み掛ける。
「そんなの当然だよ はやてちゃん。 なのはちゃんも フェイトちゃんも 私の大切な友達だもん」
「それよ!! なんだって管理局内で、私達の全く知らない所で、そんなとこまで話が進んでいるのよ!!」
「そうだよね。 組織を挙げて結婚を後押しなんて…… そんな羨まし…… ううん、出来ることなら 私が代わ…… いえ、まだ9歳のお子さまには 少しばかり早いと 私も思うな」

 現状に激しく憤り、それを無理矢理押さえ込もうと拳を震わせる アリサと、冷静に、多少の妄想を孕み、少しばかり漏らしながらも、おそらく冷静な視線で現状を見抜き判断を下していく すずか。 その絶妙なやり取りを記録しながら、私は この2人は本当に良いコンビなのだと感じる。
 おそらく、心の深い部分でお互いを理解しあっているのだろう。 そして、私は彼女らの発言を記録しながらも、主はやてが そのような友人を持てた幸運に感謝の想いを抱かずにはいられなかった。

「2人の言い分はもっともやね。 せやけど、シグナムの話で聞くように フェイトちゃんの立場は複雑なんよ…… それを無視することもできへん」

 主はやての真摯な言葉が、真っ直ぐな想いが込められた瞳が アリサ、すずかの瞳を貫き、心へと浸透していく。 そしてそれは、それぞれの思考を平静へと戻していく。
 瞬間、場の雰囲気を一転され静寂を取り戻す。

「なのはちゃんも それを知っているから フェイトちゃんを止めようとして…… 戦うことを選んだんだね」
「馬鹿よ!! 馬鹿!! 大馬鹿者よッ!! 嫌われるのが誰よりも怖いくせに、1人でいるのが怖くて仕方がない程臆病なのに そんなことまでして…… そのくせ、フェイトのためじゃなくて、自分のためなんだって言い張るなんて…… ホント 馬鹿よ」

 2人の瞳が涙に潤み、光を受け煌めく。 ここには居ない2人の友人を想い、悲しみ、怒る。 自分ではない誰かのために、辛い、苦しいと言おうともしないほど強く、けれど それ故に脆さを持った大切な大切な友人達のために、アリサも すずかも、悲しみ、怒る。 それが多分、2人の優しさの形。 思いやりの在り方なのだろう。

「でもそれが なのはちゃんだからね」
「そうや。 せやけど、本当の問題は これから 私達がどうするかやと思うわ」

 心の奥底に溜まりに溜まった感情を、溢れる想いのまま吐き出した結果、心にぽっかりと空いた空虚と 動かし続けた口の疲労感から周囲に沈黙が訪れる。
 嵐のような節くれ立った荒々しい感情は激情と共に駆け抜け、静けさだけが重く圧し掛かってくる。

「なのはちゃんもそうやけど、私達だって、フェイトちゃんが傷つくのを黙って見ていられへん」
「当然よ」
「うん、大切な友達だもんね」

 感情のまま思い思いに吐き出された言葉の数々
 そこにあったのは揺るがない『決意』
 その心に宿っているのは気高い『覚悟』
 それは その歳の少女には場違いな程 強い想いで、お互いに見つめ頷きあう。

 少女達は 今、自分の置かれた状況を正しく理解し、そして前に進むために自分達に出来ることを探し始める。

「次に なのはちゃんの取る行動は…… フェイトちゃんに付いていくかもしれへんな」
 なのはの性格を その胸に想い浮かべながら、主はやてが議長(本人主観)として最初に言葉を次へとつないでいく。
「充分にあり得るよね。 これまでの戦いの、ジュエルシード争奪戦の反動で なのはちゃんは フェイトちゃんに対して少しばかり過保護だしね」
「フェイトだって、今まで辛くて苦しくて、それでもやっと掴んだ日常なのに…… 何で 何で そんなにも急ぐのよ?」

 すずかが深い溜息とともに 主はやての発言を認め、アリサは唸るように呟き、唇を噛み締める。
 どうにもならない程、頑強に自分達の願いを遮る現実の壁に、そして、確実に その一因を担っているであろう あまりにもせっかちで融通の利かない友人達に溜息は止まらず、心配の種が尽きないようだ。
 けれど、私から見れば なのはが フェイトに過保護であるように、主はやてを含む彼女ら3人もまた、2人に対して充分過保護だと言い切れる。
 そう思えてしまうのは3人が3人とも恋する乙女(約1名は自覚無し)だからなのだろうか?
 まあ 実際には、先の戦闘だけとってみても、充分過ぎるほど2人は無茶をし、共にベッドから離れられないような怪我をしたと聞いているが故に、その心配も分からなくはないのだが。

「……ごめんな」

 主はやての声が会話の流れを遮る。
 ポツリと囁かれたような小さな言葉が、これほどの威力と迫力を以て迫るのは、そこに込められた後悔と懺悔の想いゆえだろうか?
 だとしたら、それは主を護るべき守護騎士として恥じるべきことだ。
 否、それは守護騎士としての義務ではない。
 気の遠くなるほど長い年月を流され続けた 私達に安らぎの時(想い人・なのはが絡まない時限定)を与えてくれた 主はやてに そのような表情をさせるのは 私達の本意ではないのだから。

「「はやて(ちゃん)」」

 気遣うモノ、困惑するモノ、その場にある全ての視線が 主はやてに集中する。
「私のせいでもあるんよ…… フェイトちゃんが急に管理局入りしたい考えたのは、闇の書を持つ 私を助けるためでもあるんよ」
 後悔の念に後押しされ、懺悔の言葉が吹き出す。

「はい ストップ!! そこまでッ!!」

 張りのある大きな、強い意志の込められた声が、主はやての独白を遮る。
 ポツリポツリと垂れ落ちるような言葉を止めようと、アリサが両手で 主はやての両肩を強引なまでの動作でガッチリと掴み、瞳と瞳を合わせるように顔をすぐ側まで近づける。

「な、なんや?」
 その強引な動作に 主はやてが俯き気味だった顔を上げる。 アリサを見つめ返す眼が大きく見開かれ、その瞳孔が相手の顔を収める。
「私は はやての言い訳や謝罪の言葉を聞きたい訳じゃない。
 ましてや、私も 多分、フェイトもそう、誰も現状を はやてのせいだなんて思ってないし、そのことを はやてのせいにするつもりもないわ」

 アリサはゆっくりと噛み締めるように一言一言をはっきりと伝えてくる。
 主はやてに対してだけでなく、私や 烈火の将、すずか、そして アリサ自身に対しても
 その意志を伝えるため、その意志を確認するため、その意志を自分自身の外世界へと伝えるため、アリサは 自分の心にある他人からは見ることの出来ないモノを、自身にさせ曖昧かもしれないモノを、言葉という明確な形へと変質させる。

「分かっとるよ…… なのはちゃん、フェイトちゃんが、そんな風に思ったりせえへんことは分かっとるんし、信じられるんよ。
 せやけど、私に全く責任がないとはいえへん。 それを 私が忘れたらいかんと思うんよ」
 幼い身でありながらも、自身に課せられる義務を背負おうとする 主はやて。
 それは 私達が初めて自身の意志で望んだ主の姿。 その 主はやての言葉に対し、私や烈火の将が答えるよりも早く、すずかが その口を開く。
「そうかもしれないね。 だけど はやてちゃん、貴方に全責任があるわけじゃないでしょ?
 本当に悪いのは、それなりの立場に居るいい年した大人の癖に、9歳の幼女に手を出そうとする変態さん達だよね」

 ここには居ない、顔も見えない第3者に対して すずかが言い放つ。
 主はやてへのフォローにも聞こえる それは、はっきり言うまでもなく猛毒だった。

「「すずか(ちゃん)大丈夫(なん)?」」
 少々……以上に引き気味の 私達守護騎士に対し、主はやての友人達は 私達以上に勇敢だった。
「全く、そんなツマグロヨコバイみたいに寄生して植物枯らしちゃうような人間の屑達が、社会的に立派な地位にいるなんて、本当、世の中って不思議なんだよね。 もう、プチっと潰してしまえば良いのに…… でも残念なことに、ああいうのって潰しても潰してもキリが無いんだよね」
 呆れ果てヤレヤレと、軽く首を左右に振るう その姿が場に不釣り合いなほど爽やかだ。
「すずか…… アンタ、相変わらず『敵』として相手には容赦って言葉がないわね」

 初秋の木々のように、うっすらと頬を紅葉させながら優しく微笑みながら小川の如くサラサラと流れる すずかの言葉は厳寒地に吹雪く地吹雪の如く冷血冷酷で、アリサの言うように一切の容赦が無い。
 一体、この少女の頭の中ではどのような地獄絵が完成しているのだろうか?
 想像するだけで体感温度が数度低下するような感覚を得てしまう…… これは恐怖か? なんと末恐ろしい。

「あはは 『思いやり』って言葉を理解しようとしない相手に そんな気遣いはもったいないよね。 豚に真珠をあげるような真似、私にはもったいなさ過ぎて出来ないよ? もったいないお化けが出て来ちゃうよ」
「……」
 俯き、その表情の捉えきれない 主はやての肩が細かく震えている。
 泣いているようにも見える その姿。 けれど、一部感覚を共有する 私に伝わってくる その感情は……
「ほんま素敵やわぁー」
 『歓喜』だった
 すずかの笑顔が、ついに 主はやてへと感染する。 否、これは感染と言うよりも共振と言った方が、より正しいのかもしれない。
 共鳴する想いが互いに互いを際限なく増幅しあう
 私は、主が言うように友人達に『すまない』『申し訳ない』と思うのと同時に、内面では そのような状況に追い込む全ての『敵』に対し、どのように対処し、どうやって効率的に排除していくのかが何層にも渡って渦巻いているのをビシビシと感じ言いようのない感情に震える。
 既に渦巻くだけでなく、私達は私達と その周りの安全を確保するため、その幾つかを実行へと移している。
 自分達が『綺麗だ』『汚れていない』と言うつもりはない…… つもりはないが、『すずか』の存在に連鎖反応を起こし、相乗効果になるかもしれない……という事実に酷く不安になってくる。

(大丈夫ですよね? 主はやて 本当、お願いします)

「「ウフフフフ」」
 物凄く楽しそうに、妖艶ささえ含んで微笑み続ける2人の笑いを、私は律儀に記録し続ける。
 正直、何らかの行為に没頭していなければ狂気に陥りそうな感じなのだ。
 ん? 烈火の将、剣を持つ手が小刻みに震えているぞ?

「あのさー そろそろ本題に戻らない?」
 記録用ノートに書き込む文字に異常な筆圧が掛かり続ける中、アリサの声が正しく天の声に聞こえる。 貴方は正に 私達の女神…… うむ、このナイスな発言には『GREAT』と書き込んで置こう。

(ドイツ表記じゃない? まあ、気にしないでくれ…… 余裕がないんだ)

「あッ!? ごめん、そうだよね。 はやてちゃんと話していると楽しくて、つい脱線しちゃうんだよね」
「あー もういいわ。 詳しいことまで聞いていたら、本気で気が滅入りそうだし。 今は、とにかく話しを始めましょう」

 ようやく本題に戻り、烈火の将が彼女としては不釣り合いな程、あからさまに安堵の表情を浮かべ、私の心拍数(あれば)も平常値へと戻る気配を見せる。

(ようやく本題か…… さあ、気合いを入れて記録を取るとしよう)

「せやね。 せやけど実際問題、ここまでしっかりとした流れが形成されている以上、無理矢理に それを堰き止めたりするのは ちょう無理やろうね」
「確かに。 なのはちゃん、フェイトちゃんの関係を支援する動きは、管理局の中堅以下に物凄い勢いで浸透しているみたいだから、ちょっとやそっとの動きなんかじゃぁ アッという間に潰されちゃうよね」
 すずかが 主はやての言葉に同意する。 そして、額を付き合わせるように シリアス・トークを展開。 どうやら本当に本気に考え始めたようだ。
 でも、それは 私達の精神衛生のため、出来れば最初から その調子でやって下さい。

「つまりは、流れの方向をずらすってこと?」

 アリサの言葉に 主はやて、すずかが会話を中断する。
 目を丸くし、無言で アリサの顔をジッと見つめ続ける。 その様子に アリサも思わず黙り込み、話し合いには似合わない静けさが辺りを支配する。

 何時も何時でもどこででも快活で朗らかな 主はやてが黙り込むと、少しばかり怖いと思うのは ここだけの秘密だ。

「それや アリサちゃん! それ正解やで!」
 アリサの小さな呟きに、主はやてが弾かれたように硬直、直後に右拳を強く握りしめながら絶叫をする。 それはきっと、この場が結界で現世から切り離されていなければ、マナー違反で一発KO図書館から閉め出されているような大きな声。

(主はやてのテンションも、とうとうMAXにまで達したようだ…… つまりは大惨事確定か?)
 心の中の呟きに『そら酷いなぁ リイン』と言うツッコミが入ったような気がし思わず硬直、筆跡が僅かに乱れる。

「「はやて(ちゃん)?」」

「なぁ 2人には、なのはちゃん、フェイトちゃんの関係って どう見えてるんや?」
 注目が集まる中、主はやては別の切り口から その問題に切り込もうとする。
「どうって? どこからどう見ても、仲良しさんだよね」
「そうね。 少しばかり なのはが過保護な感じがするけど、私達と同じ『親友』って言っても良いような関係じゃないかしら」
 主はやては2人の言葉に満足げにウンウンと頷く。 どうやら その言葉は 主はやてにとって満足のいくものだったようだ。
「アリサちゃん、ほんまええとこつく。 『過保護』、これがキーワードやね」

 主はやての口元が三日月を形造り、ついに動き出す。

「はやてちゃん? うーん、どうやら私達の知らない情報を持っているみたいだね」
 すずかの眼光が妖しく輝き、怪光線のような視線が 主はやてを捉える。
「そや、あんま有り難い繋がりとは言えへんけど、私達は管理局と少なからず繋がりがあるんよ」
「それで? はやては何を知っているの」
 すずかの視線を悠然と受け止め続ける 主はやてに横側から アリサもまた疑問をぶつける。

「管理局の動きを少々……やな」
「それって大丈夫なの?」
 主はやての言葉を聞き返す その表情が僅かに曇る。
 アリサは、思わせぶりな態度をとる 主はやての安全を本気で心配しているようだ。 その自然な気遣いは 流石、烈火の将が見込んだ少女だと思わせる。
「問題あらへん。 少なくとも向こう側は そう感じる程度のことやよ」

 実は そうでもない。
 それは大切な友人達に必要以上の心配をさせないための詭弁。
 時折、『高町なのは』が周りを傷つけないために付く嘘と同質のモノ。
 主はやても含め、私達 守護騎士も結構危険な橋を渡っている。 けれど、それでも何もしないまま流される方が危険であるが故に、『動かない』という選択肢だけは取るわけにはいかない。

「無理をするなとは言えないけど…… あんまり心配させないでよね」
 言葉に隠された何かを感じ取ったのだろうか? アリサは溜息混じりに 主はやてを窘める。
 学校においても、普段からリーダー格で面倒見の良い アリサとしては、『なのは、フェイトの他に、ここにも 私の心配の種が……』といった心境だろうか?

 残念ながら、今現在は暴走する 主はやてと すずかに押されッ放しではあるが。

「ありがとう」
 主はやては おそらく、その全てを理解したうえで、アリサ、すずかに『ありがとう』の言葉を使っている。 それは強さを孕んだ優しさ、優しさに包み込まれた固い意志。
 アリサに微笑み返す 主はやての表情は、どこまでも穏やかで、静かに落ち着いて……
「……でな、私が言いたいことは なのはちゃん、フェイトちゃんに萌える局員さん達の趣向が必ずしも一致してないってことや」
 でも、吐き出す言葉は徐々にドス黒く変色しつつあり、その発言は掛け値無しに危なかった。

「趣向っ『流石 はやてちゃん!!』て!? すずか?」
 すずかが無理矢理に会話へと割り込む。 その意外なまでの強引さに、普段の彼女を知る アリサも思わず目を瞠る。
 普段は落ち着き、外見及び その実年齢以上に、それも普通の9歳児よりも大人っぽいであろう 主はやてを含む、他の3人よりも成熟している すずかが、ここまで強引に、しかも両手を強く握りしめガッツポーズまで取っている光景はかなり珍しいのだろう。 しかも、その瞳は炎のように紅く紅く燃え(萌えかも?)上がり、頬も熱く紅潮している。
 一体、何時の間に彼女は ここまでの熱血仕様に入れ替わったのだろうか?

(十中八九『なのは』関係なのだろうな)
 主はやてが2人に増えたような錯覚を受け、疲労と絶望感が2乗に増幅される。

「ウフフフフ ここで生きてくるのが『過保護』や!!
 つまり、現時点では なのはちゃんの優しさが女性に対するモノやなくて、見ようによっては『肉親』!! 可愛い妹への優しさ!! 見ようによっては『シスコン』に見えかねないってことやッ!!」
 ドドォォォォン!! と、大迫力で言い切る 主はやて。

(ですが、主はやて…… 『保護』の対象と見られているのは、フェイトだけでなく、主はやて、アリサ、すずか、つまりここにいる他の3人も同様なのでは?)

「「ッ!?」」

 どこから来て、どこに根拠があるのか全く分からずとも、その大海のような広く深い圧倒的なまでの自信が アリサ、すずかの動きを止め、硬直させる。
 ド迫力という名の津波と等しい衝撃が少女2人の胸を打ち、その心を大きく揺さぶり翻弄する。
 かく言う 私の筆圧も その迫力に思わず文字が波打っている。 恐怖の感覚は意外に根深く、無意識かにまで刷り込まれているようだ。 更にずっとスルーされ続けている 烈火の将も…… ああ、尋常でない汗の量、既にいっぱいいっぱいを乗り越えて顔が真っ白だ。

「シ、シスコンって…… 確かに そうんな風に見えないこともないけど」
「逝ける、それ逝けるよ はやてちゃん!! 近親相姦ネタなんて…… 確実に管理局内の勢力を2分すること確実だよね!!」
 狼狽えながらも『シスコン疑惑』については敢えてフォローを入れない、入れることの出来ない アリサ
 水を得た魚のように、更に生き生きと笑顔が栄え始める すずか
 2人とも、心を揺さぶる大波を自分なりに乗りこなしているように見える。

 『高町なのは』と言う名の心揺さぶる大波が乗りこなされる日も遠くないのかもしれない。
 その前に熾烈な戦いが起こるのは確実であろうが……

「私も すずかちゃんに理解して貰えて嬉しいでぇ」
 シェイクハンド。
 その理解の度合いを示すかのように 主はやてと すずかの手がガッチリと握り込まれる。
 バックに荒岩に叩きつけられる大波が見えそうだ。
「うん、うん、うんうん。 これで上手くいけば、充分足並みが乱れるよね」
 主はやての手を取り、笑顔で答えるのは 月村すずか。
 このまま条約締結か?
 威風堂々足る両者の態度に、私は思わずありもしないはずのカメラを探そうと辺りを見回してしまう。
「そや、しかも なのはちゃん、フェイトちゃんの笑顔を曇らせないいう共通の鉄則に触れることもない。 現状で取りうる最善の策やろ?」

 その通りです 主はやて。
 現在、2人のファンクラブは巨大で管理局の末端にまで浸透している。 それ故に幾つかの派閥に分化し、それぞれがしのぎを削り合っている状況。 それでも、1つの巨大な組織として成り立っているのは『2人の笑顔を曇らせない』という、3名の魔女によって魂の奥底まで刷り込まれた鋼の掟。

「あのさ、2人とも? それだと なのはが周りからシスコン扱い確実になるじゃない?
 もし管理局で働くようなことになったら迷惑がかかるんじゃ……」

 急上昇したテンションに完全にノリ遅れた アリサが、腫れ物を触るような慎重さと妖しいモノを見付けたかのような気遣いで会話に割り込もうとする。
 1人でも持て余し気味なのに、2人では…… 流石に この状況は アリサでも手に負えないかもしれない。
 私が アリサをフォローして 主達を治める?
 私は書記、記録係。 それが この場所での 私の1番の役割。 主役でない 私は余計な発言は慎まねばならない。

 さて、私は 私の仕事に専念しよう…… 決して、関わり合いを避けた訳ではない。

「「はぁ……」」
「って、何!? その心底呆れ果てたような溜息は!!」
 溜息が重なり合い、その瞬間に絶妙なタイミングで アリサがツッコミを入れてくる。
 打てば響くような人物とは、きっと アリサのような人のことを言うのだろう。 その真っ赤になってツッコミを入れ続ける彼女の様子が、高温で熱せられた鉄を想像させる。
 熱せられ、叩かれて鍛えられる鋼鉄を思い浮かべ、是非、我ら守護騎士を護る鋼へと鍛え上げられて欲しいと切に思う。 正直、最近の盾の守護獣は押されッ放しで少々頼りないんだ。

「「アリサちゃん?」」
 信じられないモノを目にしたように、驚愕、愕然とした2対の瞳が アリサに向けられ……
「そろそろ自覚しようよ?」「勝負って非情なものやでー」
「だから何なのよぅ もう!!」

 憐れみの言葉が投げかけられ、アリサは もう訳が分からないと両手を振り上げ長机をバシバシと連打する。 その世間一般でははしたないと言える そんな仕草も上位に位置する美少女である アリサなら、可愛いらしいと感じてしまう辺り、彼女はかなり得をしているだろう。 まあ その分、厄介事を抱え込むことも多くなるのだろうが。

「まあ、アリサちゃんのツンデレっぷりはおいとこか」
「勝手に納得して、おいとかないでよ!!」
「まあまあ、落ち着いて。 それで 私達は何をすれば良いのかな?」
 ツッコミ全開で、過剰に興奮気味な アリサを、すずかが両手で その肩をポンポンと軽く叩きながら優しく宥める。 けれど、どうどうと落ち着ける様子が、暴れ馬のそれに対する対応に見えなくも無いのは 私の気のせいだろうか。

「うんとな、管理局への仕込みは 私達(主にシャマル)でするから……」
「うんうん」
「本当にノリノリね 2人とも」
 スイッチを入れ替え、からかいモードを終わらせる 主はやて。
 具体的な例を挙げ、1つ1つ その対応策を幾つか示す 主はやてと、それぞれに頷きながらも時折、補足を加えていく すずか。 その作業は淀みなく、アリサが思わず溜息混じりに感心してしまうほど熟練し手慣れたようにスムーズだ。

「それで、アリサちゃんには撹乱をお願いや」
「……はい?」
 主はやて、すずかの会話の中、突然フラれた話に アリサが呆けた声で聞き返す。
「勿論、すずかちゃんも、私も手伝うで」
「うんうん」
 話しが全く見えないまま 主はやてと すずかを交互に見回す アリサに対し、その手伝いを依頼された すずかは納得顔で頷く。 その表情は当然の如く、主はやてと同様の満面の笑みだ。

「いや、だから 撹乱って…… 何を?」
 アリサは意を決して行動を起こす。
 この世界の諺に『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』と言うモノがあるが…… アリサが見せる表情は羞恥というよりも、その主成分は引いているだけのようだ。
「具体的には なのはちゃん、フェイトちゃんのカップリングを狙う最大勢力のトップ クロノ君、エイミィさんやね」
「まあ、お代官様、流石ですわ。 では その御方法は?」
 アリサの発言を触媒に、主はやて、すずかが次のステージに入る。
 他者の進入を拒む独特の空気が2人を包み込み、ツッコミすらも封じ込めてしまう。
「オホホホホ 月村屋でええかな? まあ、一言で言うと クロノ君、エイミィさんの2人をくっつけてしまおうと」
「わぁー!? それなら確実に足並みが乱れそうだよね」
「せや。 時間稼ぎには充分やら…… そしての その時間を 私達で有効利用するんやよ」
 朗らかに微笑み合う。 楽しそう、楽しそうだ。 こんなに楽しそうで生き生きしている 主はやてを見るのは久しぶりかもしれない。
 だが、なんだか 主はやての背中に黒い翼が見えるような気がする。
 今は 私とユニゾンしていないはず……だよな?

「「クフフフフフ」」

「……アンタら さっきから双子の姉妹以上に息がピッタリよね」
「そやね、むしろ魂の片割れ?」「そうだねぇー 同士とかかな?」
「満面の笑顔で肯定するようなことじゃないよ!!」
 お互いに顔を見合わせることもなく、同じタイミングで『ねぇー』と頷く小悪魔2体に アリサは風に流れる木の葉のように翻弄され続ける。
「打てば響くような この反応…… あぁ ほんま、なのはちゃんの次に弄りがいがあるわー」

「そぉおいうことじゃぁなぁくてぇぇぇーーーッ!!!」

 主はやて=すずか>アリサ>>>>>なのは (フェイトは状況によって変化)
 私の脳内でヒエラルキーが確立されていく。 状況によって変化はあるのだろうが、日常ではこれで確定なのだろう。 まあ、楽しそう(?)…… だから良い、のか? ああ、良いってことにしておこう。

「まぁまぁ 落ち着いて、アリサちゃん。 アリサちゃんの言いたいことは分かるよ。 『なのはちゃん、フェイトちゃんにされたように、第3者が無理矢理 クロノくん、エイミィさんをくっつけるのは良くない(あくまで3人の主観)』ってことだよね?」
 訳知り顔で話す 主はやての言動がツッコミを誘導するが……
「そうよ! それよッ!! 勝手に『その辺も抜かりなく調査済みやッ!!』……はやて?」
 それ以上に気合いに満ちた声が アリサのツッコミを覆い尽くす。

(うーん、アリサは完全に 主はやてのペースに踊らされてますね)

「あの2人、実はちょうラブラブなんよ? リンディさんも『面白そうね』って公認してくれてるんやし、 むしろくっつかない方が不自然や」
「リンディさん、酷ッ!? あれ? でも、クロノって小6で、12歳じゃなかった?」
「アリサちゃん…… それ聞いたら クロノ君、多分泣き崩れるんじゃないかな?」
「えッ!? 何で!?」
 主はやての クロノ暴露話を皮切りに、色恋話に盛り上がる。 これだけ見れば、年頃の少女達に見えないこともない……こともない、はず。

「忘れてるみたいやけど…… クロノ君、あれで15歳やで?」
「あ……」
 アリサの瞳孔が驚きに広がる。
 同じ学年に編入してきたという事実に、クロノの実年齢を完全に失念しているようだ。 まあ、クロノは年齢の割には小柄で、なのはの性別ほどでなくとも間違うことを否定出来ないだろうが。

「見た目はアレだけど、私達より6歳も年上で、ミッドチルダの一般常識では充分大人なんだよねぇー クロノ君は。 しかも『執務官』って、かなり高給取りなんでしょ?」
「高給取りやよ。 素質のある人間が実績重ねて推薦受けて、それでようやく試験開始や。 まあ、時空管理局は実力主義で、才能があれば年齢を問わへんから クロノ君位の歳でも試験に受かれば 『執務官』いう それ相応の地位に付けるみたいやね」
「へぇ、エリートなんだ?」
 小さなレディ達は『女性は現実的』という言葉を実証するかのように クロノの収入や地位、将来性まで論じ始める。 かなり好き勝手、言いたい放題であるが、彼が有能な人材であることは事実で、それに代わりはない。
 だが、その事実を改めて確認してさえも、激務で疲労困憊な『中間管理職』というイメージが全く払拭されないのは何故だろう?

「そうやよ。 まあ、天才肌っていうよりも、努力の人って感じみたいやけど」
「やっぱり、そういう努力の人で、管理局内での はやてちゃんや フェイトちゃんの立場を守ってくれそうな人には、精神的に支えてくれる人。 内助の功ってヤツも大切だよね?」
 主はやての言葉に相づちを打ちながら、それを補強していく すずか。 彼女の中では、クロノ、エイミィをくっつけることが既に確定しているのだろう。

 主はやては、心強い味方(暫定的)を得ることに成功した。

「言いたいことは理解出来たけど…… ずいぶん楽しそうね?」
「楽しいよ? だって、クロノ君って なのはちゃん並の朴念仁だもん。 やりがいがあるよ!」
「そうやぁー。 この経験は将来、必ず役に立つんやし!」
 アリサのジト目に対し真っ正直に答える すずかと、花嫁修業だと頬を赤らめ頷く 主はやて。

(主はやて…… 資料漁りだけで満足出来ず、クロノ執務官で なのは攻略の経験値を貯める気なんですね?
 この勤勉さを、果たして認めても良いモノだろうか?)

「……妙に力が入ってるわね」
「……で アリサちゃんはどうするん?」
「うん、アリサちゃんが なのはちゃん、フェイトちゃんの間を素直に祝福したいって思うなら無理には勧めな『やるわ!!』 それでこそ アリサちゃんだね」

(誘導されてる。 完全に誘導されてる。
 アリサ、例え恋愛関係の戦いでも主導権を奪われ続けるのは圧倒的に不利なんだが……)

 こうして、後に作戦命『黒の(クロノ)場合』と呼ばれ、多くの波乱を巻き起こし、更なる深い混沌を呼び込むことになる クロノ×エイミィ・カップリング作戦が 主はやて主導により、今ここに立ち上げられることになる。 そして、その被害の中心となる人物達は…… まだ、このことを知らない。

 物語は次の段階へと移り変わっていく。

【おまけ】

「う、うぅぅん」

 私は大きく息を吸い吐き出し、何かもどかしさを感じて身じろぎをする。 まったりと身体全体を優しく包み込むようなぬくもりと、僅かな圧迫感が睡魔を追いやり意識が急激に覚醒していくのを感じる。 それと同時に何時間かの休息により、それまで全身を襲い続けていた痛みが確実に減衰しているのを実感出来る。

「ふぁぁぁ…… よく寝ぇぇ ほにゃ?」
 うっすらと瞼を開くと目の前に良く知る友達の顔があった。
「くぅ くぅ くぅ くぅ」
 覚醒した聴力が小動物のような可愛らしい寝息を耳に捉える。 その呼吸に合わせ金糸のように艶やかで美しい長髪が時折、私の頬から首筋辺りまでを優しく撫で、瑞々しさと弾力を持った滑らかなほっぺが 私の左頬にスリスリと軽く擦り付けられる。 そのくすぐったさと心地よさの同時攻撃にゾクゾクと震えが走る。

「えぇぇ……と フェイトちゃんって睫が長いんだ、ね?」

 状況が全く理解出来ず、新たに得た フェイトちゃんの秘密を呟きながらも、新たな情報を求めるために右側に視線を向けようとして、私は再び固まる。

「うぅーーん」
 こちら側にも顔があった……
「……W、WHY?」

 私、両腕で腕枕? 腕が痺れているのは疲労や筋肉痛じゃなくて?
 どうやら、新たに与えられた情報は 私の言語中枢まで混乱、麻痺させたみたいだ。
 ぬくもりを求めるようにむずかる その仕草は普段は凛々しく大人びて見える彼女が年相応か、それ以下の年齢に感じられる。
 フェイトちゃんと同じ金髪もすぐ近くで感じれば色合い以外にも、あるいは その頬すりから感じる肌の感触も僅かな差を感じ取ることが出来る。
 その違いは言うなれば陶器とシルクとの差だろうか?

「アリサちゃんって、表情筋が緩むと本当に深窓のお嬢様っぽっく……んにゃ?」
 アリサちゃんの頭の重みに感覚が麻痺していたのか、ようやく右手が握りしめられているのに気付く。

「すぅー すぅー んぅー」
 アリサちゃんの後ろ側から、深い黒みを持った長髪が視界に入る。

「すずかちゃん? ……柔らかい?」
 両腕で抱きしめ身体全体で包みこまれた 私の手の甲に、なんだか弾力を持った柔らかい感触が伝わってくる。
 一体、私の右手はどこに触れているんだろうか? それ以上考えを進めることに物凄い不安を感じ、私は そこから考えることをやめる。

(見えない、見えない、私は何も見えていない。 うん、『忘れる』ってのは、人間にとって大切なことだよね)

「むにゃ…… はやてぇ ごはんまだぁー」
 お腹の辺りから寝言が聞こえてくる。
「ヴィータちゃん、お願いだから 私を囓ったりしないでね?」
 私の腰を小さな両腕でガッチリとホールドしている ヴィータちゃんの寝言に戦慄を感じ、ツッコミを入れずにはいられない。
 成長期真っ直中なのか、ヴィータちゃんの食欲は底知れない。

「あなたぁー お食事にする? お風呂にする? そぉれともぉ、わ・た・し?」
 今度は胸の辺りから寝言が?
「はやてちゃん。 それ寝言……だよね?」
 ヴィータちゃんごと抱きしめるように包み込んだ はやてちゃんの顔が、私の顔のすぐ下。 胸の辺りにある。
 時折、背中に回された はやてちゃんの手が優しく蠢く辺り、本当は起きているんじゃないかと思ってしまう。

(どんな夢見ているのよ はやてちゃん)

「知ってる天井…… 私の部屋、私のベッド、なんだよね?」
 徐々に覚醒していく身体が、みんなの感触を、ぬくもりを確実に伝達し始める。
 思考が湯沸かし器のように瞬間沸騰し、額に、背筋に汗が垂れ落ちるのを感じる。
 私は、みんなから視界を無理矢理引き剥がし、唯一の安全地帯である天井へと視点を移すことで少しでも精神の安定を謀ろうとするが
「九九……
 いやダメ、素数……
 ううん、周期表なら 1族、エッチ(H)でリッチ(Li)な(Na)彼(K)女は、ルビー(Rb)をせし(Cs)めてフランス(Fr)へ。 2族、ベッド(Be)にもぐっ(Mg)たら彼(Ca)女のスリッ(Sr)トバ(Ba)ラ(Ra)色だ…… って、族順じゃぁダメだよ!?」

 完全なまでの墓穴。 泥沼だった……

「あまり大声で騒ぐと、主はやて達が起きてしまいます。 静かにして下さい」
 落ち着きのある澄んだ声が頭に響き、冷水の如く 私の思考を冷却する。
「リイン……さん?」

 不覚にも 私は初めて そこで気付く。
 美しく伸びた長い銀髪を頭の頂点で結い上げ、眼鏡を掛けた、普段よりもきつめに見える女性。
 どうやら、やり手の秘書か教師の格好をしているらしい…… リインさんが そこにいた。

「主はやてを含め、他の2名の御友人達も決闘が始まるまで貴方達のことを心配し、更に決闘後は貴方達の怪我の具合を不安に思い、ここに来るまでほとんど寝ておられないご様子…… 出来れば、主達が目覚めるまでこのままでいて下さい」
「あう、それは……」

 その言葉が、『どうしてこんな状態になってしまっているのか』尋ねることを 私に躊躇させる。 確か、フェイトちゃん、ヴィータちゃんとトランプを楽しんで、久しぶりに楽しい時間を過ごして、少し疲れたから横になっていたはずなのに……
 横になる前に部屋に散らばっていたはずのトランプも、そこら辺に散らかっていたはずの ヴィータちゃんが持ち込んだ荷物までも、全て綺麗に片づけられている。 どうやら、状況はかなり変化していたようだ。

「よもや…… 心配してくれた友人達を無碍に扱うようなことはしませんよね?」
 質問というよりも、むしろ確認という意味を込めて リインさんは問いかける。
「で、でも 夏日に この状態は暑すぎなんじゃぁ……」
 それは角度を変えた弁明。
 私が汗を掻いているのは事実…… 冷や汗だけど
「問題ありません。 凍結魔法を応用して室温は12度固定です」
「道理で異様なまでに涼しいと……」
 サラリと答える リインさんの口元が微かに歪む。 でも、流石に12度は設定温度としては低すぎるんじゃないだろうか?
 みんなが密着しているせいで寒さの欠片もないけど…… ああ、心臓が過負荷で破裂しそう。
「後、室内に放置されていた蠢く黒髭人形は外に干しておきました」
「密封ビニルで完全に干からびそうだね…… まあ、良いけど」
 エスケイプ、というよりむしろ放り出された奴を少しだけ羨ましく思えるのは 私の我が儘なんだろうか?

 心臓がバクバクと激しく打ち鳴らされるのが分かる。 耳に手足の指先にまで血液が激しく流れ込むのを感じ、そのあまりの激しさに心臓が飛び出してくるような錯覚を覚える。

(ま、不味いよ…… このままじゃ、間が持たないよぉーーーッ!?)

「あの……さ。 なんでさっきから リインさんはビデオカメラを構えたままなの?」
 そして、私は今まで敢えてスルーしていた話題に触れてしまう。
「正確には 主達が寝入ってからですから1時間ほどですね」
「いや、だから その理由は?」
 ヤメロ ヤメロ という、心の奥底から響く本能の叫びさえも、左右や上半身、下半身から感じる みんなのぬくもりに揺れる心には到底適わない。
「ふぅ…… この後、私は3人分ほどデータをコピーしなくてはなりません」
「うん、分かった。 黒幕、分かったから言わないで…… お願いだから」
 珍しく慈悲に満ちた瞳で話す リインさんを誠意の篭もった言葉を用い その口を塞ぐ。

 結果、聞いても聞かなくても地獄だったのは言うまでもない。

「ねぇ、リインさん?」
「はい」
「もしかして、解決方法とか、奇跡の満塁サヨナラホームラン的な事を知っていたりしないかな?」
「耐えて下さい」
「……はい」

 蜘蛛の糸は完全に断ち切られ、神も死んだ……

「なのはぁ くぅ……」
「んぅー 心配……させないでお」
「すぅー すぅー なのはちゃん、うふふ」
「ぉぉ すきやきだぁーー」
「なのはちゃん…… 激しすぎやぁー」

 私、『高町なのは』の試練の刻は続く。 でも、部屋の外で シグナムさんが あの格好で、頬を赤く染め、全身を震わせ、血涙を流しながらも、ずっと 私達の警護に立っていると聞き…… 不覚にも少し、ほんの少しだけ救われた気持ちになってしまったのは、私の醜さだろうか?

 いや、ほんと…… 誰か助けて下さい。 お願いします。

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